俺という人間
「うぅぅ…かはッ…」
静寂なゴミ溜め…基、俺の部屋で響くのは椅子にもたれ掛かっている、たぶん俺のうめき声。
たぶんっていうのはもう意識も朦朧としていて自分のかもはっきりしていないからだ。
手からカラカラと落ちていく大量の薬の錠剤。
そうか、俺…自殺を図ったんだな。
もうどうでもよくなったんだな、何もかも。
はぁ…来世に期待…か。もうお腹いっぱいだけどな。
トントン。
ガラガラ。
襖が開いた。そして誰かが入って来た。
「京、今日も奈央ちゃん来てくれたわよ。ありがとうくらい…」
部屋に入って来たのはたぶん俺の母親で、倒れ掛かる俺を見て硬直した。
次第に目からは涙が溢れ必死になって父を呼ぶ。
あぁ…なんでかな。久しぶりに母親の顔をちゃんと見た気がする。
………
ごめんな、こんな息子で。
ごめん、父さん。母さん。
○○○
「…んばれ!あとも…少しだ…!」
「フン…ン!アアァァァ…!」
声が聞こえる。
二人いる。男と女。
聞いたことない声だな。
「見えてきたぞ!もうひと踏ん張り!」
「アアァァァ…!クッ!」
次第に二人の声がはっきりしていき、視界も明るくなっていく。
なんだこれ、なに見せられてんだよ、俺は。
パァっと開けた視界におそらくさっきの声の主たちがいた。
「男の子ですよ!」
「ティラ…!」
「もう泣かないでよ」
二人は抱きしめ合い、俺をのぞき込む。
ええい、なんなんだってんだ。
二人に向かって手を伸ばす。
「あう」(あれ)
○○○
状況を整理しよう。
俺はたぶん死んだ。
なのに気が付くと知らない世界の知らないやつらの赤ん坊として産まれた。
ふむふむ…
「あうあ!」(わかるか!)
「あぁあぁ…ほうら、パパでちゅよう」
ぶっちゅうとキスをされる。
うざい。俺を抱くこの男が俺の父親。
テルズと呼ばれていた。
「もうあんまりはしゃがないの」
ベットで横になっているのが俺を産んだ母親。
ティラと呼ばれていた。
どうやら本当に俺は別の世界に来てしまったようだな。
…これからどうしよう。
○○○
それから二年の時が流れた。
赤ん坊の記憶なんてそうそうないものだから俺は貴重な赤ん坊生活を送っていた。
そして二年一緒に住んでいてなんとなくわかってきた。
父親はテルズ・カイネファルベ。いつも剣をぶら下げていることから剣士とかそういった類だ。剣術の練習を来ている感じ超強そう。
母親はティラール・カイネファルベ。美人だが時々男勝りな部分があってちょっと怖い。たまに俺に魔術を見せてくれる。
そして俺が産まれ、育ったここはカワガスという村。
「アル。もう寝る時間よ。いらっしゃい」
「はーい!」
この世界、この生活にもだいぶ慣れてきた。
ベットに入るとティラールが傍らに本を開く。
いつもこうして寝付くまで話し相手になってくれたり、本を読み聞かせたりしてくれる。
ティラ―ルとテルズは6歳~18歳までシーマン王国というところのアリア魔剣学園に在籍していたらしい。そこで出会ったとか。
ま、そんなこともあり二人とも頭がいい。
勉強にもなるしこの時間は貴重だ。
「今日はこの世界について話してあげるわ」
「はい!」
「この世界は大きく分けて人界、天界、魔界の三つに分かれているわ」
「人族以外にもいるのですか?」
「ええ、過去人界、天界、魔界は分けられることなく同じ世界で暮らしていたわ。でもね、そのせいで種族間の争いは止まなかった。それを人神のアルカラルカ様、天神のシャリーロ様、魔神のデル様が大きな壁でこの世界を三つに分けたとされているの。」
「人神…って同じ人族…なんですか?」
「ええ、でもなりたくてなれるものじゃとてもないわね。今現在も人神と呼ばれているのはアルカラルカ様のみね。実際のところ本当なのかおとぎ話なのか母さんにも分からないけどね」
「母さんは人族以外に会ったことはあるのですか?」
「昔、母さんと父さんはアリア魔剣学園というところに通っていたって話したわよね。あそこでは交換留学システムがあったから何度かはあるわ」
「交換留学…それは危険ではないのですか?」
「警戒してるのはお互いさま。わざわざ数人で来て戦争吹っ掛けるほどのバカを母さんは知らないわね」
ハッとティラ―ルは笑った。
警戒してるってことはまだ全然停戦状態なだけなんだな。
一目見てみたい…ってのはあるな。
「それにしても話しておいてなんだけど二歳児に話す話題じゃないわね。産まれた時も泣かなかったし末恐ろしいわよ我が息子」
「ははは…」
ごめんな、流石に20代で産声は出せなかった。はずい。
いや中身の話だけどな。
○○○
「おはようございます。父さん、母さん」
「おう、アルおはよう」
「ごはんできてるわよ、いらっしゃい」
今日もいつもの日常が始まる。
父さんが剣術の鍛錬をし、母さんが家事をするそんな日常。
「ん、どうしたアル」
「い、いえ」
前世…のことはよく憶えていない。憶えているのは死ぬ直前だけ。
でもわかる。
親子そろって飯を食う。そんな普通がひどく懐かしい。
ポロポロ。
「あ、れ」
ガタッ。
「ど、どうした!」
「何か気にいらなかったかしら」
俺は自然と涙が溢れ、それを見て不安に思った二人が心配そうに席を立つ。
これが家族というものだろうか。
「い、いえ。少し目にゴミが入ってしまって」
「そ、そうか」
「本当に大丈夫なの?」
「ええ、いつもありがとうございます。」
いつも、というワードに不思議がる二人。
「なんだよ、変な息子だな」