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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

殺戮人形となった少女は謎多き男に愛される

少女は一人館へと向かった。

噂で聞いた「死の館」へと。

そこで出会ったのは──



 私は兄や姉と違い望まれて、生まれた訳じゃなかった。

 偶々できてしまって、堕胎予定だったがそれを止めろと五月蠅い周囲に言われて産んだだけの存在。

 そして、特に秀でた能力もない。

 故に「外れ」として扱われた。

 表立って「虐待」を見せることは両親や兄と姉はせず、陰湿に私を「虐待」してきた。

 私はその結果、何にも希望が持てなくなった。

 十六歳、私は親の許可が得れば結婚ができると言う年に、両親が「金」目当てに何処かの男と私を結婚させようとしてきた。


 私は、逃げた。

 捕まりたくは無かった、だから「死ぬ」為に逃げた。


 噂で聞いた「死の館」へと私は向かった。

 湖のほとりにある、屋敷。

 その周囲には建物は一つもない。

 誰も立ち入らないし、立ち入り禁止と書かれている。

 そこに入った人は誰も戻って来ないと言う。


 僅かなお金だが、其処に行ける必要経費は十分あったので、其処に向かった。

 私は立ち入り禁止の看板を進んで、屋敷へと向かった。

 コンクリートで舗装されている道を進んでいくと、屋敷の前に来た。

 普通なら門が閉められてて入れない、というのがありそうだが、門は開いていた。

 私はそのままその屋敷に向かう。


 念のためチャイムを鳴らす。


 すると、扉が勝手に開いた。

 私は中に入り扉を閉めた。

 埃一つ見当たらないし、埃臭くない、誰かがいるのが分かった。

 でも、扉の傍には誰もいなかったし、扉も普通の扉の様に見えた。

 それに、屋敷の中は明かりがついていたし、ロビーも広い。


「誰かな?」


 男の人の声がした。

 低くて、どこか優しい感じの男の人の声。


 声の方に視線を向ければ、真っ黒な肩までの長めの髪に、ルビーの様に赤い右目と、黄金色の左目、青白い肌の、形の良い顎髭を生やして、品の良さそうなそう、昔身分の高い人が来ていたような西洋風の服を着た壮年の男性が居た。


「立ち入り禁止、と書いてあったはずなのですが。道にでも迷ったのですかね、お嬢さん?」


 私は返答に困った。

 だって「死の館」と言われているなら、殺人鬼か、もしくは亡霊とかそういう危険な存在がいるからそう呼ばれていると思ったのに、出てきたのはそんな風に全く見えない男性だったからだ。

 どう答えよう。

 だって「死にに来た」なんて答えていい風には見えない、それに助けを求める方法なんて私は知らない。


 助けを求める言葉を、私は教えられていない――否、助けを求めるという事を奪われたから私はできない。


 答えかねて俯いていると、いつの間にか、男性は私の目の前まで来ていた。


 赤と金の目が私を見ている、哀れむ様に。


「――ああ、お嬢さん。君には『帰る場所』が何処にもないのだね。迷い子でありながら『帰る場所』が無いとは――ああ、これだから私は現世と人間共が嫌いなのだよ」


 男性の言ってる意味が、上手く理解できないけど、この人は人間が嫌い、という事だけは理解できた。


「帰る場所が無いのであれば、此処にいると良い」


 男性はそう言って私に手を差し出した。

 白い手袋をつけた右手に私は重ねるように、手をのせると、すっとつかまれ、そのまま案内される。


 おかしな屋敷なのが分かった、普通なら通路があるであろう扉を開けたら、屋敷の形状的にはそこにはない、綺麗な部屋があったのだ。

 男性は鍵を渡し、綺麗な赤い宝石と黄色の宝石の入った銀色のブレスレッドを私の腕につけた。


「行きたいと思った場所を思いながら、扉を開くといい。そうすれば君が屋敷の行きたい場所に行くことができる。ああ、でも私の部屋に関する場所には行けない、それだけは覚えておいてくれないかね?」

「……はい」


 男性の部屋に関する場所以外なら屋敷のどこでも行ける、と私は覚えた。


「お嬢さん、今日はもう休みなさい。衣類ならクローゼットや箪笥の中ので何とかなると思いますので」


 男性はそう言って部屋を出て行った。

 扉が閉じられ、私はクローゼットを開けると、ネグリジェと呼ばれるような服が有った。

 サイズ的に私がちょうど着れそうなサイズだ。

 私は着ていた服や靴下を脱いで、ネグリジェに袖を通して、そのままベッドに横になる。

 とても寝心地のよいベッド、柔らかな布団。

 移動で疲れ切っていた私はそのまま眠りに落ちた。



 目を覚ますと、明るくなっていた。

 血が繋がってるだけの「家族」からされてきた行為の夢でも見るかと思ったが、そんな事はなかった。

 目覚めもよかった、こんなに気分がいいのは初めてだった。

 扉をノックする音が聞こえる。


「はい」


 返事をすると、私をこの屋敷に泊めてくれた男性が部屋に入って来た。

 昨日のような恰好ではないが、それでも品のよく見える恰好をしている。

 ワゴンに何か料理と思われるものがのっている。


「お嬢さん、おはようございます。よろしければ朝食をどうぞ」

「え……あの、いいんですか?」

「勿論です」


 男性は微笑んで、テーブルに朝食を並べ、椅子を引いた。


「お嬢さん、どうぞ」

「はい……あの、貴方は?」

「ご安心を、私の方はもう終えましたので」

「……あの、本当に、食べて、いいのですか?」

「勿論です」


 用意された食事はパンに、温かそうなスープに、瑞々しいサラダにコンガリと焼けたベーコンと、ケチャップのかかったミニオムライス、それに透き通った水。


 賞味期限切れや腐りかけなどの、酷い味の食事とは比べ物にならない。


 量もちょうど良かった。

 完食し終えると、男性は食器を片付けながら口を開いた。


「朝ですが、入浴されてきてはいかがでしょう? 服は大丈夫そうなので、着ていた衣類は洗濯させていただきます。入浴時に脱いだ服は籠に入れて置いて下されば洗濯しますので」

「……あ」

「やはり、男性に下着などを洗濯されるのは嫌ですか?」

「いえ、そう言うのは、ありません……では、お言葉に甘えて……」


 私は昨日男性が言った言葉を思い出しながら扉を開くと、扉の向こうは脱衣所になっていた。

 扉を閉めて、ネグリジェと下着を脱いで、風呂へと向かう。

 広い浴室、温泉なのかお湯が沸いている。

 私は一度桶で体の汚れを流してから、体を洗って、洗い終えて泡などを流してから、お湯に浸かり始めた。


 温かく、落ち着く。


 夢でも見ているようだった。


 これが夢なら醒めないで欲しい、私はそう願ってしまった。



 入浴を終えると、着替えが用意されていた。

 綺麗なブラジャーにショーツに、シャツ、そして服。

 着るのが躊躇われる程綺麗だったけど、裸のままというのも嫌だったので私はそれらを身に着けた。

 鏡に映し出された私は、いつもの惨めな自分ではなく、どこかのお屋敷のお嬢様のように見えた。


 頭の中に今までされてきた事、今までの自分が浮かび上がって苦しくなった。


 それから逃げるように、私は扉を開いた。


 扉の向こうは、まるで庭園だった、室内庭園、というべきか。


「おや、お嬢さん。良くお似合いで、どうなさいましたか?」


 男性が居た、肩に見たことの無い鳥――否、鳥じゃない、けど鳥のような何かだ。

 アレは何なのだろう。

 その生き物は男性から離れ庭園の植物の中へ隠れてしまった。


「あの子は恥ずかしがり屋なので、すみません。お嬢さん、どうしましたか?」

「……いえ……その」


 私は上手く言葉を言えなかった。

 まだ一日も経過していないけど、こうして色々と面倒を見てもらっていることが申し訳なくなった。

 だけど、帰ったらきっと、私は酷い目に遭わされる。


 帰れない、帰りたくない、あそこには二度と帰りたくない。


「お嬢さん」


 男性が私に声をかけた。


「貴方を『虐げる場所』に帰る必要はありません、貴方は此処にいてよいのです、そう」


「死ぬ、まで――」







 男性とのこの屋敷での生活を始めて一か月が経過した。

 私は以前男性の名前を知らずに過ごし、男性も私の名前を尋ねる事はせず「お嬢さん」と呼ぶ。


 あの「家」でも私は名前を呼ばれる事はほとんど無かったが、男性の声や行動はとても優しくて、あの場所との扱いとは比べ物にしてはいけないと思うほどだった。


 最初の一週間は世話をされっぱなしだったが、それから私も男性の手伝いをほんの少しだけだけどするようになった。

 できる事は本当少し、掃除とか、洗濯物を仕舞うとか、その位。

 食器は食器洗い機があるし、洗濯機も乾いて畳んだ状態で出てくるから、仕舞うだけ。

 あの場所でやらされていた事に比べたら、楽すぎるけど、それでも男性は嬉しそうにしてくれた。


 お昼の三時になると、きまってお茶をする。

 見たことはあるけど、食べたことのない甘い菓子を口にしながら、男性とゆっくりお茶を楽しむ。

 あまり会話はしない、正直私は会話にするような内容を持っていないのだ。

 娯楽一つしらない。


 けれども、その時間は幸せだった。


 最初は暇を持て余していたが、最近は男性が「勉強」を教えてくれるので、楽しくて仕方ない。

 誰にも言わないという約束をして「秘密の勉強」も教えてもらった。


 嘘の様に聞こえるが幻想――魔法等そう言ったものを教えてくれている。


 男性の手に炎が灯るのを見た。

 氷の結晶が男性の手の上で見た。


 あまりにも幻想的だった。

 手品なんじゃないかとか無粋な考えはすぐ捨てた、だってとても綺麗だったから。


 私は、そんな充実して、幸せな日々を過ごしていた。



 一か月が経過したその日の三時のお茶の時、いつもなら穏やかに微笑んでいる男性が、何処か気難しい顔をしていた。

 私は何かしてしまったのだろうか?


「あ、あの……」

「ん? ああ、お嬢さん。貴方が何かしたから、という訳ではありません……が、貴方と関係がある話です」

「私と……関係?」


 私はこの一か月の間、直視する事を避けていた事を直視した。

 私が、この屋敷に来た、そもそもの「理由」否、「原因」を。


――まさか――


「……あの、もしかして……」


「――お嬢さんと血が繋がってるだけの連中が、お嬢さんを探して回ってる。ああ、警察などは使っていないようです。できるはずがないのですがね」

「……どういう、こと、ですか?」

「まぁ、連中はバレたら不味い事をやり過ぎてて警察に連絡して自分達の悪事がバレて将来が閉ざされるのを恐れてるんですよ。でもお嬢さんをよこせと貴方を差し出す予定だった相手が騒いでいる為、今必死に捜索しているのです、この近辺にまで足を運んでいるようで」


 心臓が酷く五月蠅く感じた。

 体が震える。


 嫌、見つかりたくない、連れ戻されたくない、また道具として扱われる人生に、戻りたくない。

 そんな人生、もう絶対嫌だ。

 別の人間になりたい。


 心がビキビキと音を立てる。

 昔なら耐えられた感触、だがもう耐えられない。

 幸せを、知ってしまったから。


「――お嬢さん」


 男性が私に声をかけた。


「――この一か月、私にとってはとても短い期間でした。ですが今まで生きていた中では、とても充実した時間でした」


 男性の言葉が分からない、何を言おうとしているのだろうか。


「――貴方が居ない生活などもはや考えられない程に私は貴方が愛おしくなりました。手放し、薄汚い生き物の手に渡すなど私は我慢できません」


「ですので、どうか、私のものになってください。永遠に私の傍にいて下さい。お嬢さん――そう『涙』という名前を捨てて私だけの存在になってください」


 名前を、捨てる?

 ああ……そうか、この私を縛り付けていた名前を捨てれるのか。

 うん、この人の物になってしまえばいい。

 あの「連中」の思い通りになるよりよっぽど良い。

 捨ててしまおう、今までの自分を。


「……はい、喜んで」


 男性は笑みを浮かべて立ち上がり、私の手を取った。


「有難うございます。ではそうですね――ラルカ。という名前に致しましょう。私だけの愛しのラルカ。この時より、貴方は永遠に――」


「私と、共にある」





 パキンと、何かが砕ける、音が、しました。

 同時に目から液体がだらだらと流れてきました。

 服に赤いシミが付着してしまった、ああ、どうしよう、せっかく「ご主人様」から頂いた服なのに。


「ああ、ラルカ。君は――」


「あの連中が憎くて、憎くて、たまらないのだね?」


 私の血涙をぬぐいながら「ご主人様」はそう言っていらっしゃる。


 憎い?


 ああ、ああ、憎い。

 私をこの世に産み落とし「ご主人様」と巡り合えたことだけは感謝致します。

 だが、それ以外はああ、憎い、憎いのです。

 奴らが、生きているのが許しがたい。

 私を虐げた血がつながっているだけの「人間」共。

 私を求めて金を出そうとした「欲深く」醜くく、下品な「人間」も。

 ああ、殺して、しまいたいのです。


「私が直々に手を下そうと思ったのですが――気が変わった」


 鞘に包まれた綺麗な装飾の少し長めの刃物を「ご主人様」は私に握らせてくださりました。


「ラルカ、君が殺しなさい。死体の処理だけ私がしよう。君の気のすむままに、殺しなさい」

「……はい『ご主人様』」

「その呼び方はあまり好きではないね……オディウム、呼んではくれないかね?」

「……オディウム……様」

「……まぁ、今はそれで妥協しよう。何せ――」


「これからは時間など気にする必要は、ないのだから。『人間』等という脆弱な存在と違って――」


 私は「ご主人様」――否、オディウム様の笑みに答えるように、笑いました。



 夜になると「害虫」達が、オディウム様の領地をうろつき始めました。

 普通の「害虫」なら無視すればよいらしいのですが、どうやらこの「害虫」は――嘗ての私の関係者のようです。


 ならば、逃がすつもりはありません。





「──は何処にいるのよ!」

「此処に来た事は調べがついてるのだが……」





 私は扉を開ける。


「──! 探したんだぞ!」

「そうよ! え、──?」

 何かしゃべっているがどうでもいい。

「私はラルカ、この場所の処刑人」


「オディウム様の領地を穢す蟲共め、死ね」

 貰った剣で首をはねる。

 女が何か悲鳴を上げて逃げ出すが、逃がさなかった。


 やって来た蟲共は全員殺した。

 私は血まみれのまま屋敷に入る。


「オディウム様、終わりました」

「ラルカ、よくやりましたね、さぁ湯浴みをなさい、汚れを落とさなければ」

「はい」


 衣類を脱ぎ、風呂で汚れを全て落とす。

 ネグリジェを身に纏いオディウム様の元へ行く。


「おいで、ラルカ」

「はい、オディウム様」


 ベッドに手招きされる。

 抱きしめられ、額に口づけをされる。


「私の可愛いラルカ、これからもずっと一緒ですよ」

「はい、オディウム様」




 それから、その屋敷には誰も入ることは無くなった。

 霧で包まれた屋敷に来られるのは、主が許す居場所のない者達だけ。

 そして彼らは帰ってこない。

 迎えに行った者は死体になって立ち入り禁止の看板の前に転がっている。


「オディウム様」

「ラルカ、私の可愛いラルカ」


 その屋敷の主人は特に最初に人成らざる者にした少女を愛したと言う。

 少女も主人を敬い愛した。

 霧に包まれた箱庭で二人は愛を育み合う──









少女には名前は出ていませんが一応あります。

「皆森 涙」という名前がありました。ですが、それはもう捨て去り「ラルカ」という名前だけが残ります。

人でない館の主人の手により、人で無くなった少女は、招かれざる客を屠り続けるでしょう。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

他作品も読んでくださるとうれしいです。

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― 新着の感想 ―
い、いい話すぎるぅ!!(´•ω•̥`) オディウムに拾われて本当に良かった…!確かにラルカちゃんを虐げていたのはただ血が繋がっているだけの存在、他人ですね!せっかくの命を堕胎しようとして周りに止められ…
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