表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

異世界に行ったアイドル

依頼種別:個人調査

依頼形式:匿名メッセージ(テキスト+音声ファイル)

受信時刻:03:33:11

調査対象:存在しないアイドル

依頼人:?


ナズナは、音声ファイルを再生する前から、何かが“狂っている”ことを感じていた。

それは理屈ではなく、もっと皮膚感覚に近い違和感だった。


受信したメッセージには、簡潔な文章と共に、一つの音声ファイルが添付されていた。

『彼女の証明です』とだけ書かれたテキスト。


ファイルの再生時間は3分42秒。内容は──歌だった。


澄んだ声。冷たくも優しい旋律。

構成としては未完成のようにすら見える曲だったが、

そこには異様なまでの雰囲気が宿っていた。


歌詞も曖昧だった。文法も、語彙の使い方も、どこか素人的で、壊れかけた言葉のようだった。

けれど歌全体で聴くと、心に深く響いてくる。


しかし──この曲は、どこにも存在しなかった。

音楽データ解析ツールにかけても、声紋は一致しない。

歌詞検索をしても、ヒットゼロ。

ANEI(AI)の高精度なデバイスであらゆるデータベースを探ったが、“この歌”も“この声”も存在していない。


なのに、ナズナには確信があった。

この旋律は、彼女の記憶のどこかに染み込んでいた。


“この声は、私の記憶の奥にいる”──そう言われたら、否定できなかった。

─── 依頼メッセージより ───

はじめまして。

突然のご連絡、申し訳ありません。

あなたが真実を見つけてくれると信じて、この歌を送ります。

彼女は、確かにいたんです。

僕の中に焼きついて、消えてないんです。

誰も彼女のことを信じてくれません。

SNSも、番組も、写真も、全部“なかったこと”になっていて──

でも、あなたならきっと、彼女を見つけられる。

あの光を……取り戻せる。

─── 調査経過 ───

ナズナは調査を開始した。


この「存在しないアイドル」は、すでにネットの都市伝説として話題になっていた。

通称《幻像のアイドル》──シンクロナイズド幻覚。


奇妙なのは、誰もが「似た顔」を記憶しているのに、誰一人として「名前」を言えなかったことだった。


なのに、彼女を知らないか?尋ねられると“記憶の中で歌っている”気がしてくるのだ。


数日後、ナズナはANEIのディープリサーチ機能をフル稼働し、ある局の古い音声データにたどり着いた。

10秒だけ記録された音波が存在していた。「みんな、元気でね....」その一言だけだった。


その波形は、依頼人の送ってきた音声と一致していた。


まるで、その音声の直後に魔法で消されたかの様な雰囲気の音声だった。しかし、悲しい声色では無かった。


ナズナは、似たような現象を聞いたことがある


完全性の高すぎる生命体が、その世界の限界を突破して現実世界の構造と衝突する際、

世界側のフィルターによって“記録不能”の扱いになる現象。

──つまり、彼女は存在していた。


その完璧さが、世界の許容量を超えていた。均衡の逸脱。

世界そのものが彼女を排除せざるを得なかった。


この事件を顛末を依頼人に報告した

彼女は、もう見つけられないという私の出した結論を、依頼人は少し分かっていた感じで受け取っていた


それが、彼女や世界のの望んだ“存在のかたち”だったと、

ナズナと依頼人は静かに理解していた。


──完璧すぎる彼女は、きっと今もどこか、

この世界ではない“上位の世界”で、

想像もできないほどの静寂と光に包まれながら、

誰にも届かないその歌を、誰かに歌い続けているのだろうか?。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ