二形さんの(少し)甘い世界
朝日が薄いカーテンの隙間から差し込み、名所二形の部屋を柔らかな金色の光で照らしていた。彼女はゆっくりと目を開け、数秒間天井を見つめた後、横を向いて目覚まし時計を見た。6時45分。アラームが鳴るまであと15分。
二形はため息をつきながらベッドに座り、乱れた髪に手を通した。高校3年生の初日。胃に重みを感じずにはいられなかった。2年前なら、新学期の始まりに胸を躍らせ、新しい友達を作り、新しいことを学ぶのを楽しみにしてベッドから飛び起きていただろう。今は、不安と諦めが入り混じった感情しかなかった。
「さあ、二形」彼女は自分に言い聞かせるように、目に届かない笑顔を無理に作った。「新しい年、新しい...私?」
その言葉は自分の耳にも空虚に響いた。首を振り、彼女は立ち上がって朝の日課を始めた。シャワー、制服、鏡の前での最後の確認。かつては輝きに満ちていた目は今や曇っていて、永遠に雲がかかったようだった。
キッチンでは、母親が既に朝食の準備をしていた。「おはよう、二形!」母は温かい笑顔で言った。「新学期の準備はできた?」
「うん、もちろん」二形は元気そうに答えようとした。「楽しみだよ」
母親は一瞬二形を見つめ、心配そうな表情を浮かべた。「二形、何か話したいことがあれば...」
「わかってるよ、お母さん」二形は優しく遮った。「本当に大丈夫だから」
学校までの道のりは短かったが、二形にとっては永遠のように感じられた。一歩進むごとに、かつては避難所だった場所、今では常に不安の源となっている場所に近づいていく。歩きながら、彼女の心は全てを変えてしまった出来事へと漂っていった。
*2年前...*
二形は1年生の教室に入り、輝くような笑顔を浮かべた。「おはようございます!」彼女は新しいクラスメイトたちに向かって元気よく手を振った。
何人かは笑顔で手を振り返し、他の生徒たちは好奇心旺盛なこの少女を不思議そうに見ていた。二形は気にしなかった。この年を人生最高の年にすると決意していたのだから。
そのとき、彼女は教室の後ろに座っている黒髪で鋭い目つきの少女に気づいた。二人の視線が一瞬交差し、二形は背筋に奇妙な感覚が走るのを感じた。しかし、二形らしく、彼女はさらに大きく微笑んでその少女に近づいた。
「こんにちは!私、名所二形です。よろしくね!」
少女は二形を上から下まで見て、判読不能な表情を浮かべた。「金森めぐり」彼女は素っ気なく答えた。
その瞬間、二形はこの何気ない出会いが彼女の人生の流れを変えることになるとは想像もできなかった。
*現在...*
二形は首を振って記憶を振り払おうとした。既に学校の門に到着し、周りの生徒たちのざわめきが彼女を現実に引き戻した。
「二形ちゃん!」聞き慣れた声が呼びかけ、振り向くと親友の由紀が走ってくるのが見えた。
「由紀ちゃん」二形は微笑んだ。友人の顔を見ると、胸の重みが少し軽くなった気がした。
「信じられないことを聞いたの!」由紀は息を切らしながら言った。「金森さんが今年クラス替えを希望したらしいわ」
二形の心臓が跳ねた。「え?どうして?」
由紀は肩をすくめた。「誰も本当のところは知らないみたい。でも、これはいいことでしょ?今年は彼女と顔を合わせなくて済むんだから」
二形はゆっくりと頷いたが、どこか空虚な気分になった。2年間、めぐりは否定的な形であれ、彼女の人生の中で常に存在していた。毎日彼女を見ないという考えは...不安を感じさせた。
授業が始まり、二形はめぐりがいつも座っていた空の席を見つめていた。あの鋭い目で見つめられることも、皮肉な言葉や、先生の質問に答えたときのくすくす笑いを聞くこともない。それは奇妙な感覚だった。
休み時間、二形は一人で廊下を歩くことにした。そのとき、空き教室から声が聞こえてきた。
「...本当にクラス替えを希望したなんて信じられないわ、めぐり」
「何かしなきゃいけなかったの、凛。このままじゃいられなかった」
二形は凍りついた。めぐりの声だった。でも、何か違う。脆弱で、ほとんど...
「でも、なぜ今なの?2年経ってから...」
一瞬の沈黙の後、めぐりは再び話し始めた。今度はほとんどささやくような声で。「だって、私が彼女にしたことを見ているのに耐えられないの。彼女の目の輝き...私が消してしまったの、凛。そして、どうやって直せばいいかわからない」
二形は心臓が早鐘を打つのを感じた。彼女のことを話しているの?
「じゃあ、距離を置けば助けになると思ってるの?」凛の声は懐疑的だった。
「わからない。でも、これ以上彼女を傷つけ続けることはできないって分かってる。私は...彼女のことを大切に思いすぎてるの」
二形の世界が回転しているように感じた。めぐりが彼女のことを気にかけている?全てのことの後で?
考えずに、彼女は後ろに一歩下がった。木の床がきしむ音を立てた。部屋の中の声が急に止んだ。
「誰かいるの?」めぐりの声が警戒した調子で聞こえた。
二形はパニックに陥った。逃げようと振り向いたが、慌てて自分の足につまずき、ドスンと床に倒れた。
「いたっ!」彼女は足首に鋭い痛みを感じてうめいた。
急いだ足音が近づき、突然めぐりがそこに立っていた。彼女の目は驚きと...心配?で見開かれていた。
「名所?大丈夫?」
二形は顔を上げ、めぐりの目と目が合った。一瞬、二人とも言葉を発せず、二人の間の空気は緊張と言葉にできない思いで満ちていた。
「私は...大丈夫」二形はついにつぶやいた。立ち上がろうとしたが、足首に体重をかけると痛みで顔をしかめた。
めぐりはためらうことなく屈み、肩を貸すように差し出した。「来て、保健室まで一緒に行こう」
二形は一瞬躊躇した。何年もの傷つきと不信感が、めぐりの突然の優しさと戦っていた。しかし、めぐりの目に何かを感じ、その助けを受け入れることにした。
二人が廊下を歩いている間、居心地の悪い沈黙が漂っていた。二形はめぐりの体の温もりと、髪の軽い香りを感じることができた。長い間苦しみの源だった人と、こんなに近くにいるのは奇妙な感覚だった。
「名所」めぐりがついに口を開いた。彼女の声は低く、躊躇いがちだった。「私は...本当にごめん。全てに対して」
二形は心臓が跳ねるのを感じた。彼女は多くのことを言いたかった - なぜかと尋ね、叫び、泣きたかった。しかし、出てきたのは弱々しい「なぜ?」だけだった。
めぐりは歩みを止め、二形と向き合った。いつも冷たく遠い目が、今は感情で満ちていた。「私がバカだったから。怖かったから。だって...」彼女は躊躇い、唇を噛んだ。「だって、初日にあなたが私に微笑んでくれたとき、私は自分の感情の扱い方がわからなかったの」
二形は困惑して瞬きをした。「どんな感情?」
「引かれた」めぐりはささやき、目をそらした。「憧れ。あなたの輝き、楽観主義に嫉妬した。そして...私はそれにどう対処していいかわからなかった。だから、近づく代わりに、あなたを遠ざけた。傷つけた。そして毎日それを後悔している」
二形の世界が止まったかのように感じた。全てのいじめ、屈辱、冷たい視線...これら全てが、めぐりが彼女のことを好きだったから?
「私...何て言えばいいかわからない」二形はつぶやいた。足首の捻挫だけでなく、めまいを感じていた。
めぐりは苦々しく笑った。「何も言わなくていいの。私を憎んでいても理解できる。だから転校を希望したの。私があなたの人生から消えた方があなたのためになると思って」
二形の中で何かが動いた。おそらく、かつての自分の火花だろうか。「いいえ」彼女は言った。自分の声の強さに驚きながら。「逃げるのは答えじゃない」
めぐりは驚いて二形を見た。「でも、私がしたことの全てを考えれば...」
「そう、あなたは私を傷つけた」二形は遮った。「私の自信を、喜びを奪った。でも...」彼女は躊躇い、適切な言葉を探した。「でも多分...多分私たちはこれを修復できるかもしれない。一緒に」
めぐりの目が大きく開いた。希望と信じられない気持ちが混ざった表情を浮かべていた。「あなた...本当にそうしたいの?」
二形は一瞬考えた。めぐりを自分の人生から完全に追い出すのは簡単だっただろう。しかし、彼女の中の何か、かつて彼女を定義していた楽観主義の火花が、チャンスを与えるよう促していた。
「うん」彼女はついに言った。「簡単じゃないし、時間もかかるわ。でも...試してみたい」
小さな笑顔が、二形が今まで見たことのない本物の笑顔が、めぐりの顔に形作られ始めた。「私も」彼女はささやいた。
その瞬間、空っぽの廊下の真ん中で立ち止まったまま、二人の間で何かが変わった。許しではなかった。まだ。しかし、それは始まりだった。新しい何かの約束、注意深く忍耐強く育てれば美しいものになるかもしれない何かの。
「さて」二形は言った。かつてのユーモアの片鱗が彼女の声に戻ってきた。「今こそ本当に保健室まで連れて行ってもらわないとね。足首が痛くて死にそう」
めぐりは笑った。二形が今まで聞いたことのない軽やかで音楽的な音だった。「もちろん。行こう、名所さん」
「二形」二形は優しく訂正した。「二形って呼んでいいよ」
めぐりの笑顔が広がった。「二形」彼女はその名前を味わうように繰り返した。「じゃあ、私のことはめぐりって呼んでね」
保健室への道を再開しながら、二形は長い間感じていなかった何かを感じた:希望。前途は困難で、難しい会話や居心地の悪い瞬間に満ちているだろう。しかし、2年ぶりに彼女は未来を楽しみにしていた。
おそらく、ほんの少しかもしれないが、彼女の世界は再び甘くなるかもしれない。以前と同じようにではないが、新しい方法で。めぐりを敵対者としてではなく...まあ、それは時間が教えてくれるだろう。
今のところ、一歩ずつ進むことで十分だった。文字通り、二形と彼女の捻挫した足首の場合は。しかし、比喩的にも、彼らの人生の新しい章に向かって。二形が願うには、笑いと理解、そしておそらく愛さえも満ちた章に。
そして、めぐりに支えられながら、二形は少し甘い未来への第一歩を踏み出した。