新しい出会いがありました
「可愛いいいいいい!!」
テンション高めで僕を褒めてくれる可愛い声の女性。
「うん、この世界で一番可愛いよカエデ」
その隣で僕を褒めるイデアル。
「次はこの服なんてどうかしら!?」
「こっもカエデに合うと思う」
「そうね! どっちも着てもらいましょう!」
服なんて何でもいいから適当に決めて終わらせようと思ったのに。
何で僕は2人の着せ替えに人形にされてるんだろう。
僕が洋服を1着しか持って無いという事で、イデアルと2人で服を買いにアパレルショップに来ていた。
女性用の服が売っている売り場に入るのは抵抗感があるけれど、他に服を持っていないから買わないといけないし、これからはこの場所に入る事が増えるだろうから慣れないといけない。
そんな時に出会ったのがヘルマナだ。彼女は僕を見るなり「可愛いいいい!」と叫んで接近して来た。
そのままの流れで気が付けば2人の着せ替え人形にさせられていた。
最初は服なんて何でもいいと思っていたけど、鏡に映る何を着ても可愛い自分の姿を見ていたらまんざらでも無かった。
色々な衣装を着たけど結局、青色のコルセットロングスカートに白色の長袖ブラウス、黒と白のワンピースなど数着を購入した。
最後は僕の好みで選んだ。
その他にもナイトウェアや下着なんかも買って貰った。
下着は店員に胸のサイズを測ってもらい、それを踏まえてヘルマナが選んできた物の中から購入した。
ついでにブラジャーもヘルマナに着させてもらい、付け方も見てある程度分かったからあとは実践して慣れていけば大丈夫だと信じたい。
ちなみに彼女は頼むまでも無く試着室に乱入してきて僕の世話を焼いてくれた。
ナイトウェアは白色でフリルのついたロング丈のワンピースと紺色の長袖シャツとロングズボンのセットを選んだ。
あとは靴下を数個買ってお店を出た。
服を買ったあとは昼食を食べようと言うことでヘルマナと一緒に食べることになった。
「そういえば、あなたたちってどういう関係なの? カップルとか?」
ヘルマナが僕たちの関係を聞いてくる。
「夫婦だよ」
イデアルがシンプルに回答する。
「へー、夫婦か」
「うん」
「夫婦ってどんな感じなの?」
ヘルマナが聞いてくる。
「幸せだよ。カエデがいるだけで心が高鳴って世界が色づいて見えるんだ」
そこまで思ってくれてたんだ。
そうな風に言われた事が無いからどう返していいのか分からない。
僕は褒められた経験が少ないけど、もし他の人に褒められても「ありがとうございます」っていう返事しかしていなかった。
それ以外にどうやって返せばいいか分からなかったから。
「そういう風に感じる事が出来るって良いわね。イデアルばかり喋っているけどカエデはどう思ってるの?」
ついに僕個人にも質問が飛んできた。
「うーん、まだよく分からないかな」
別に悪い気はしないけど、夫婦という実感は無い。
というか、結婚する事になったのは昨日だし、結婚式をやったわけでも書類を提出したわけでも無いからな。
そもそもこの世界って何をしたら結婚した事になるんだろう?
お互いが同意してれば良いのかな?
「夫婦って実感が無いってこと?」
さらに質問をするヘルマナ。
「うん。そんなに聞くって事は結婚について興味があるの?」
まぁ、女の子だし恋愛に興味があるだけかも知れないけど。
「うん……私も結婚するかも知れないの」
そう言うヘルマナの表情は明るいものでは無かった。
「その相手と結婚したく無いとか?」
もしかしたら政略結婚なのかも知れない。相手が歳の離れた変態ジジイとかだったら最悪だ。
「そうね、私のことを凄く下に見てきたのよ。あまりいい噂も聞かないし女癖も悪いらしいわ」
「悪い噂って?」
「不敬だなんだと難癖つけて平民の少女を誘拐したり、街でも貴族の息子だって大きな顔して無銭飲食をしたり」
うわぁ、それが本当ならクズだな。
「だからその男と結婚するのは嫌だし、私は自由が欲しいわ。実際に会ってみて自尊心の塊のような奴で噂の信憑性もだいぶ上がったし」
確かにそんな奴と結婚したくない。
「自由が欲しいって事は何かやりたい事があるの?」
「具体的な事は特に決まって無いの。ただ、このまま嫌いな相手と結婚して家庭に閉じ込められるのは嫌」
「そっか」
「それに私は男に尽くすために自分磨きをしているわけじゃないし、男にニコニコと愛想を振りまいてお茶する人生なんてゴメンよ」
「じゃあ、結婚しなければ良いんじゃないかな」
イデアルがあっさりと言う。
きっと色々な問題があって、それが難しいからヘルマナは悩んでるんだろう。
「そうね、それが出来れば理想よね」
どこか諦めたような感じで呟くヘルマナ。
どこか親近感を感じる彼女に、僕は何て声をかけるのが正解なんだろう。
「そ、その。僕なんかで良ければ何時でも話しを聞くから!」
辛い時は誰かに話すだけでも不安が和らぐ事あると思う。
実際に話し相手がいなくても森で叫ぶだけでも僕の気持ちは少しスッキリした。
だから話し相手として僕に色々な気持ちをぶつけてほしい。
「部外者の僕だからこそ話しやすい事もあるかも知れないし……余計なお世話だったらごめんね」
「全然迷惑なんかじゃないわ! そう言ってもらえて私は凄く嬉しかったわ!」
最後ネガティブになった僕にヘルマナは目を見て力強く好意を伝えてくれた。
「そう言ってもらえるなら良かった」
その後はたわいのない話しをして解散した。