クリームパンが美味しいです
近くの街を目指して移動してる間に、僕が異世界から来たばかりで、この世界について何も知らない事なんかも伝えた。
「カエデは何かしたい事とかあるの?」
イデアルに質問されるけど、したい事と言われても特に思いつかない。
異世界に来たばかりだからとかでは無くて、日本にいた頃からそうだった。
就活でやりたい職業を探すために、明日死ぬかも知れないと仮定して考えたり、ノートに自己分析を書いた事もあるけれど、どうしてもやりたいと言う物事は見つからなかった。
そもそも僕は1日ボケーと寝ていられたら満足なので、社長になりたいとか言う感じのタイプでは無い。
「この世界を見て回りたいかも」
それでも無意識にそう発していた。
まぁ、異世界だからどこに行っても初めていく場所ではあるけど。
「じゃあ、色々な場所を見に行こうか」
そして、当然のようにイデアルが肯定してくれる。
「イデアルはそれで良いの?」
僕は本当にそれで良いのか尋ねる。
「あぁ、番のやりたい事が僕のやりたい事だからね」
楽しそうに言うイデアル。
それを見て、こんな風に誰かの為に笑えたら幸せなんだろうなと漠然と思った。
僕も彼の為に何かしてあげたい。
今は何も出来なくても、いつか恩返しが出来ればいい。
「そうだ、パンを持ってるんだけど一緒に食べない?」
歩くのを止め、どこからか出した二つのパンを手にしながらニコニコと問いかけてくるイデアル。
「ありがとう、貰うね」
起きたら異世界に居て、巨大イノシシに襲われたりと驚きの連続でエネルギーを使ったからか、僕はずっと空腹の状態だった。
だから、食事を取ることが出来るは素直に嬉しいし、今ならある程度の物は美味しく食べれると思う。
「うん」
もしかしたら僕がお腹を空かせている事に気付いてパンを恵んでくれたのかも知れない。
「美味しい」
渡されたパンの中には濃厚なクリームが入っていて、もっちりとした生地も美味しい。
「美味しいよね。俺もここのクリームパンが好きで持ち歩いているんだ」
「どうやって食べ物を持ち歩いてるの?」
密かに気になっていた事を質問する。
荷物なんて持って無いのに、どこからパンを取り出したのか。
「魔法だよ。カエデのいた世界には無いの?」
やっぱり魔法なんだ。
空間魔法的な何かなのかな?
「うん、創作の中にはあるけど現実で使える人は見たこと無いかな」
「魔法が使えない世界か。魔法が無い人生なんて考えられ無いな」
僕からすれば魔法を使える世界の方が信じられないけどね。
「僕たちの世界ではそれが普通なんだ」
そんな感じで会話をしながら歩いていると街が見えてきた。
街は東京タワーを半分ぐらいにした高さの城壁に囲まれていて、門の前には警備隊のような2人組が通行人をチェックしている。
身分証なんかを持ってない僕が街に入れるか不安だったけど、イデアルの連れという事で街の中にはスムーズに入ることが出来た。
城壁の中はテレビで見たことある同じような色とデザインの家があり、西洋風な街並みになっている。
それから人以外の種族もいるみたいで、ケモミミのついた獣人のような人の姿も見つける事が出来た。
「この後はどうするの?」
「まずは俺が泊まっているホテルに行こうと思ってるよ」
「分かった」
何となくだけど、イデアルは良いホテルに泊まっている気がする。
「そのあとは冒険者ギルドに1人で行こうと思っているんだけど、カエデはどうする」
やっぱり冒険者ギルドはあるんだ。
異世界の定番だもんね。
「どうするって?」
「俺について来てもいいし、ホテルでくつろいでてもいいよ?」
結局、僕はホテルでくつろぐ事にした。
確かに冒険者ギルドにも興味はあったけど、ホテルに置いてあるベッドがフカフカで気持ち良かったから、寝たい欲に負けてしまった。
そもそも色々な事が起こって疲れていたのもある。
そんでもってイデアルの泊まっていたホテルは、やっぱり高級ホテルだった。
そこで出された美味しい食事で満腹になったなら、あとはもう寝るだけだ。
にしても、今日は凄い出来事の連続だったな。
気がついたら異世界に居て、モンスターに襲われたり求婚されたり。
そんで夫婦になったり。
いつか結婚式とかやるのかな?
それ以前に今日の夜とかどうなるんだろう?
僕には全くそういう経験無いんだけど、どうしよう。
なんか緊張してきたけど、考えてもしょうがないからもう寝ることにしよう。
このまま朝まで寝てれば今日は何も起こらないし、あとは明日以降の僕に丸投げしよう。