温かい気持ちになりました
「け、結婚??」
さすがに聞き間違いだよね?
まさか初対面で求婚なんてしないよね?
「うん、俺の嫁にならない?」
……聞き間違いじゃ無かった。
え?
結婚?
まさか、こんな森の中で人生初の告白をされるとは思わなかった。
しかも、付き合うとかでは無くて、結婚を申し込まれるとは。
「あのー、それってどういう事ですか?」
僕の美貌にやられちゃったのかな?
いやいや、そんなわけ無いよね?
「そうだね、いきなり言う事では無かったよね」
うん、そうだと思う。
いきなり求婚されてビックリした。
「でも、やっと見つけたんだ」
どういうこと?
僕たちって今日が初対面だよね?
「俺だけの番を」
噛み締めるように言う青年。
にしても、番って言い方が独特だな。
「あの、僕たちって初めて会ったと思うんですけど?」
本当に僕の容姿に一目惚れしたの?
それはチョロすぎない?
まさか過去に日本で暮らしていて、幼少期にあった事があるとか?
まぁ、僕の見た目も変わってるし、それは無いと思うけど。
「俺たち龍族は自分の番を見た瞬間に分かるんだ。そして間違いなく君は俺の番だ!」
番がどうとか以上に、この人ってドラゴンなの!?
ドラゴンと言えばファンタジー世界によく出てくる最強種では。
しかも、また僕の事を番って……
ようは夫婦になろうって事だよね。
いきなりそんな事を言われても、簡単には決められない。
でも、この人の言葉からは熱量が感じられる。
だから嘘をついてるわけではなく、本当に僕の事を番だと思ってるんだと思う。
それに、巨大イノシシから助けてもらったのもあるかも知れないけど、僕の中での好感度も少し高い。
もしかしたら本当に僕にとっても番なのかも知れない。
しかも、良く考えると他に僕がこの世界で生きていくためのツテがないんだよな。
恋人すらできた事が無い僕には夫婦が何なのかもよく分からないけど、この人は本当に僕の事を愛してくれそうだ。
何より直感がこの人についてけと言ってるし、彼からは僕の事を絶対に逃さないという雰囲気もヒシヒシと感じる。
こんなに優しそうな顔と癒されるような声をしてるのに……
「あ、あの。本当にこんな僕でいいなら結婚しましょう」
色々と考えた結果、緊張しながらも告白の返事を伝える。
「本当かい!!」
凄く食い気味な反応だ。
「は、はい」
「これから宜しくね、俺だけの奥さん」
本当に嬉しそうに言う青年。
そういえば、まだ彼の名前も知らないや。
「宜しくお願いします」
名前も知らない人の奥さんになるなんて不思議な感じだな。
それでも、自分が必要とされているのは素直に嬉しい。
人に好意を向けられる事も必要とされる事も今までは無かった気がする。
リスペクトも無く良いように使われる事は何回もあったけど。
それは何か違う。
自分が不当に扱われてると思ったら、当たり前だけど良い気分にはならない。
それでも生きる為に働かないと行けないのが辛いところだ。
でも、地球とは違う世界に来たんだ、この世界で幸せになる為に頑張ってみよう
・・・
「この靴なんてどうかな? これから裸足で歩くのはキツイと思うけど」
そう言ってイデアルが靴を手渡してくれる。
「いいんですか、ありがとうございます」
靴を履けずに異世界に転移したから、ずっと裸足で逃げていて辛かった。
だから靴を貰えるならばシンプルに嬉しいし助かる。
「あとは、足も見せて」
言われた通りに足を見せると回復魔法のような物で治してくれた。
裸足で巨大イノシシから逃げてたから足の裏がボロボロになっていたのだ。
「ありがとうございます」
「それと、まだ自己紹介して無かったね」
夫婦なのにお互いの名前すら知らないからね。そんな夫婦は世界中を探しても、僕たちしか居ないんじゃないかな。
「は、はい」
「俺の名前はイデアルって言うんだ」
そっか、彼の名前はイデアルって言うのか。
「僕はカエデって言います」
地球との決別じゃないけれど、異世界で暮らして行くんだという決意も込めて苗字は名乗らなかった。
本名は北山楓って言うんだけど、これからはただの楓として生きよう。
「カエデ……良い名前だね。やっと君の名前を知ることが出来た」
そう言ったイデアルは嬉しそうに僕の名前を連呼していた。
そんな大切そうに呼ばれると恥ずかしくなってくる。
「そんなに呼ばれると恥ずかしいです」
名前を連呼するのをやめてくれるようにお願いする。
「あ、ごめんね。やっと俺だけの番を見つける事が出来て嬉しかったんだ」
そんな爽やかな笑顔で言われると照れる。
しかも、美形だからよりダメージが高い。
もしかしたら、この世界の顔面偏差値が高いのかも知れないけど。
「そんなに番を探してたんですか?」
どのぐらい自分の番を探してたんだろ。沢山の生物がいる中で1人を探すのって大変だろうな。
でも、その中で選ばれたのが僕だと思うと特別な感じがして嬉しいかも。
「そのための旅を数年間してたんだ」
数年間も色んな場所に行って探してたものが見つかったら、それはとても嬉しいだろうな。
僕もゲームとかで時間かけて欲しい物を手に入れた時は嬉しかった。
「そうなんですね、途中で止めようとか思わなかったんですか?」
僕だったら何年も探すことなく、直ぐにギブアップしているかも知れない。
「まぁ、旅をするのも楽しかったしね。それに、自分だけの番を早く見つけたかったんだ」
普通だったら「見つかって良かったですね」みたいな返事をするけど、その探しものが自分自身だと何て返事をして良いのか分からない。
「それに探した甲斐はあったよ。カエデを見た瞬間から心が喜びで溢れているからね」
本当に自分の気持ちを素直に表現してくれる人なんだな。
普段から褒められ慣れていない僕は顔が赤くなってしまう。
恥ずかしいけども、褒められて悪い気はしない。
こういう温かい気持ちになれただけでも、この世界に来て良かったなって思う。