これは無理ゲーでは?
いや、ちょっと待ってー!
異世界転移して初日にイノシシみたいなモンスターに轢き殺されるのは嫌だ!
とにかく全速力で後方に向けてダッシュするとイノシシが僕を追いかけて来る。
「怖い! 怖いって!!」
ファンタジーサイズの巨大イノシシに追いかけられるのは怖すぎる。
必死になって走っていると目の前に登れそうな木を見つけた。
「もう登るしかない!!」
ふぅ〜、何とか登り切った。
これで何とかなったかな?
僕の事は諦めてくれると良いんだけど、そんな簡単には行かないよね……
巨大イノシシはガシガシと木に向かって体当たりをしてくる。
木がポキッて折れたりしたらどうしよう?
というか、いつまでこの場所にいないと行けないんだろう。
僕は食べる物や飲み水を持って無いし、ここは森の中で異世界。
「はぁ」
つい、ため息を吐いてしまう。
そりゃ、異世界に行ったからって都合よく人生が好転するなんて無いよね。
僕はここで死んじゃうのかな……
何か思考がどんどんマイナスな方向に向かっていく。
今やらなけゃ行けないのは自暴自棄になる事でも、泣き言を言うことでも無く、現状を冷静に分析して生きていく為の対策を考えること。
でも、僕の心は簡単に切り替えられるほど強くない。
はー、もー何も考えたく無い。
僕は一生ぼけーと寝てるだけでも幸せなのに世の中ままならいな。
もういいや、ふて寝しよ。
・・・
どうしよ……
全然眠れなかった。
木の上じゃ寝ている間に地面に落ちるかもと思うと怖くて、とてもじゃないが寝れなかった。
しかも、まだ下には巨大イノシシがいるし……
時間が経ったら居なくなる事を期待してだんだけどな。
ほんと、早くどっか行ってよ!
「もう! 誰か僕を助けてよ!!」
叫んだって誰かが助けてくれるわけじゃないし、事態が好転するわけじゃない。
そんな事は僕だって分かってる。こんな事をしたって無意味だし、今までだって漫画みたいにヒーローが現れて僕を救ってくれた事なんて無かった。
それでも、色々な感情が溢れて叫ばずにはいられなかった。
でも、なんか叫んだら気持ちが落ち着いてきた。
僕はそんな大声で叫ぶタイプでは無いから気づかなったけど、気持ちを吐き出すのって精神的に落ち着くのかも。
今まで色々と溜め込んでいた影響もあるかも知れない。
思えば大声で気持ちを叫ぶなんて日本ではする場所が無かったけど、誰も見てない森の中だからこそ出来たのかも。
「え?」
そんな事を考えていたら、何か魔法のような物が飛んできて巨大イノシシを遠くまで吹き飛ばした。
「大丈夫?」
いきなりの事で唖然とする僕に、木の下から優しく安心感を与えるような心地よい声で話しかけられる。
「は、はい! あ、」
やば!
焦って返事をしたせいか手を滑らせてしまった。
重力に沿って僕は地面に落ちていく。
巨大イノシシから逃げるために、なるべく上の方にいたのも相まって落ちた時のダメージは凄そうだ……
というか、下手したら死ぬ!
いくらなんでも、木の上から落ちて死ぬなんて嫌だ!
しかも、助かったと思った瞬間に!
「おっと! 危ない」
だけど、誰かが僕をキャッチしてくれた。
どうやら、さっき声をかけてくれた人が僕を受け止めてくれたみたいだ。
最悪の事態にならなくて良かった。ホッとした僕は恐怖から瞑っていた瞳を開ける。
そうすると目の前には優しげな雰囲気を持つ
顔全体のバランスが整っている青年の顔があった。
いや、距離が近い!
しかも、何か凄く見られてる。
「あ、あの。助けてくれてありがとうございます」
とりあえず感謝の気持ちを伝える。
いきなり異世界に飛ばされて知り合いは居ないし、自分1人では対処する事が難しいモンスターに襲われる。
そんな状況で助けてもらって嬉しかったし、人に会えたと言う意味でも凄くホッとした。
最近の日本はキャンプブームだったりするけど、僕にキャンプの経験は無いし、見知らぬ森でこの後どうすればいいのかも分からなかった。
だから人に会えた事で希望が少しだけ出てきた。
この人に近くの村まで連れていって貰えれば何とかなるかも。
それに優しそうだから、もしかしたらお金を貸してくれるかも知れない……
はぁー、そうなんだよな。良く考えたら僕は無一文でこの世界の知識が何もない。
これは無理ゲーすぎない?
さすがにクソゲーでしょ。
というかこの人、話しかけても反応が返ってこない。
「お、降ろしてもらっても良いですか?」
今の僕は俗に言うお姫様抱っこをされた状態なのだ。
さすがに恥ずかしいし、目の前に居る青年の顔がイケメン過ぎて直視しているのが辛い。
「あぁ、ごめんね。探し人が見つかったものだから嬉しくて」
探し人?
「俺と結婚して下さい」
「⁇」