天地がひっくりかえる
あの女性だ。
路頭に迷う私に黒ずくめの女性のかんばせに瓜二つである。じゃあ、あの人は生きていなかった?
私たちは結局、顧問の先生にその写真を渡し……先生が預かる事になり、いつもより遅い時間帯で路線バスに乗る。田舎だから急いで時間に間に合わせないといけない、二人は雨粒が降り出した空の下で走りながらバスに乗れた。
「雨、すごいね。傘もってくるの忘れちゃった……」
恋春が雨が垂れる車窓を眺めながら呟いた。確かに夕立が降るかもしれない、という予報はあったがここまでひどくなるとは予想外だった。
「ひかり。ちょっと先のバス停まで行ってスーパーで雨宿りしようよ」
「そうだね〜」
「あっ」
彼女が口をつぐみ、身を固くしたのを覚えている。何となくシャッターを押した車窓の風景──生首があった場所に差し掛かったからだ。
「……気味悪いよね。事件じゃないといいけ──」
運転手が驚いた声を上げ、クラクションを鳴らす。ハンドルを切ったのか車体が激しく揺れ、乗客も悲鳴をあげた。
ぶれていく視界の中に黒い髪の女性が、道路の真ん中に佇んでいるのを垣間見たきがした。
「いたい、こはる。わたしはいいから、もう」
身体に力が入らない。まだ怪我が軽い恋春へ託そうと、足を止めたが彼女は必死に歩を進める。
「やだ、まだ、ダメだ──」
生首が転がり落ちている。女性の。乗客の人じゃない。
ニヤリ、と笑った。
(アイツが、私たちを)
ゾッとしたがもはや意識すら保てなくなっていく。私は、死ぬのか──
「素直に認めればいいものを」
あの天女がブツクサ言う。「自分はあのやみ、に囚われているのだと」
やみに囚われている?
「罪を認めず、未来の未知数を恐れ、私を拒む」
「あの亡霊に同調し続けて」
「いつまでも地を這う気かい?」
地を這う? 私は立っているつもりで、奈落の底にとらわれていたのか?




