やみ その2
「…やみ…。…」
「あなたは?」
「墨坂 ひかり…」置かれたお冷の氷を見下ろし、力なく言う。「あなたはアレを知っているんですか…?」
「知っているとも。姉妹のようなもので、遠い他人のようなものだ」
闇はボサボサのショートヘアを撫で付けると、ニヤリと笑ってみせた。姉妹のようなものであると言う割に、彼女とあの神々しく禍々しい女性とはかけ離れていた。歳は近いのかもしれない二十代ぐらいであろうか…。
目の前にいる女性の方が現実味を帯びている。
「何故…アレは恋春を食べたんですか」
「理由はない。ただの食べ物だから」
「そう…ですか」生きたまま捕食された訳ではないのだから、恋春は痛くも痒くも何ともなかったのだろう。なら…。
「…」
「私はアフターケア専門でね。アレが何かしたら、私がそれの尻拭いをする。そういう形で成り立っているんだ」
「アフターケア…」感情のないまま復唱する。二人を邪魔するのは店内にかかる明るいJPOPだけだった。
わたしの薄汚れた服に、新たに来店した客が眉をしかめる。それを表情を崩さず見つめている闇。不快すら、どこかに落としてしまったようだ。
「もしも君をあの人間が叱るとしよう。そこにアレがやってきてパクリとあの人を食べた。私は、それをなかったことにする。蘇生させ、あるいは死人としてこの世界に形だけを復活させる。アレがいなかったようにふるまわせられるように」
「恋春はまた…」
「ああ、そうだよ。また」
恋春は私を唯一救ってくれたクラスメイトで、親友で…そして裏切り者だった。私を救ってくれる存在から転落したのだ。
だから手をかけて殺めた。
「安っぽい感動を望んでいるわけではなさそうだ。君は親友が大嫌いだった、みたいだね」
「…」
「醜いなあ」
「なんとでも、言ってください」
「よくあること。人間というのは、そんなもの」つまならそうに闇は呟く。「この星は汚らしい生物しかいないねえ」
「あなたこそ、人じゃないですか」
久しぶりに。
今見返すと禅問答のように難解な会話してますね(汗)
それもそれで、若気の至りです。