在れ
光が輝いている。それは月のようで、または天使の梯子のようだ。
「おやおや、運の悪い子だ」
輝く光源から姿を現したその人は、こちらに言う。声音は優しく、美しい顏をした女性だった。煌びやかな発光した衣を纏い、宝石の装飾が夜闇を照らす──女神か、天女か…。
この世のものでないのは一目で分かる。
私は手に持ったシャベルを落としそうになり慌てる。
「我らを見ても悲鳴さえ上げないとは、肝が座っているな」
雨がしとしと降りしきる真夜中に、私はこの女性に遭ってしまった。
「さあ、ソレを寄越しなさい」
「え…あ…」ソレ、と名指した「物」は濡れた土の上で横たわっていた。
額に赤黒い亀裂が走り、微かに開いた瞼から白目が覗く。だらりと放り出された四肢。はだけて台無しになった制服──。
その「物」はかつて私の親友だった。
「なんだ、怯えてものも言えぬか」
朗らかな表情で女性は落胆した。
「あ…あ、あなたは…」
「私かね?私は…お前たちからしたら、神だと言えるかもしれぬ。いや、宇宙人か…それとも悪魔か…呼び名は幾万にも及ぶ。つまる所、私は何者でもなく何者でもあるのだよ」
神で、宇宙人で、悪魔で。何者でもない。
泣きそうだった。既に息を荒らげて嗚咽を漏らしていた。
「ならお前は何者だね?」
「わ、わたしは…ひかり…墨坂 ひ、ひかり…」
「ほう。墨坂ひかりか。ひかりよ、ソレはなんだ?」
親友を暖かな眼差しで見下げる。その様相は仏にもみえた。
「し、親友の…恋春…」
恋春は私を唯一救ってくれたクラスメイトで、親友で…そして裏切り者だった。私を救ってくれる存在から転落したのだ。
だから手をかけて殺めた。
呆気ないほど人の体と友情は──脆かった。
「ふぅん?我らは親友などというものを知らぬが、お前たちは知っているのだね。さあ、もう時間が無い。ソレを喰らおう」
天上の光がさらに輝きを増し、恋春がふわりと浮く。まるで天国に行くのだと告げられたかのような、清らかな光が親友を包み込む。
雨粒が光を反射し、金色の粒に見える。この世で一番天に近い光景だと、私には思えたのだ。
涙を流すのも忘れ、光り輝く空を見上げる。
ベチャベチャと劣化した血が滴り落ち、はらはらと毛髪が舞い散る。光に『喰われた』のだ。
「礼を言う、ひかりよ」
雨が止み、暗く重々しい雲の合間から月が顔を覗かせる。夜は更けやがて朝が来る。冷たい空気が立ち込めた林の中でそよそよと頬を闇が撫でる。
私は呆然としたまま空を見上げていた。突然起こり目まぐるしい出来事に、理解できないと脳みそが停止してしまった。
「自首しよう…」
しばし佇んで素直な気持ちを呟いた。けれどどう説明すれば良いのだろう?
手にかけた最愛の親友はもうどこにもいないのだから。