表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺の 桃太郎

作者: サトポッポ

 皆様の作品を読ませて頂くうち、書いてみたくなりました。

 初心者ですので、よろしくお願いします。

 蟹は足元に転がる悍ましく汚れた毛皮の塊を見つめていた。

 爪で突っついてみると微かに反応がある。

もう助からないだろう、しかしこのまま捨てておくわけにはいかない、微かにでも『まだ生きている』のだから。

 蟹は汚れるのも厭わず爪を器用に使い己の甲羅の上に汚れた毛皮の塊を乗せ歩きはじめる、最悪『コレが死んだら食うかぁ』と考えながら。


 桃太郎は悩んでいた、老夫婦に拾われ育てられた。

もし拾われなければどんぶらこと海まで流れて行き海で腐って魚の餌食になるしかない、生まれる事も出来ずに腐ってしまうのだ、もう何人の兄弟が海の藻屑となっただろう。

 ほかにも老夫婦によっては桃を切るときに太郎ごと真っ二つにしてしまったという悲惨な事件も聞き及んでいる。同様の事件は「かぐやの首狩り事件」などもある。

 これは竹取の翁が竹を切る際にかぐやの首ごとバッサリ…、これも悲惨な事件だ。

 桃太郎は幸運と言えば幸運なのだろう、幸いにも桃太郎は生を受けることができたのだ。が一つ悩みがあった、とにかく貧しいのである。

 老夫婦だけでもきつかった生活は桃太郎が増えたことにより更に厳しい生活になってしまった、老夫婦が体力不足のため最低限しか耕していない田畑の収穫で桃太郎の食を賄わねばならない、桃太郎とて三歳や五歳では農家の手伝いも儘ならない、やっと十歳ほどに成長し老夫婦と共に田畑を少し耕しても今度は税の取り立てが厳しくなる。

 十歳にもなると人としてその存在を認められる、それはすなわち「納税の義務」が発生することなのだ、田畑の収穫はその殆どを税として納めなければならない。

 だから桃太郎は悩んでいるのだ、この貧しさから如何にして脱却するかと。


 ある日桃太郎は素晴らしい情報を仕入れた、どこかの村の桃太郎が「鬼が島で鬼を退治して、金銀財宝を得て故郷に錦を飾った」という噂だ。

 老夫婦に確かめると偶にある話らしい、しかしこの村は鬼との関係も悪くない、文化の違いがあるので価値観も違う。過去には諍いもあったらしいが、お互いに干渉しない事によって今では摩擦も無く交易によって利を得ている者もいるらしい。

しかし桃太郎にとって「鬼ヶ島=金銀財宝」の図式が出来上がってしまっていた。

「鬼退治をなさねば成らない」


 桃太郎はさっそく鬼退治の計画を練り始めた、農家の倅である桃太郎に戦の経験は勿論のこと武術の嗜みすらない、鍬や鎌しか持ったことがないのだ。

 桃太郎自体戦闘能力は皆無と言って良い、噂によると「犬、猿、雉」を従えていたとか、如何にして「犬、猿、雉」を己の戦闘要員として従わせるか、「黍団子」の噂を得た桃太郎は、老婆に黍団子を作らせた。

 老婆は非常食として備蓄していた雑穀を挽いて粉にして水を加えて丸め蒸す、加熱し団子になった物に残しておいた雑穀の粉をまぶす、現代の黍団子とは名は同じだが全くの別物である、貧しい桃太郎の家には砂糖なんてものはない。

 砂糖は平安時代では中国からの輸入品なので公家が知る程度、室町時代では貴族の嗜好品であり鎌倉時代にやっと富裕層に知れ、江戸中期に庶民に伝わるが貧農の桃太郎一家には砂糖なんて食べた事と言うより砂糖の存在そのものを知らない。

「黍団子」はできた、飢え死にしない様に食い繋ぐべく備蓄してきた老夫婦のセイフティネットである非常食の雑穀を使い尽くした黍団子である。


 黍団子を手に入れた桃太郎は老夫婦に鬼退治に行くことを告げる、老夫婦は諫めるがお花畑脳の桃太郎は聞く耳も持たず出発する。

 噂では「鬼ヶ島へ向かって歩いていると犬が『黍団子一つくださいお供します』とすり寄ってくる」はずなのだが、一向にその気配はない。

 歩いていると看板が目に入る。

 『猿蟹農園』


なんだこれ、覗いてみると猿が柿の木の上から柿を投げているではないか。

『猿蟹合戦だな、蟹を助けなくては』

桃太郎は蟹の元へ駆けつけながら猿に叫ぶ、

『柿ぶつけるな!』

すると蟹が振り向いて一言

「収穫の邪魔せんといてくれる!」


 聞くと瀕死の猿を蟹が助けたそうだ。

 猿は群れから追い出され放浪していた、放浪はオス猿の宿命らしい、空腹に耐えながら放浪していると柿の木を見つけた、たわわに実る柿は甘く旨かった、猿は柿を食べ続けたが四日目にそれは起こった、突然の嘔吐と胃痛、痛みに耐えかね木からもずり落ちる、幸い猿は木から落ちても猿のままだった、議員が落ちると何かに代わるらしい、何か知らないけど。

 猿はもがき苦しみ意識を失ったところを蟹に助けられたそうだ。

 蟹は猿を背負って帰り胃洗浄を施した、と言っても無理やり水を飲ませ吐かせただけなのだが、柿胃石症は早期なら胃洗浄で何とかなることもあるらしい。

 少し回復した猿にお約束のオムスビを与え介抱を続けた。

 快癒した猿は自分が食べた柿が大層美味しかったことを柿に伝え、柿農園を営むことを蟹に提案する、蟹も快諾し猿と蟹は柿農園を始めた。


 流石に山の植生を熟知している猿が勧めるだけあってその柿は非常にうまかった、蟹が『早く芽を出せ柿の種、出さぬとハサミでちょん切るぞ』と出てない芽もちょん切ると脅された柿の種は全力を振り絞って芽を出す、やっとの思いで芽を出すと『早く木に成れ柿の種、早くならねばちょん切るぞ』と脅しを強くする、何とか木に成長するとさらに蟹は『早く実を成せ柿の種、早く成さねばちょん切るぞ』と流石に「木」に育った柿はハサミで切れないらしく「ハサミで」とは言わなかったがちょん切ると脅し続ける、柿にとっては完全にブラック農園である。

 しかし蟹は柿のケアも怠らなかった、蟹は友人達を総動員した。

ハチは受粉に協力し別枠で蜜も集めている、クリはイガを農園の周りに撒いて柵にして害獣から柿を守っている、牛糞は柿に養分を提供しているし、臼は柿餅や柿渋の生産のために他の場所で工場を営んでいる、搗くには水車の使えるところが良いそうだ。

 猿の友人たちも協力した、犬は番犬としてクリのイガでは防ぎきれない害獣から農園全体を守っているし、雉は柿に付く害虫を食べているしカラスなどの害鳥からも柿の木を守っている。

 蟹の子供たちは干し柿用の柿の皮を剥くのに必要な要員だし、新製品の研究にも取り掛かっている。

 砂糖が貴族にしか入手できないこの時代に庶民が唯一手にできる「甘み」が柿だ、さらにハチが集めた蜜で何かする計画も着々と進んでいるらしい。

 食用柿以外にも柿渋の販売もある、柿渋は防腐剤だ、布に染み込ませて防腐布として用いる、今は柿渋として販売しているが、手が足りるようになれば製品を販売したいのが企業としての目論見だがいかんせん手が足りない。


 ここまで聞いてもお花畑脳な桃太郎は犬猿雉に鬼ヶ島へ鬼退治にと誘うが、犬猿雉共に家族を持っている。

 雉はカラスじゃないが七つの子がある七歳ではない七羽だ、複数の雌が雉の縄張りに侵入してきて関係を持つのだが雌は子を雄に見せない、だから推定七羽の子が居る事にしている。犬の子の数に合わせたのだ、雌と一緒に暮らす習慣のない雉にとっては普通の事だが群れを成す猿や犬には全く理解ができない。

 猿は近くに住む群れから数頭の嫁を貰っている、群れに嫁が欲しいと掛け合うとボス猿は話を聞いてくれて、将来に亘って食うに困る心配がない企業家であること、助けられた恩に報いるべく努力の猿であること、旨い柿を見つけそれを起業に結び付ける才覚のあることなどが評価され、ボス猿の娘が嫁に来ることとなったが、それを聞いた他の雌猿が数頭手を挙げた、経産婦であり子育ての経験もあるベテラン二頭が雌の赤ちゃんを連れ子して、まだ発情しない若い雌も二頭だ、今は新婚と言う事でボスの娘だけが一緒に暮らしているが発情が始まれば後の四頭もやってくる、未発情の若い雌は子育て支援と見習いだ。

 猿としては若い雌の一頭でも嫁に貰えれば十分と考えていたのだが、確実に出産能力のある二頭の雌と将来の出産を期待できる未発情の雌や赤ちゃんの雌まで嫁に来てもらえれば、一気に群れが成形できる、更に五頭の雌が上手く出産してくれれば数年後には三十頭前後の大きな群れに成れる、戦わずしてボス猿に成れるのだ。

 犬は雌だったため婿を取ったらしい二度の出産を経てこちらも七頭の子供を従えた九頭の群れだ。


 死の危険を冒して鬼と戦い略奪を行う。褒美は貰っても困るような雑穀団子。

 一方こちらの生活は高い将来性と安定性に培われた高給と好待遇だ。

 こんな話に誰も乗って来る筈がない。

 けんもほろろに断られる、流石に雉である「ケン」も「ホロロ」も得意だ。





 ある方の作品に出てきた「フカシ話」とはどんな話だろうと思い書いてみました。

過去に小生のブログで書いたものもこちらに移動したいと思っております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ