静かなパートナー
今回、場合によっては何日もここに留まる任務である為、仮拠点には食料や物資が充分用意されている。
当然、帰ってきた団員が一息つく為の水もだ。
初陣を切った団員達は第二陣の行動中、次に備えて休息を取っていた。
オリセは蛇口のついた樽から水を2人分コップに移し、くたびれた顔で地面に座り込んでいるエミイの元へそれを運んだ。
「これ……」
「……もしかして気使ってるの?まあ、ありがと……」
コップを受け取り、全て飲み干す。
程よく冷たい水が体内に染み渡り、仮拠点に到着した途端に襲ってきたベーズに物理的に振り回された疲労感が安らぐ様な感覚を覚える。
「……座ったら?」
エミイは自分の隣。
何も無い地面を指してそう言った。
オリセは断る理由もない為、それに従い、静かに座る。
「……鼻血、もう止まったの?」
オリセは頷く。
過度な魔術の行使は体に異変を齎す。
それを知るエミイは、オリセが扱っていた「木精兵」が異質であると感じていた。
「説明して頂戴、あれは何?いつの間に合あんな物を考えたの?」
「……アイデア自体は前からあった……形になったのは……最近の事だ」
「ふうん……まあいいけど、次までに使いこなせる様になってなさいよ」
オリセは再び頷いた。
ある程度体力と気力が回復した、全員いつ出番が来ても飛び出せるが時間にはまだ余裕がある。
故に現在は休息と準備、という名目での暇つぶしの時間だった。
狙撃組に連絡をするために走り出すクドと違い、二人には現状できることが待機しかないのだ。
「それで、貴方の方はどうだった?」
「……どう……とは……」
「渡り月以外の団員と二人きりだった感想」
オリセはアリッサとの道中を思い返す。
彼女はノヤリスの古参であるが故に堂々としていた。
しかし完璧ではなかった。
「……彼女は、冗談の様に物を落とす……それが、危なっかしく見えた……そういうエミイは……」
オリセと違い、エミイは思い返す事は無かった。
彼に関しての印象はそう簡単に消える様な濃さではないからだ。
「最悪だったわ、うるさくて疲れる感じ……なのに妙にいい香りがするのが腹立たしかったわ」
二人揃って無意識に、少し離れた位置でアリッサと話しているベーズに視線を送る。
それにすぐさま感づいたベーズからの投げキッスに冷たい目だけを返し、話を再開する。
「チッ……はぁ、この作戦が終わるまでにあとは誰と組むのかしら。アレくらい騒がしいのは団長か、ラニか、チャシくらいだろうけど……多いわね……」
作戦が長引けば、場合によっては再びベーズと組む事になる。
そう考えるだけで、エミイは今から気が疲れる様な感覚がした。
「まあそういう意味では、普段は静かな貴方がパートナーで良かったわ……」
「……?自分とエミイは、パートナー……なのか……?」
「……?」
指摘され、自分の発言を思い返す。
パートナー。
それは誰に定められたでもなく、エミイがそう思っていた為に出た、無意識の言葉だった。
コルとラニが二人で行動する事が多々あったこと、その際オリセと二人になる事も多々あったこと。
そして何より、そういった時間が嫌いでは無かったこと。
エミイは自覚のない内にオリセをパートナーだと思っていた。
普段自分を曲げないエミイであったが、妙にらしくない事を言った気がし、赤くなって取り繕う。
「……ふん、そう言う形にしといた方が色々と……そう、都合がいいでしょう?貴方を私のパートナーにしてあげる、あくまで戦略的な意味の、ね!隊長命令よ!」
「……光栄だ……ふ……」
オリセは少し微笑んだ。
彼もまた、そんなエミイの側に居心地の良さを感じていたからだ。
「……まだ少し喉が乾くわ、ついでに貴方のも取ってくるから、大人しく座ってなさい」
エミイは地面から立ち上がる。
何も敷かずにそのまま座り込み、木に背を預けていた為、スカートには土が、背中には木屑がついていた。
(……全く、あの頃とは比べ物にならないわね……お互いに……)
エミイは渡り月が初めて集まった日を思い出し、オリセに見えない様に微笑む。
そしてスカートの土を払って水の入った樽へ向かった。




