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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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バトンタッチ

第二陣の組分けはまず、クムルがラニを指名した事から始まった。

それにより、一番戦闘力の低いラックが必然的に、戦闘力の高いチャシと組むことになる。

そして残ったクドとデールが組むことになり、短時間でペアを作ることができた。

そして周囲を警戒しつつ待機していた彼らは今――。


「は……『畑』!」

「け……け……け……『剣』!あっ!」

「ガハハ!ワシの勝ち!ラニ、お前さんしりとり下手だな!」

「チャシさんもさっき『ご飯』で負けてましたけどね……今ので2対3です」

クムルは手帳に二人の拮抗するしりとり対決の結果を書き記していた。

出てきた言葉全てを手帳に書いてもなお埋まらなかった頁が、5戦目にしてようやく埋まった所だ。

「しりとりって基本的に飽きるまで終わらない物だと思うのよね……というか流石に気抜きすなのよ……」

そう言って6戦目を始めようとする二人を止めに来たラックが不意に足元を見る。

そこには大きな身体をした熊の亜人、デールが横たわっていた。

前回の解放作戦にて、亜人狩り組織『カトリス』から解放された亜人の中の一人でありながら、団員として受け入れられてそう時間も立たぬうちに戦闘員に志願した彼は、その実力を買われてチャシが隊長を務める部隊『酔鳥』に加入し、チャシの推薦によりこの作戦にも参加している。

だが彼は作戦会議からここに来るまで、ずっと睡魔と戦っており、今に関しては睡魔に負けて固い土の上で眠っている。

よってラックの懸念も当然であった。

「いや作戦中に寝ないで欲しいのよね……」

「ガハハ!そう言うな!出不精のお前さんは知らんだろうがデールは強いぞ!それに初任務で寝れるなんざ、肝が座ってていい!」



それからそう時間も立たないうちに、ハルザト拠点のある方角の茂みから、音もなく白兎の亜人、クドが現れる。

「第一陣、撤退進路への移動に成功。ここに到着し次第我々も出発するが故、皆の衆準備されよ」

しりとりをやめてから、枝を拾って地面に落書きをしていたラニもそれを聞き、待ってましたと言わんばかりに肩を回す。

「やっとか、っし!行くぞクムル」

「はい!」

(今回の作戦は色んな組み合わせで少人数故に法則性を読まれやすい我々の弱点を誤魔化す事が大事……とは言え、僕がやるべきことは一人でも強いラニさんのサポート……)

この時クムルには一つ、作戦とは全く関係のない思惑があった。

初めてラニと出会った時。

自ら編み出した回避不能の錬金道具コンボをいとも容易く打ち砕き、その上倒れる自分の手を握った力強い手。

その手の温度を彼は毎晩のように思い出していた。

(ここでラニさんにいいところを見せたい!)

クムル、梟の亜人。

16歳。

たとえノヤリスの亜人であろうと、ラックを師に持つ錬金術士見習いであろうと。

彼は年上の女性の強さに惹かれた、思春期真っ盛りの男であった。

そしてこの場でその事に気がついているのは気まずそうにしているラックだけだ。

それ故にチャシは悪気無しの質問をする。

「そういや考えてなかったけどよ、クムルお前さんラニの足についていけるのか?」

「……あっ」

「考えてなかったって顔だな……つっても同速で走れるのはワシくらい……あーでもこれは良くないな、ワシとラニは前に共闘したし、ラックとお前さんじゃいつものコンビだ……まあ一旦一組くらいなら……」

「い、嫌です!」

クムルは思わず大声で反論してしまう。

幸いにも森を吹き抜ける風が騒がしく、作戦に支障をきたすものではないが、焦って自らの口を抑えた。

「……ついに師匠離れかぁ……思ってたよりも何倍も早かったのよね……」

「違、違いますよ!師匠は今でも尊敬して……っていつかわかっててやってるでしょう!」

いつも通り兜を身に着けているため、ラックの表情はわからない。

だがその声色の奥には確実に笑みを隠していた。

「まあ僕の方はチャシが担いでってくれる予定だけど、そっちはどう?」

「担ぐか、うん、クムルくらいなら行けるぞ。昔コルを担いで走った事だってあるからな」

ラニは肩に担ごうと、小柄とは言え年相応の体格をしたクムルを軽々と持ち上げる。

だがラニは、持ち上げたまま次に行こうとしない。

「……あの……恥ずかしいんですけど……」

結果として宙吊り状態のクムルが困惑と共に赤面する中、ラニはただただ不思議そうな表情をしていた。

「?どしたよ、腹でも痛いか?そいつは良くないな、ラック、胃薬持ってるか?」

「あるけどあれは絶対そういう顔ではないのよ……具体的に何かわかんないけど、一旦降ろしてやりなよ」

「あ……おう……」

言われた通り、素直にクムルを地面にそっと置く。

その様子はチャシやラックだけではなく、待機中のクドと寝ぼけ眼のデールも含めた全員が見ていた。

そして全員が、ラニのその行動を理解できない様子だった。

それもその筈だ。

当の本人にすらも理解ができなかったのだから。

「???……なんか、よくわかんねーけど……クムル!お前チャシに連れてってもらえ!デカいから二人くらいなら乗せれるだろ!」

「え!?ああはいそうします!」

「おいおいいいけどよ、ほんとに大丈夫か?腹痛いなら今のうちに胃薬……」

チャシの杞憂をかき消すように、前方の茂みがガサガサと大きな音を立て、バハメロを先頭に第一陣の団員達が全員揃って顔を見せる。

「ほら!ほら行くぞ!」

ラニは我先にと走り始める。

後ろにいるクムル達を意識しながら、全力は出さずに走る。

わずかに疲労が見えるエミイとすれ違う時、アイコンタクトで彼女を労い、代わりに彼女からも視線で送り出される。


(??……なんだ?なんで私、『クムルを乗せたくない』って思ったんだ?クムルは仲間だし、コルなら前に担いだのに?)

「……わかんねー!ああ!後で考えよう!」

ラニは任務の遂行に意識を戻し、第一陣から託されたバトンを受け継いでハルザトの拠点へ向かう。

いつの間にか音もなく前を走るクドと、結果として眠り続けるデールと、二人の錬金術師を背負って速度を落とさずに走るチャシを見て、頼もしさを覚えながら暗い森を駆け抜けた。


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