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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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命令大音量

エミイをリードするベーズのステップが少しづつ速度を落とし、背筋のピンとはった立ち姿で完全に止まる。

周囲の亜人狩りが攻撃の手を緩めたからだ。

「あら?んもう、せっかくエミイちゃんがノッて来たのに……もうおしまい?」

「……っ、クソッ!このオカマ野郎……!」

「誰がオカマよ!」

怯みきった亜人狩り達は前に進もうとしない。

エミイはベーズにのみ聞こえるよう小声で話しかけた。

「ここからどうするの?」

「そうねぇん……」

ベーズは悩ましげに腰から下げていた時計を見る。

「やっだぁもうすぐ撤退の時間だわ!じゃあそろそろ……」

時計の針から、離れた所にある拠点の壁に視線を向ける。

汚れた灰色の壁にヒビが入り、そこからカロロを担いだバハメロが姿を現した。

「持たせたな!二人共!」

「ううん、いま来たとこ♡」

担がれているカロロはぐったりしているもののダメージを負った様子はない。

恐らくは魔術の使用から来る疲労感だろう。

「どんな戦い方したらそんな事になるのかしら……」

話している間にも、亜人狩りは四人を囲み、武器の切っ先を向けていた。

彼らは攻めるでも逃げるでもなく、ただ事態が好転した瞬間に動ける距離を維持している。

そんな彼らを動かす事態はすぐに訪れた

「ケホッ……!団長、増援が……」

「うむ、聞こえているのである」

バハメロ達が感づいたのは拠点内から轟く、集団の足音だった。

バハメロが攻撃態勢に入る。

そしてベーズも再び手を取ろうとしたが、当のエミイバハメロ達がいる為にその手を身もせずにはたき落とした。

「んもう、シャイガール……」

そのまましぶしぶ一人でステップを刻み始めた時だった。

増援を期待していた亜人狩りを含め、その場にいた全員が呆気にとられる。

聞き慣れない音と共に、建物に亀裂を入れながら飛び出してきたのはおびただしい数の木の兵士達だったからだ。

「あれ……オリセ!?」

「……!」

兵士の波に流されていたオリセとアリッサはエミイを見つけ、なんとか四人の元へと辿り着く。

その間兵士達は不規則に亜人狩りを襲い、場をかき乱し続けている。

「ちょっと何ぃ!?なんなのあの子たち!?」

「……!オリセ、貴方鼻血が……」

「……問題ない」

オリセは袖で鼻血を拭う。

その表情はカロロの比ではないほど消耗していた。

「貴方……一体どれだけ魔術を使ったの?」

「……一度……一度だけだ」

オリセが指を指したのは、現在進行系で場を混沌とさせている木の兵士達。

その数はざっと見ただけで30体はいた。

「なんなのアレ……あんな魔術聞いたことないわ」

「種から兵士を作る『木精兵』……最初は良かった、だが……」

「だが?」

「……増えた……その上命令も聞かない……」

「命令は聞こえてないだけだと思うけどね、それより今のうちに撤退するよ」

「んもうアリッサちゃんったら、一番遅かったのはアリ――」

「うわあああ!」

ベーズの小言を遮るように亜人狩りが木精兵により投げ飛ばされて来る。

「戦場が混乱しすぎである、これでは逃げづらいな……オリセ!アレはオリセが命じればその通り動くのか?」

オリセは頷いた。

「だが……全員に命令を伝えなければ……」

無理だと言おうとしたその時、その瞬間。

オリセは目の前で自分同様に消耗している少女に気がついた。

「?……あっ……」



木精兵達は武器を持たない。

ただ徒手空拳により、オリセに命じられた『突撃』を実行している。

理由は定かでないが発動時より増殖した兵全員の命令を上書きするには、発動者のオリセ自身が、この騒音に満ちた状況で新たな命令を下すしかなかった。

オリセのみであれば、それは不可能な事だった。

「――……、はい、ではオリセさん!けほつ……どうぞ」

カロロの音魔術、それは自身の声を武器とするだけでなく、他者の声に作用させる事もできる。

単純に、数秒声量をあげるだけなら消費する魔力や喉の負担はほんの些細な事だった。

(……命令……)

オリセはバハメロの指揮を思い起こし、大胆に、そして堂々と木精兵に命令を下した。

『総員……!陣形を組め、退路を確保せよ……!』

音魔術によって拡声された命令により、木精兵は無作為な暴力を止め、複数の部隊を編成し、六人を撤退させる為一番効率のいい動きを始めた。

そのかいあって、まるで道が照らされたように完璧な退路が浮かび上がる。

「よしあそこである!全員行くのである!……あっそうだオリセ、音魔術が続いているうちに言って欲しい事が……ごにょごにょ」

バハメロから耳打ちを受けたオリセは頷き、言われた事を言われたままに宣言した。

『……聞こえているか、組織の頭よ……!我々はすぐに戻るぞ、その時は再び問うのである、投降するか?とな……!』

音魔術の効果が消滅すると同時に、六人は森の中へと引き、他の団員が隠れているポイントまでの撤退に成功した。

魔術使い二人が消耗している事を除けば全員無傷であり、第一陣としては成功といって問題ない成果となった。

だがこの作戦はこれでは終わらない。

第二陣は既に出撃の準備を終えていた。

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