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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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拳を振るう木

エミイ、ベーズコンビが入り口付近で戦っている頃。

オリセ、アリッサコンビはバハメロ、カロロコンビと分かれ道で分散し建物の中を探索していた。


「さあずいずい行くよ、しっかりついといで!」

アリッサは呑気な物言いで、腰から下げた自慢の工具を取り出し、それで壁を軽く叩く。

二人は建物内部に侵入してから未だ亜人狩りに遭遇していない。

「ふんふん、硬度はこんなもんかな……パワー系の団員なら問題なし……と!」

「……建物の破壊は第二陣からだと言われている……」

「ああ大丈夫大丈夫、後続の為に調査してるだけ!」

団員番号9番、アリッサ。

ノヤリス創設後初めての団員。

悪魔系の亜人であり、角や尻尾は全体的に白く、それ故に普段からどこかしらに煤をつけているのがよく目立つ女。

技術部隊『鋼花』に所属する古参であり、エンジニアでありながらその器用さと行動力で前線に立つ事から、団の中でも信頼の厚い人物だった。

頻繁に落とし物をするという点に目を瞑れば、大抵のことはそつなくこなせる万能型。

さらに技術面だけではなくコミュニケーションに置いても万能で、相手の感情を読み取る事に長けている。

それは表情の薄いオリセ相手も同じだった

「他のみんなが心配?」

「……いや……」

「ふーん、あたいは心配だよ、特にベーズに捕まったエミイがね……かわいそうに、明日はきっと筋肉痛だろうから労ってやりな」

ベーズの戦い方を知らないオリセは首をかしげるだけだった。


二人の主な役目は破壊工作。

拠点に爆薬を仕掛けたり扉に細工したりして亜人狩りの行動力を下げる。

とはいえそれはアリッサの仕事であり、オリセはあくまで護衛のような立ち位置だった。

「ふんふんふーん……あれ?ハンマーどこ置いたっけ」

「……足の下のそれか……?」

「足の下……そうそうこれこれ、ふんふんーん……ところでさ、オリセって何歳?」

「……18」

「18!?大人びてるってよく言われない?身長同じくらいだし年齢もあたいと同じくらいかと思ってた、ちなみにあたいは22ね、うちって何かと20代多めだよな〜」

呑気に雑談と鼻歌混じりの作業をするアリッサの邪魔をする者は現れない。

二人の元には未だに亜人狩りが一人も襲ってこないのだ。

それでもオリセが警戒を緩めずにあたりを見回していると、そのうちにアリッサの作業も終わった。

「……次に行くか」

「待って……うーん」

「どうか……したか?」

「いや引き返そう!嫌な予感……というか、そうだな……他所から聞こえる戦闘音と比べてこっちが静かすぎる、なーんか泳がされてる気がしてきた……」

そうアリッサが言った途端、来た道から一本の長い針が飛んできた。

その矢は二人のどちらに当たることもなかった、アリッサが手元にあった工具ではたき落としたからだ。

「ほら!感づいた途端これだ!」

「……気が付かなかった……警戒はしていたはず……」

通路のあちこちから亜人狩りが現れる。

素直に扉から出てくる者もいれば、天井から降りてくる者もいた。

「昔話に出てくるニンジャジュツってやつ?こんなにいたのに攻撃してこなかったってことはそれだけオリセが警戒できてたってことだから自信持ちな!それに一応ここ敵のホームだからね、ほら来るよ!」


二人を囲む覆面の亜人狩りはとても素早く、ほんの一瞬で彼らの持つ短刀の間合いに入り込んでくる。

それは同様に、既にナイフを取り出していたオリセの間合いでもあった。

そのまま、すれ違いざまに手首を切り、亜人狩りの手から短刀を落としてアリッサのカバーに向かう。

だが必要なかった。

一瞬目を離した間に、アリッサは遅い来る亜人狩りを二人地に転がしてそこに立っていたからだ。

彼女が握っているのは先程作業中に近くへ乱雑に放り投げた工具だ。

「……どうかした?」

「……いや、なんでもない……それよりどう切り抜ける……?」

「これ以上後退するとさらに奥に押し込まれて不利になるだろうし、突破するしかないけど……多いなぁ、まともにやったらキリがなさそうだ!」

「……自分に任せて欲しい」

オリセは懐から取り出した小さな袋からさらに小さな種を取り出した。

「前回の……反省を踏まえて……集団戦を想定した準備もしてきた」

取り出した種を十粒ほど前方にばらまく。

「木、種、芽吹け、生命――」

亜人狩り達は気づいていなかった。

あまりにもナイフを持つ姿が様になっていた為、対峙しているのが魔術使いである可能性を考慮せず、揃いも揃って間合いを取ってしまっていた。

その誤ちを理解するまでの時間は、魔術使いにとっては充分すぎる。

「『突き進め、木精兵』!」

ばらまかれた種達が、オリセの詠唱に呼応するように急激な成長を見せる。

そして形となった植物は文字通り、木でできた兵士そのものだった。

「……突撃……」

手を前に突き出し命令するも、木精兵達は動かない。

「あれ、もしかして聞こえてないんじゃないの?」

「……突撃……!」

少し声を張って、改めて命令する。

すると次は命令に応じ、10体の木精兵全てが亜人狩りに突撃をかける。

「わーお……木にも耳ってあるのかね……?」

数だけで言うなら倍近く存在したはずの亜人狩りを、武器も持たない木精兵が全て蹴散らすのに、そう時間はかからなかった。

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