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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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ダンシング☆ナイトinハルザトホーム

ハルザトの拠点に、バハメロが初撃で開けた大穴から乗り込み、6人の団員達はそれぞれ分散し亜人狩りを各自撃破していく。

そんな中の1組、エミイとベーズは一番入口に近い開けた場所での戦闘を任されていた。


団員番号17番、ベーズ。

男性でありながら化粧に心血を注ぎ、鳥系の亜人特有の背中にある翼の手入れを怠らない。

ある意味どの亜人よりも目立つ派手な男。

そんな彼は僅かな違和感を感じていた。

「うーん、変ねぇ?」

「……変って?」

「ンもう、エミイちゃんもわかるでしょう?団長が突撃するって宣言したとはいえ敵の準備が整いすぎよ!まさかここの亜人狩り……いつも夜更かしするタイプ!?やだ!通りでどいつもこいつもお肌ガサガサ!」

ベーズとエミイのコンビは今、例に漏れず撃退用の物騒な武器を持った亜人狩りに囲まれ、逃げ場を失っている。

ベーズが一人違和感に対して考え込んでいる間に、エミイ一人では捌ききれない量の亜人狩りが四方からやってきたのだ。

背中合わせに立ち、お互いに死角をカバーしているが、徐々に円の半径が縮まっていく。

「……はぁ、他コンビの助けは期待できないし、私達ここまでね。こんな濃い男性と共に最後を迎えるなんて、はっきり言って最悪だわ」

エミイが皮肉混じりの溜息をついた所でようやく、ベーズが思考の海から帰還した。

「まあ想定の範囲内、作戦に支障はないわ」

「貴方話聞いてる?周り見えてる?私達が捕まっても作戦に支障はないって言えるかしら?」

「モー、エミイちゃんは綺麗でキュートなのに、心の余裕が無さすぎね♡世界はもっと華やかに、それでいてビューーティフルに生きるモノよ」

そう言ってベーズはエミイに手を差し出す。

「……何?」

「お手をどうぞ、お嬢さん♡」

この男、作戦開始からこれまで一度も武器を取り出さなかった。

とても近接戦が得意な体躯にも見えなかった為エミイはずっと、ベーズは魔術使いなのだろうと思い込んでいた。

それは二人を取り囲む亜人狩りも同じだった。

無駄のない優雅な所作で差し出された手に、エミイが手を乗せる。

「さぁ、ワタシに委ねて、行くわよ行くわよ行くわよ!そぉれ!」

重ねた手を優をしく握ったかと思うと、ベーズはその手を引き、彼の背中を彩る鮮やかな翼を盾にするように、亜人狩りへと体当たりをした。

「ちょっと……っ!」

一見荒く手を引かれた様にも見える動きだった、無理やり方位を突破するための愚策にも見えた。

だがそうではない。

力加減、足取り、バランス、その全てが二人に一切負担をかけていない。

「次はこう!そして……ターーーンッ!」

突如として始まったそれは既に攻撃を含んだ立ち回りだった。

気分が悪くなるほど派手な翼と長い足、そして予測不可能な動きを使った連続打撃。

まるでダンスのよう、と言う次元ではない。

これはダンスそのものだ、彼はダンスで戦っている。

「あらあらあら!エミイちゃんステップ上手じゃない!やってた?」

「知らないわよ!見たことはあるけど……っていうか手離しなさいよ、塞がってたら魔術が使えないでしょう」

「そんな事言って、正直ちょっと楽しんでるでしょう?」

「……ふん、ちょっとね」

「私も二人で踊るといつもよりキレがいいわ〜〜♡」

話しているうちにも、ベーズのリードされるまま体を動かしているだけで襲い来る亜人狩りを撃退できるのは戦況的にも有効だった。


「あのオカマ強え……」

「それに不気味だ……」

多少引き気味に、大勢いる亜人狩りの中の誰かが呟く。

それは夜風に吹かれて優雅に踊る、美しさすら感じる戦闘を終わらせる呪文だった。

「誰がオカマよ!」

怒りを隠すこともなく亜人狩りを睨みつける。

先程までの清々しい笑顔からは似ても似つかない、まさしく悪魔の形相。

「絶対許さないわ!あのブサイクダサヘアー男!」

「それで?この手は離していいのかしら」

「……いいや、今日はとことん踊るわ!頭にきちゃったから!」

ベーズは再びエミイをリードし踊り始める。


先程までとは違い、熱く、激しく、勇ましい踊りだった。

だが先程までと違い、どこか動きにキレがない。

まるで何かが足りないような雰囲気だった。

(ああなるほど、じゃあ次のステップから……)

その理由が自分であると気がついたエミイの行動は早かった。

「っふ!」

「エミイちゃんアナタ……!」

華奢な体を思い切り使った大振りの蹴り。

それをベーズが完璧に支える。 

「仕方ないから、貴方のやり方に付き合ってあげる。なんなら私がリードしてもいいのよ?」

「あら、いいオンナ♡でもアタシ譲らない!欲しいなら奪ってご覧なさい!」

そこからのダンスはより洗礼され、美しさと共に攻撃としても強固な、完成されたモノとなった。

そんな二人を見ている亜人狩りもただ近づいた順番に蹴散らされる仲間を見て呆気に取られるばかりではない。

「ふざけやがって……!」

「そうだ、この状況でほんとにここまでふざけてる事があるか!」

「数の有利に変わりはない!やっちまえ!」

余裕を見せるベーズ達に腹を立てた亜人狩りは勢いを増す。

多種多様な男達が、多種多様な武器を持ってズカズカと詰め寄ってくる。

「フン!ブサイクな男達に群がられても嬉しくないのよー!」

「じゃあ……次は右足?」

「ウーン、そうしましょ♡」

二人は亜人狩り達を正面に見据えて半歩前に足を進め、ベーズがつま先で刻むリズムを全身に覚え込ませた。

「さあ行くわよエミイちゃん!第二幕!熱く!激しく!そして情熱的にぃ……♡名付けて『メラメラパッション〜ギラギラガールと今夜だけ……〜』」!

その瞬間、エミイは終わるまで他の団員に見られないように心の底から祈った。

そして終わり次第、壊滅的なタイトルだけは変えさせようと深く決意した。



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