ハルザト波状攻撃作戦 開始
コルが機車での一人旅を再開した頃。
曇り空の下、バハメロ率いる団員達は亜人狩り組織『ハルザト』の拠点附近にたどり着いていた。
「では、初陣は吾輩と……カロロ、共に往くぞ」
「は、はい!」
「ほれ、こいつがいるんだろう」
チャシは荷物の中から人形を取り出しカロロに手渡した。
この人形がハルザト内からの通信を使った援軍を遮断する。
作戦の要とも言える錬金道具だ。
「チャシには第二陣の指揮を頼むのである、あと初陣は……」
バハメロは残り二組、共に先陣を切るメンバーを編成しようと考えている。
そこに前のめりに手を挙げる男がいた。
「はいは〜い☆アタシも行くわ!」
「ベーズか、ならペアはアリッサで……」
「やあね団長、確かにアタシとアリッサはベストコンビだけど、今回は色んな組み合わせで戦場を掻き乱すんでしょう?だったら、アリッサベーズコンビは後での、お、た、の、し、み♡でしょ」
アリッサはそれを呆れ半分に溜息をつきながら承諾する。
「じゃああんた誰と行くつもり?」
「え?指名していいの?え〜ヤダ〜どうしよ〜」
ベーズはわざとらしくもじもじとしているが、既に決めているのが視線で解る。
気合の入った化粧の施されたまつ毛から覗く熱い視線は、まっすぐエミイに向けられていた。
「……嫌って言ったらどうする?」
「そんな事言わないで、ずっとお話してみたいなって思ってたの」
「じゃあ交換ってことで、そのオカマあげるからあたしはオリセと行くわ、それでいい?」
オリセは黙って頷いた。
そんなバハメロ達が見据える拠点の最奥。
1人の男が空を眺めながら部下と話をしていた。
「今日はいい夜だ、そうは思いませんか?」
「……月も見えない曇りですぜ」
「……それもそうですね」
暗がりに男の白い長髪が浮いてよく目立つ。
「ボス、どうして明かりを消して外を眺め続けているんですかい?」
「今日は暗くて、森が騒がしくて……風が『悪い物』を運ぶには最適な環境だ、そう思ったんです」
「はははまさかそんな事、ボスの読みはよく当たりますけど、流石に今回は――」
「……!」
その男は話している間も、暗い部屋から外を見るのを止めていなかった。
時間にしてはほんの一瞬。
木々の隙間の暗闇からこちらに向かう『人影』を、彼だけは見逃さなかったのだ。
「君、全員を起こして来てください!それと見張りに警戒態勢指示……いいえ、それはいいです、もう落とされているでしょう」
「ど、どういうことですか!?」
一瞬の人影から、あらゆる事を推測できた男と違い、部下の男は戸惑いを隠せないまま狼狽えている。
「敵がこちらに向かっています、見張り櫓は既に敵の手中そして絶好の高所、すぐに利用されます、もし相手が飛び道具を持参しているとすれば下手に拠点を出て応援を呼びに他の拠点に送った兵を止めるのは容易い……何をしているんですか早く――」
結論として、拠点で呑気に眠っていた亜人狩り達は同時に目を覚ます。
拠点がまるごと、轟音と共に揺れたからだ。
「っ……!早すぎる……!」
『あー、あー、聞こえるか!亜人狩り!』
バハメロの喉に、カロロが魔術を施す。
シンプルに声を遠くに伝えやすくする音魔術だ。
『我々は亜人奴隷解放の為ここに来た!今からこの拠点と中にいるお前達をめちゃくちゃにして亜人達を連れて帰る!投降するなら命は取らん!』
「……ほんとにこんな堂々と正面から行くべきなのかしら」
「う〜ん、団長のパンチで壁に穴開けた次点でバレてるんだし、戦わずに済むならそれでいいんだケド」
(……少し、団長らしくないな)
『我々は先陣!他にも仲間が控えている!出てこないなら――』
バハメロが言い切る前に、拠点の窓から発砲音が鳴り響き、バハメロの額から煙が立ち上る。
『……いい腕である』
弾は頭を抉ることなく、ギリギリのところでバハメロの指に挟まれ勢いを無くしていた。
「流石に指がひりひりするのである……皆、後方からの狙撃にも気をつけるよう」
正面から同様の声が聞こえる。
解放作戦はいつもそうだった。
飢え、渇き、追い回され、時に騙されて弱りきった亜人しか知らない亜人狩りに、万全の状態で挑んでくる亜人の力など予想もつかないのだ。
カロロの魔術はとうに切れていた。
だがそれでも、音魔術による拡声のないバハメロの勇ましい声は響き渡り、亜人狩りを震わせた。
「第一陣……攻撃開始、である!!」




