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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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六人の旅人

不思議な夢を見た。

誰かも知らない旅人達が長い道を意気揚々と歩いている夢だ。

夢の主はその旅人の中に、自分と瓜二つな女がいることに気がついた。

しかしよく見てみると赤い短髪に赤い角の自身とは違い、その女は赤い長髪に黒い角と微妙に違う。

旅人は他に5人いるのだが、彼らの顔はよく見えない。

この夢を不思議だと感じたのは、先頭を行く1人の男を除いた全員に、どこか見覚えがあったからだ。

「あんたらは一体――」

そう声を出した時が、夢の終わる時だった。

言葉が口から飛び出た時、ラニは既に目を開いて天井を見ていた。

偶然にもそれは長距離移動機車にてコルが眠りについたのと同じ時間だった。


「……変な夢見た気がする」

ベッドから体を起こし辺りを見回したラニはいつも目覚めた時に視界に映る景色と違う事に気がつく。

そこは拠点内の医務室だった。

ラニは自分がコルの下に駆けつけようとしていた事と、それをバハメロに止められた事、そしてそのバハメロに殴り飛ばされて気を失っていた事を思い出した。

「……コル……」

流石のラニも再び飛び出して無謀に機車を追いかけようとはしなかった。

親しくなった相手と正面から喧嘩をしたのは始めての事で、ラニなりに反省し落ち込んでいるからだ。

ベッドの上で俯いていると一枚の置手紙が目に入る。

「ん……エミイからだ」

その手紙は説教から始まり、コルが無事に危機を乗り越えた事と、『私とオリセは一晩中調べ事をして疲れている、昼まで寝かせて』という内容が記されており、普段は綺麗なエミイの字がズレている事からそれなりの疲労が感じられた。

「うぐ……無事なら連絡取りてーけど……今鈴鳴らしたらエミイに怒られそうだ……」

ラニは取り出しかけた鈴をしまい、二人が起きてくる昼まで我慢する事にした。


冷静に自身の行いを反省したラニは、一言謝らねばなるまいと思い、バハメロに会いに医務室を出た。

そこでちょうど医務室に入ろうとしていた団員とぶつかってしまう。

「うお、悪い……あ?ラックじゃねえか、拠点の奥以外で見たの初めてだ」

「げ……もう目覚めてたのね……」

錬金術師であるラックは普段、拠点最奥の工房から出てこない事で有名だった。

あいも変わらず服装に似合わない大きな兜で顔を隠しているが、明らかに気まずそうだ。

「……あー、団長に医務室から資材を取ってこいって頼まれて……ついでにラニの様子も見てきてって言われたのよ……ははげんきそーでなにより……」

ラニはラックが気まずそうにしているのはひとまず気にせずに話しかける。

「ちょうどいい、今からバハメロに会いに行くんだ、荷物運ぶの手伝うぞ」

「……じゃあお言葉に甘えて」


二人は木箱に詰められた布や薬を抱えて会議室へと向かった。

「なあラック、私今から団長に謝りに行くんだけど会議室ってことはもしかして忙しいか?」

「……それが回復状況次第では君にも参加してもらうつもりらしいのよ、だからまあ、その、いいんじゃないの」

数十分前に工房から出てきたラックは、二人が喧嘩したことを知らない。

謝るって何したの?という疑問を投げかけるかどうか悩んでいるうちに、それ以降一言も言葉を交わすことのないまま二人は会議室へたどり着いた。

「団長、頼まれてた物資を持ってきたのよ、そしたらラニも起きてて……」

「バハメロ、すまな……じゃなくて、ゴメンナサイ」

ラニが深々と頭を下げる。

誰に聞いた訳でもないが、心から謝る時はそうするべきだと思ってそうした。

それはバハメロも同じだった。

「吾輩もすまなかった……いや、ごめんなさい……である、カッとなって本気で殴ってしまった」

喧嘩後の謝罪に慣れていない二人はその後、同じく会議室にいたロナザメトが止めるまで頭を下げあっていた。


昼になり、改めてエミイとオリセ、そして他にも数人の団員が会議室に集められた。

「こほん、本来、ノヤリス内での喧嘩は説教の刑……ミクノさんによるお説教ですが、ミクノさん曰く『ごめんなさいができたならふもん』だそうですので、今は作戦会議に集中していただきます」

ここにいるほぼ全員が、集められた数や戦力から次の任務の内容を察していた。

そしてその予想通りの文字がバハメロの口から発せられる。

「今回の任務は『解放作戦』、前回の『カトリス』と同等の規模と予測される亜人狩り組織『ハルザト』に捕らえられている者達を解放する、ロナザメト」

「はい」

ロナザメトが壁にかけられた黒板に情報を貼り付けていく。

「ここにいるのはほとんど前回のカトリス襲撃作戦に参加した団員ですが、そうでない人の為に簡潔な説明を……あの任務は我々の勝利とは言い難く、百歩譲って引き分けと言ったところでした」

『処分』された亜人奴隷、団員の負傷。

どんな理由があれ、それらの事実があるだけで組織の戦いとしては敗北に近い。

「前回は……現在失踪中の団員、シーモがいるかもしれないという焦りで作戦実行を早めた事、つまり事前準備の甘さがあったと考えています」

シーモが失踪した事は団員達には知れ渡っている。

だがシーモが解放作戦の『後片付け』をしていた事はまだ公にはされていない。

シーモの所在がわからない今、この作戦後には必ずノヤリスの名が少なからず純人達の耳に流れてしまう。

これは事実上、ノヤリスが秘密組織として解放作戦を行える最後の機会であった。

「今回は一度の襲撃で短期決戦を狙わず、複数回に分けての多彩な襲撃による消耗を狙います、投降すれば良し、しなければ極限まで追い込みます」

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