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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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糸口

「みなまで言うな、表情でわかる、それより見ろよこの雨、しばらくは荒れるぜ」

部屋に戻ったコルを責めるでもなく、ただ状況を把握したパッケンは外の雲を眺めていた。

「どうなってるんだ?あれ以上前の車両は鍵がかかったスタッフルームと操縦席……普段は向こうに隠れているとか?」

「いやだったら流石に捕まんじゃねえかな」

「まさか透明になれるなんて言わないよね……」

二人は時間をかけて様々な推察をした。

そしてその答え合わせとしてエミイに連絡を取る事にした。


『透明化の魔術?あるわよ』

「あるんだ……」

『ええ、でもその男は突然消えたんでしょう?物陰はあった?』

「唯一あったのは俺が隠れてた所だよ」

『なら違うわ、透明化は少しづつ、透けるみたいに見えなくなる魔術、消えるまで物陰に隠れるのがセオリーよ、それに1分もしないで効果は消れるわ』

「じゃあ壁をすり抜ける魔術は?」

『そっちは……霊体化、とでも言うべきかしら、私の知る限りでは存在しないわ』

『霊体化の魔術を使った説』を本命として推していたコルにとって、エミイがそう断言したのは少しショックだった。

これなら下手な推理で時間を使う前に連絡を取るべきだったのでは、という後悔が押し寄せる。


『にしても……だとしたらその男は何処に行ったのかしら……もう心当たりがないわ』

「でもあの髑髏魔術は改造されてるって話でしょ?今回もなにかしら作り替えたって可能性は?」

エミイは少し唸ってから答えた。

『0とは言わない……いえでも、あり得ないわ、そんなに色んな魔術を改良してるなら組織的にはもっと上にいるはず……自爆テロなんてさせるには惜しいと思うんじゃないかしら』

「はーなるほどねえ……大抵のことは何でもできると思ってたぜ、魔術ってのも案外不便なもんだな」

パッケンのその言葉は安心したようにも、どこかがっかりしたようにも聞こえた。

実際、敵が使う力な為強力であるほど困るのだが、そんな敵を見つける手がかりもまた魔術にあるのだから、パッケンの複雑な心境も当然と言える。

「っと、お前さんを貶すつもりはなかったんだぜ魔術使いの姉ちゃん」

『……はぁ、別に、事実だから気にしないわ、実際魔術は不便で不平等、作られた機械と違って、素質があってやっと身につける練習をする権利を得る……なのに便利なのはほんの一部だけ、だから廃れるんだわ』


『話が逸れたわね、要するにその男が使った魔術は私の知らない物……何も言わないってことはオリセも知らないんでしょう?……頷いてるわ』

「く~……いよいよ万策つきそうだぜ……」

『私かオリセがそっちにいれば魔術の痕跡を探すくらいはできたけれど……そういえばその、例の男が消えた場所には何か、変な物はなかった?』

コルは数分前の記憶を脳内で振り返ってみたが、特に異常は無かった様に思える。

突如人が消えて混乱したにしても状況確認を怠らなかった自覚があるからだ。

「疑う訳じゃねえけど、念のためもう一回見に行こうぜ、ヒントが転がってるかもしれねえ」

「このまま考えててもしょうがないしね、それじゃあエミイ、また困ったら連絡するよ」

『はぁ……困る前にしなさいよ』

鈴の通信を切る。

コルは終始、鈴の向こうでラニが無言なのが気になってはいた。

話を脱線させるのも忍びなかったために触れなかったが、普段騒がしいラニが一言も喋らないというのはさすがに不安を覚える。

(俺が一人で行ったの、まだ怒ってるのかなぁ……)

パッケンと共に魔人会の男が消えた場所にたどり着くまで、ラニの心身を案じているコルは、ラニがバハメロとの喧嘩で気を失っている事をまだ知らない。



前側の車両に向かってずいずいと進んでいくと、再びそこに辿り着く。

絨毯の様に柔らかな赤い床、鍵のかかった分厚い窓。

前方にはスタッフルームや先頭車両へと続く『関係者以外立入禁止』と書かれた、鍵のかかった扉が待ち構えていた。

先程エミイに言われ思い返した光景そのままだ。

「ここまで来たら突然フッ、って、まさしく瞬きの間に」

「……手早く済ませるぜ、なんたってここは、コレだ」

そう言って彼は扉を指差す。

「……あー、あんまり色々やってると俺達が不審者になるか……」

躊躇いもなく床を調べるパッケンに続き、コルは改めて窓や扉の辺りを調べた。

なるべくスタッフに見つからないようにという心がそうさせるのか、挙動不審になる様は傍から見たら不審者だったろう。

「おいコル、ちょいと見てみろ」

先に何かを見つけたのはパッケンだった。

最初に床を調べた彼が見つけたそれは下ではなく上、コルが唯一見逃していた天井にあった。

「ありゃあ……」

「……シミ?」

それは穴であれば大人一人が通り抜ける事ができる程の大きさをしたシミの痕跡だった。

コルは懐から、いざという時の為に忍ばせて置いたカノヒ棒を取り出した。

そして驚くパッケンをよそに伸ばしたカノヒ棒でシミの周辺を突いてみる。

「お前さんはあれかい?びっくりアイテム屋なのかい?」

「……別に脆くなって雨漏りしてるとかって訳じゃ無さそう、ただなんか、湿ってるだけ……なんで?」

「……そういや、俺があの魔人会を見失った時も壁にあったな、こんなシミ、あの時は晴れてたから誰かが水でも溢したのか、そうじゃないなら漏らし――」

自分のしょうもない冗談を遮るように、パッケンの脳内に閃きが訪れる。

偶然、コルもまた同じ結論に辿り着いていた。

「――ってなると……隠れ場所は『あっち』か……!」

「だな、それなら条件も合うぜ……問題はどう入るかって話だが……」

「一日欲しい、決行は明日の夜にしようと思う、集中したいから今日は自分の部屋で準備して」

「……へっ、アイアイ、サー」

共有せずともお互いに同じ結論であると確信した上で二人はお互いの部屋に向かって踵を返した。


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