余命宣告
コルは鈴で再び連絡を取った。
パッケンについて雑に説明した上で、本題である『髑髏模様の魔術』についてエミイとオリセに問いかける。
「――と、言う訳なんだけど、心当たりはある?」
鈴の向こうからは返事がない。
「あれ?聞こえてる?おーい」
『今なんか、二人共困った顔して考えてるぞ』
『つい言葉を失ってたわ、コル、その機車から降りる事はできる?』
エミイはあくまで冷静な態度だったが、その声は少しだけ震えている。
間違いなく、その魔術が及ぼす効果を知っているからだ。
「いや、途中下車はできない、次降りれるのはバゲルって都市に到着した時かな」
『……到着は5日後か?』
「そうだけど……」
再び会話が途切れる。
『また二人で困った顔してるぞ』
「説明ありがとう……でも、そういう反応するって事は?」
『ええ、『アウト』よ』
通信をしている間にも、機車は次の駅まで迷うことなく進んでいた。
窓の外に移る絶景をよそに、何の変哲もない見た目をした鈴を見つめる姿は不自然極まりないだろう。
『どこから説明したものかしら……とりあえず先に結論とその理由、このままだと貴方は5日後死ぬわ。なぜなら、その魔術は起動までにちょうど5日はかかるけど、その変わりに大爆発を起こす上に毒性のある煙を辺りにバラまくから』
「めちゃくちゃだ!」
『ええそう、めちゃくちゃよ、でもそんな危険な物が誰でも使えて良い訳がない。その詠唱を知る者は殆どいない、知ってても難易度が高く、代償だってあるらしい、それなのにそんな魔術を『複数』『隠せる』なんて……』
「なんとか消したりってのは?」
コルの素人質問に対し、ぶつぶつと呟きながら考え込むエミイの変わりにオリセが回答する。
『……この魔術は並の魔術使い……自分やエミイでも3日あれば解除はできる……だがその時間は、魔術陣一つの解除にかかる時間だ……』
「じゃあ乗客全員魔術使いでも無い限り間に合わないじゃん!」
『……聞くところによると……あれは本来一つの巨大な陣になるはず、憶測だが、小分けにしつつ見つかりにくい形に術を組み換え……それをいくつも張り巡らせる事で威力を同じにしようとしているのでは……』
『じゃあ何?時間がズレるのは『誘爆』するとでも言いたいの?』
『……あれをそこまで改良できるのなら……無い話ではないのではないだろうか……』
『5日間かけてあちこちに設置すれば代償も消耗もその分小分けにできるわ、でもそんなのって――』
魔術使い同士の議論が白熱する中。
コルとラニはそれぞれの場所で理解できずに首を傾げていた。
「要するにどうすればいい?」
『なんにせよ5日後の結果は変わらないわ、向こうは『ズル』をしているから、術の解除は諦めるしか無い……一度機車を止めて全員そこから逃げた方がいいわ』
「いーや!そいつは困るぜ」
その男は、無遠慮に部屋の扉を開け、無遠慮に中に入り、そして無遠慮に向かいの椅子に座った。
「パッケン、犯人探して来いって言ったろ」
「ああ隅々まで探したけどどこにもいなかったぜ、それよか、今俺の声もお前さんの知り合いに聞こえてんのか?」
パッケンの報告も大概雑だったが、どうやら嘘はついていない。
それよりも見たことのない不思議な道具の方に興味がある様だ。
『……チッ……随分とうるさいお友達ね、貴方の話は聞いたわ、パッケンさん、盗み聞きをするとは聞いてなかったけど』
「いや、ついさっきちょうど戻ったところだ、話の内容は殆ど聞いちゃねえよ?ドアに耳をつけたら少し聞こえるってのも今気づいたところだ」
『そう……いや盗み聞きしようとしてたんじゃない!!』
コルは3人がノヤリスに関する情報をうっかり出さないと信じ、パッケンに髑髏の魔術についての情報を共有し、同席を許可することにした。
「だから逃げろって言ったのか、嫌だね!」
『正直貴方が死のうと別に知ったことじゃないわ、私はコルに言ってるの』
「お前さんなあ、俺はどーしても早く移動したくてこれに乗ってんだぜ?もうちょいどうにかならねえの?」
『……自分に考えがある』
「うおっ……相手1人じゃなかったのか、随分と静かで気づかなかったぜ」
オリセはパッケンに対して名乗る事なく、話を続けた。
『考え……と言ってもシンプル、その魔術は弱点が多い、いくら改良しても本質は同じだ……術者本人であれば一瞬で解除できる、そしてその魔術最大の弱点……起爆寸前まで術者が近くにいないと消滅する事……』
「そんなの、爆発に巻き込まれるんじゃないの?」
『……ああ、故に……誰も使わない危険な術だったんだ……難しくて、解除ができて、自身を巻き込むのでは……割に合わない……』
「だが今回に関しちゃ都合がいい、要は術者をふん縛って解除させるか、駄目なら窓から捨てちまえってこったな?」
『……』
この日何度目かの静寂。
『頷いても見えないわよ』
『あ……』
『私としては、その作戦はおすすめしないわ』
「それはなんで?」
『難易度の高い魔術を応用できるってことは、それだけでも相当の使い手よ?見つけるのだって一苦労……もし見つけても勝てるかしら』
不安を訴えるエミイに対し、パッケンは自信ありげに反論した。
「勝つさ、俺はこれでも結構強いんだぜ?」
一見相手を舐めているとも取れるこの言葉だがその実、トレジャーハンターとしてこれまで生きてきたこの男の自信は確かなものだ。
実際今回の件も、パッケンの勘から見つかった事件だ。
コルは短い付き合いながらもそれを理解していた。
「……エミイ、俺は大丈夫だ」
『はぁ、貴方ね……まあいいわ、無理だと思ったらすぐ逃げなさい、もし手ぶらで帰っても誰も責めないって、知ってるでしょう?』
「はは、その優しさに報いる為に頑張るんだよ」
鈴での通信を閉じ、改めてパッケンに向き合う。
「というわけでパッケン、危ない戦いになると思うけど、手伝ってくれる?」
「へっ、そりゃこっちの台詞だぜ、ところでよぉ〜、さっきの女、彼女?」
「いや、違うよ」
パッケンは冗談を真顔で返され、少し凹んだ。
一方その頃。
通話を切ったエミイ達も、機車側と同様に行動を開始していた。
「……ふう、ひとまず団長かロナザメトに報告した方がいいかしら」
「……自分が行こう」
「貴方から動くなんて珍しいわね、落ち着かないのは分かるけど今は……珍しいといえば、ラニも随分静かだったけど……」
二人揃って後ろを向く。
そこには大人しく話を聞いてるラニがいると思っていた。
だが実際、そこにあったのは誰も座ってない椅子だけだった。
それを視認するとほぼ同時に、拠点の入口辺りから何かが崩れる音が響き、そこから土煙が立ち上る。
「エミイちゃーん!オリセくーん!」
次から次へと言わんばかりに、慌てた様子のナノンが部屋に駆け込んでくる。
「えっと……何が?」
「ラニさんが突然拠点から出ようとして!それを止めようとした団長と殴り合いになって!手がつけられなくなってきたから止めるの手伝て欲しいっす!」




