怪しげな髑髏
拠点の自室にて。
ラニは机に置いた鈴を穴が空くほど見つめながら、落ち着きのない様子で部屋中をうろうろと彷徨っていた。
「ううう……やっぱ心配だ!エミイ、そのキシャ?には今から全力で走れば間に合うか?」
「そろそろ出発した頃ね、間違いなく無理だわ……はぁ、貴女そんなに心配性だった?別にそれぞれ行動するのも初めてじゃないでしょう」
「でもよぉ……それこそ『走れば間に合う距離』だったじゃねーか、今回はそうじゃないって思うと妙に落ち着かねえ、連絡するって言ったのにまだ来ねえし」
「それもそうね……まあ、大丈夫だとは思うけど」
部屋の隅で話を聞いていたオリセも同じ気持ちだったが、既に機車は出発しており、三人にできる事はもう無かった。
「……報告を、待とう」
一方その頃。
当の本人であるコルは3人の心配する状況とは真逆に、車内レストランでパッケンのこまで経験した冒険話を聞きながらの食事を楽しんでいた。
「――でだ!その遺跡の最奥には何があったと思う?」
「うーん、それだけの謎を解いてやっと入れる部屋……ずばり金銀財宝、じゃないにしてもいくつかの宝箱くらいないと釣り合わなくない?」
「そう思うよな!実際そこには一つ宝箱があった、ところがどっこい!俺が宝箱を開けると辺りからは火薬の匂い!子分たちと急いで脱出すると遺跡はたちまち大爆発よ」
「そんな、お宝は?」
「跡形も残らず吹っ飛んだか、それとも最初から無かったか、どちらにせよその冒険で得た物は経験だけってな」
「まさか毎回そんな感じってわけじゃないよね?」
パッケンは見た目によらず上品に肉を一口サイズに切り分け、口に運ぶ。
そしてしっかり飲み込んでから話を再開した。
「勿論だぜ、その次なんか特に大当たりよ、だが俺らは今飯を食い終わっちまった、それは夜、酒のつまみにしようぜ、お前さんの冒険話も聞きたいしな」
「残念、でも確かに、人も増えてきたから居座るのも良くないか」
コルは口元を拭き、コップに入ったら水を飲み干してから席を立った。
レストランのある車両から客室の車両へと移動する。
流石のパッケンも自分の部屋が気になったのか、一度夜に再会する約束をして一旦解散することになった。
コルも一度部屋に戻り、ベッドに腰掛けて料理の味を思い返していた。
(……美味しかった……ちょっと高いかと思ったけどあの量と味なら満足だ)
車内レストランは乗車チケットとは別料金だが、サービスとしてスープとパンが毎日無料で食べられる。
つまり最悪食費に金銭を割く必要はないのだ。
(……でもまたぜひ食べたい!お金に余裕はまだあるけど一日三食食べれる程の余裕ではないかな、帰りの分も考えて二食……でも全部使い切る必要も別に無いし、できればラニ達にお土産も買って行けたら――)
「――あっ」
時を同じくして、渡り月の部屋にて3つの鈴が一斉に震え、音を鳴らす。
その瞬間ラニが目にも止まらぬ速さで鈴に向かって飛びついた。
「遅いんだよコルお前!あぁ!?元気か!?」
『うわびっくりした、ごめんごめん、元気だよ、えーっと……ほら、鈴に向かって一人で喋ってると怪しまれかねないから、一応人気が無いとこを探してたんだ』
(ほんとかしら)
(……理屈は通っている……だが、それとは別の原因で忘れていた、という雰囲気を……感じる)
エミイとオリセは小声でコルの嘘をどことなく見抜いていたが、ラニを見て事を荒立てる可能性を感じ言及しないことにした。
「なるほど、なら仕方ないか、許すぞ、それで?無事か?飯は食えてるか?」
『それはもう、今からちょうどお金をどのくらい食費に割くか考えてたところで』
「そうか?よくわかんねえけど、なるべく沢山食えよ、食わないと力出ないからな」
『ここの料理美味しいし量もあるから気にしないで、まあ俺はラニ達ほど極端に空腹の影響受けないけど……』
「駄目だぞ、ちゃんと食え」
『わかってるよ、実は夜ご飯が楽しみで仕方ないんだ、いつも食べてるリンさんのご飯とは違う美味しさがある……というか、お店の物と比べて改めてリンさんの凄さがわかっ――』
鈴の向こう。
コルの方から扉をノックするような音と、コルを呼ぶ男の声が聞こえる。
『まっ……パッケン、ちょっと待ってて!……ごめんみんなちょっと、一回切るね、とりあえず俺は無事、ご飯はちゃんと食べる、あと友達もできた、報告終わり!また後で!』
報告という名の雑談は、突如として打ち切られた。
「……コホン」
通信を切断したコルは一息ついて、『それ』の対応を始めた。
「ちょっと今忙しいんだけど、……どうした?」
扉を開けるとパッケンが神妙な表情で立っていた。
「ひとまず、中に入れてくれや」
「あ、ああ……どうぞ」
パッケンは部屋に入ると、扉の鍵と窓を閉めた。
「コル、お前さんレストランで隣に座ってた男覚えてるか?腕に妙な模様のある……」
「隣?見てないけど、知り合いだった?」
「いや知らん、が、妙な気配みてーなのを感じてな」
「トレジャーハンターの勘?」
「そんなとこだぜ、そんでちょっと観察してみた」
そう言うとパッケンは懐から1枚の紙を取り出した。
そこには髑髏模様の禍々しい絵が描かれていた。
「その男を観察してるとな、奴は機車のあちこちに魔術を設置してやがった、この髑髏模様が壁やら床に染み込んで行くのを見たんだ、俺は魔術に関しちゃてんで素人だからもし知ってたら教えてくれや、禍々しい色で、こんな模様の魔術が、この機車に良いことするのか?」
髑髏模様の絵はよく見ると魔法陣の様な形状をしており、壁や床に溶けて消える以外も何かしらが起きる事はコルにも理解できた。
「……俺も魔術は詳しくないけど、確かに嫌な感じがする……その男は何処に?」
「それが次の問題よ、消えたんだ、一本道の車内でだぜ?感づかれた様子はなかった」
「うーん、俺達のにわか知識で考えてても仕方ないか、パッケン、俺は錬金道具のこの鈴を使えば魔術に詳しい人と連絡が取れる、ちょっと聞いてみるからその男が車内にいないか一応もう一回探してきてくれ」
「……今さらっととんでもねえこと言わなかったか?それが噂の通信機ってやつ?俺もやってみてえ!」
「パッケンが思ってる使い方は多分できないよ、出る相手が決まってるんだから、ほら行った行った!」
流石に会話を聞かれると相手が亜人であることがバレるかもしれない。
パッケンが亜人に対してどんな印象を持っているか分からない以上、今はひとまず席を離してもらったほうがいいと、コルは判断した。
「ちぇ、じゃあ一周見てくるぜ、俺の杞憂ならそれでいいんだけどよ」
パッケンが部屋を出た後、コルは再び鈴を鳴らした。




