世は情け、そして旅は道連れ
「3000!」
「冗談言っちゃいけねえよにいちゃん、いくら宝石の山ったって錬金製だぜこりゃ、全部で2000!」
コルは街で一番大きな質屋の主と交渉し、少しでも多めに資金を得られないかと試みた。
「いやいや、そんなに下がんないだろ?俺を田舎者だと思ってひっかけようとしてんじゃないの〜?」
実際田舎者ではあるのだが、家の果樹園で取れた果物を商人と取引する母を見て育ったコルは、ある程度そのコツを知っていた。
「悪いね、時価って言うだろ?つい昨日マジモンの宝石がついた指輪を大量に買い取ってな、それより前なら3000でも良かったけどなァ」
「……せめて2500……!」
「はっ、たくましいなにいちゃん、じゃあ2200、おまけ付きだ」
「く……ぬぬぬ」
「まいど!」
(初めての交渉にしては頑張った方か)
コルは想定よりやや少ない資金を鞄にしまい、おまけに貰った綺麗なマフラーとコートを身につけ、移動中目星をつけていた宿に向かった。
そして酒場の裏の安い宿で特に何事もなく一晩過ごした後、改めて機車に乗るために駅へと足を運んだ。
パメリフトは活気ある都市だが、早朝ということもあり人通りは少なく、冷たい風が正面から吹き抜ける。
(コート貰って正解だったなこれ……しかし早く出過ぎたかな?機車に乗るまでまだ結構時間がありそうな)
コルが駅の入口付近にあるチケット売り場にたどり着く。
半自動化したチケット販売機に大量の資金を入れ、紙の束と一枚の小さな紙を交換する。
とてつもなく仕組みが気になったが、この機械をジロジロ眺めていては近くの警備兵に身柄を確保されかねないため、脳内で機構を想像しながら駅中のベンチに腰掛けた。
(……今日からこれに乗るのか……ヤバい、ワクワクしてきた、どこにどんな機構が組み込まれてるのか全く想像付かない、あの辺はロッサ号と同じ理屈?聞いた話だとこれが技術7魔力3で作られてるなんて嘘みたいだ、ロッサ号ですら5対5だって言うのに、これから生まれる子供は一切魔術に触れずに育つってのもありえない話じゃないよな)
考え込む中、ふと気配を感じ目線をずらす。
するといつの間にかすぐ近くにいた男と目があった。
「……こんにちは」
「……ハハ、こんちゃ」
お互い気まずそうにしながら挨拶を交わす。
男は全体的にボロボロだが、チャームポイントなのか帽子と髭にはかなり気を使っていることが伺える。
街で見たら浮浪者に見えなくもないが、ここにいると言うことは少なくとも高いチケット代を払っているということだ。
「隣失礼……しょ、あんさんも長距離移動機車に?」
男は気まずい雰囲気を変えるように、気さくに話しかけてきた。
「ああ、ノイミュに用事があって」
「へえ、オレはミスタルまで、ノイミュまで何しにいくってんだい?わざわざ機車使うってこたぁ急ぎなんだろ?」
「あー、まあ、親戚に会いに?」
「はぁー!なるほどねぇ!確かにこいつは遠くの身内に会いに行くには持って来いだぜ!オレも似たようなもんで……」
「……」
一見弾んで見えた会話が、突如として止まる。
「へえ、あんさん意外と隙が無いね」
意識の外側をつくように、コルの鞄に触れようとしていた男の手を、ぎりぎりのところでコルが掴んで止めたのだ。
「まあ、最近死線をくぐる機会が沢山あって」
「……かーっ!っぱ駄目だ、こういうちっこい事はオレには向いてねえ」
男は諦めたような態度で項垂れる。
「あんた、チケットは買えるのにスリとかするの?なんかこなれてる感じだったけど」
「……ホント?見様見真似の初体験だったんだけどよぉ、へへ」
「褒めてないよ、警備の人に突き出していい?」
「そりゃ困る、ほらお詫びに……」
男は懐からそれなりの大金を取り出し、その一部をコルに手渡しした。
「!?お金持ってるのにすろうとしたの?」
「いや〜ほんと、ちょ〜っと魔が差しただけなんだぜ?、随分とお宝の詰まった鞄持った青年がぼーーっと考え込んでるもんだから、トレジャーハンターとして見逃せなくてついよ」
「トレジャーハンター……?」
コルの疑問を遮るように、大きな音が駅に鳴り響く。
その音は複数の機構が同時に動く音であり、機車の扉が開く音だった。
「えー、長距離移動機車をご利用のお客様は〜、只今よりご乗車いただけます」
「っと、ちょうどいいこった、せっかくだ、旅は道連れってな、俺はパッケン、仲良くしようぜ、あんさん」
コルはどの面を下げて?と思わなくもなかったが、勢いに流されてお詫びを受け取ってしまった上、これからの一人旅に話し相手がいるとどれだけ気が楽かという気持ちもあり、ひとまず彼を許すことにした。
「はぁ……まあいいよ、俺はコル、短い間だろうけどよろしく、パッケン」
二人は一緒に並んで機車の扉へ向かった。
「あ、ちなみにこの鞄、スリ対策で『噛みちぎる』から……ロックに触る前に止めれてよかったよ」
「お、おっかねえ〜……絶対もう触んねえぜ……」




