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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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コルトリックの旅立ち

パメリフトという都市がある。

そこは3つの国を結ぶ場所であり、貿易の品は必ずここを通って運ばれる。

レマンでは城下の次に栄えた都市でありながら、観光地として有名な都市でもある、灯りと人通りの減らない活発な場所。

世界中からここに足を運ぶ理由は何と言っても『長距離移動機車』である。

3つの都市を繋ぐ魔力の線をなぞるように進む鉄の蛇。

莫大な予算をかけてノイミュ王自らの手で開発されたそれはまさに世紀の発明と言って差し支えなく、それが機械文明の始まりの火付け役となった。

今は魔力を動力としているが、いずれ新たな動力源が発見され、より効率的な長距離移動を可能とするであろう。


「聞いてたよりも大きいな……」

一目見ようとする旅行者達の波に押し潰されながら、コルは長距離移動機車を眺める。

コルもまた、それを一目見に来たのだ。



4日前。

ロッサ号の作成に必要な部品の入手方法に心当たりがあったコルは、すぐにバハメロに相談をしに行った。

「ふむ……その為にノイミュまで行く必要がある、か」

「だいぶ遠いけど、行ければいい資材を持って帰れるはずなんだ」

「しかし本当に一人で行くのであるか?」

「あんまり大人数で行っても目立つと思うし」

「ふむ……確かに純人1人の方が街では動きやすいが……であれば……」

バハメロは地図と資料を広げ、考え込む素振りを見せ、その後白紙に筆を走らせた。

「……うむ、ではコル、任務を与える、明日の朝、リッキーの馬車にてパメリフトという街まで向かい、そこから長距離移動機車を使ってノイミュに向かうのだ」

任命書を受け取ったコルは内心ドキドキしていた。

1人で遂行する事への緊張ではなく、昔噂に聞いた長距離移動機車に乗れるという事に対してだ。

だがその期待感はすぐに現実に引き戻される。

「……機車って高いチケットが必要なんじゃなかった?」

「抜かり無いのである」

そういってバハメロは部屋の奥にある大きな箱についたダイヤルを回し、中身を取り出す。

それを見たコルは目を見張らずにはいられなかった。

それは素人目に見ても高価だと分かる宝石や金塊だったのだ。

「驚いたか、そうであろうな」

「な、なんですかこれ……」

思わず敬語になりながら宝石を手に取る。

「本物?」

「勿論本物である、ひょんな事から原石を見つけてな、ラックの錬金術で加工したはいいものの現金にしても我々では簡単には使えないのである、故にいざと言う時までしまっておいたのだ」

「それが今……と?」

「うむ!」

魔術や錬金術で加工した宝石は職人が手掛けた物と比べ安く買い取られる傾向がある様だが、それでも往復分のチケットと食費くらいは余裕で手に入るだろうというだけの数が用意されていた。

「これをパメリフトで売って機車に乗れば……」

「確かレマンからミスタル、ミスタルからノイミュと回っているのであったか、1度ノイミュに行くことにはなるがそれでも各地を転々としながら進むよりよほど早くて安全であろう」

「……ああ、雑に数えても2ヶ月は早いし楽だ、それでもそこそこ長い旅になりそうだけど……」


その後コルは部屋に戻り、ラニ達に遠征の件を伝えた。

「――という訳だからしばらく留守にします、ところでラニさんや、どうして荷物をまとめようとしているんだい?」

「私も行くからだ」

「うん、駄目だよ?」

「なんでだ……あっ」

エミイがラニから荷物を取り上げ溜息をつく。

「話聞いてた?予算的にコル1人しかそのキシャ?に乗れないの、それにその街は随分都会なのよね、亜人が堂々歩いてたら厄介事に巻き込まれるわ、間違いなくね」

「でも1人で遠くに行くのも危険だろ、キシャはよくわかんねえけど走って追いかける!」

「いや流石に無理だよ……無理かな……ラニなら案外……」

「落ち着きなさい、無理よ、コルだって子供じゃないんだから……はぁ……貴方達が私より年上だってたまに忘れるわ……」

そういえばそうだったな、と言わんばかりにオリセもこちらを眺めている。

ラニ程あからさまではないが、オリセも多少心配している事が表情から読み解けた。

「ぐ……いいや、私は行くぞ!絶対行くからな!」


結局、鈴による定期的な連絡と、帰ってきたらコルのポイントで三食ご飯大盛りにしていいという約束をした上で、パメリフトまでの馬車に護衛という形で同行する、ということで事なきを得た。


最初から想定されていた護衛としてチャシとカロロも同行した為、馬車での約三日の移動が賑やかだった事もあり、いざパメリフトに到着し一人になった途端、流石に寂しさを感じていた。

その寂しさを紛らわす為、コルは長距離移動機車を見に来たのだ。


(うっ……思ってたより寂しい、そういえばラニとあってから常に誰かと一緒にいたから完全に1人って久しぶりなんだよな……)

人混みを抜け出し、『スリ対策』を施した鞄の中に、宝石が入っていることを確認する。

(発進は明日の夜、今日中にこれを売って、チケットを買って……予算内で今日泊まる宿も見つけないと)


コルは寂しさを押し殺しながら見慣れない街の質屋を探しに向かった。


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