米と部品
コルが合流し、ロッサ号の制作は順調に進んでいた。
作業開始から数時間、日が沈み出し、リンが食堂から軽食を持ってくる頃には、構造的には殆ど完成と言って差し支えないほどだった。
「ん〜!っぱ休憩中に食べる米が一番美味しいね!」
「もう〜……アリッサちゃんったら、そんなにいっぺんに食べると喉に詰まりますよ〜、ふふっ、いつもは休憩中くたくたなのに、今日は元気いっぱいね」
「ああ、助っ人のおかげで私の役割は減ったからね」
アリッサは食べかけを口に押し込みながら、皿に並べられたおにぎりの中から大きめの物を、汚れた手を洗っていたコルに渡した。
「設計図の通りにやってたらあっという間だったよ……正直まだ弄り足りないくらい……ふふ……」
コルと同じく、手を洗って来たナノンも椅子に座る。
「コルくんの担当した所、一応確認したっすけど、もう文句なし、完璧っす」
「ふぅー……よかった、これで失敗してたら恥ずかしかったから」
軽く笑ったが、コルは途中夢中になりすぎて終わった今少し記憶が飛んでいた為、本心から安堵していた。
「もぐ……そういえばコルくんはどこでその技術を身に着けたんすか?誰かから教わったとか?」
「いや、ナノンと同じで独学だよ、前は時計技師になるのが夢だったんだ、幼い頃に当時最先端の腕時計を親戚に見せてもらったのが全ての始まりだったなぁ……」
「あっ、あからさまにしみじみしてる顔っす」
「そりゃしみじみもするよ、時計や銃どころか、空飛ぶ船作りに協力してるんだぜ」
椅子に座ったまま、二人はロッサ号を見上げた。
「……それもそうっすね、私も、最初はちょっと便利な生活用品を作るくらいだったのに、今や技術部隊の隊長で、ナノンロイドも増えてきて、移動拠点なんて作って、自分と発明が大きくなるほど、責任も大きくなって行くのを感じるっす」
見上げたままそう言ったナノンの表情からは、不安などは感じられず、ただ覚悟と決意、そして責任感に満ちていた。
「絶対に飛ぶから安心して、とか言わなくても良さそうだね」
「勿論っす!」
軽食を食べ終わり、リンが皿を持って立ち去る。
残されたコル、ナノン、アリッサは再び設計図を広げた机の前に集まった。
「さて、と……」
「ああは言ったけどここからが問題っす、ロッサ号は今日でびっくりするくらい開発が進んでもう90%は完成っす、3%は塗装とか飾り付けっすけど……」
「残り7%は?」
ナノンは先程までとは真逆の悩ましい表情を浮かべて答えた。
「操舵室がまだ完成してないっす……」
「かなり重要な部分では!?」
「ええそうっすよ!」
ひとまずナノンはコルに実際の操舵室を見せながら説明することにした。
いざロッサ号の中を歩き回ると、ワクワクする反面、何故ここまでできて操舵室ができていないのかが不思議に感じる。
「ここっす」
広い空間に、いくつかの機械が並んでいる。
その中心には大きな舵輪が取り付けられており、おおよそ大型の船と同じ構造をしていた。
「操縦は送り猫の三兄妹にやってもらうっすから、馬と近い要領で動かせるようにしてるんすけどね、ここを見てほしいっす」
「……どれどれ」
ナノンが舵輪の下を開くと、明らかにそこで機構が途切れており、人が一人入れそうなくらいの穴が空いていた。
「そこにこれが入るんすけど……」
ナノンが指さした方には、確かに丁度穴と同じサイズ感の箱状の物があった。
箱状の物にも機構が組み込まれていたが、見るからに不完全で、未完成だとわかる。
「……これが完成しないと動かないってことか」
「っす、この部屋から船を動かすのに必要な重要パーツなんすけど……それ故に使える部品が限られてくるっす、ここに関してはコレ以上魔術機構を組み込むと別に繋がっちゃったりして、前に進むどころじゃなくなっちゃうっす、だからなるべく精度が高くて純粋に部品としてのクオリティが高いものがほしいんす」
「ノヤリスで手に入る物じゃ限界があるってこと?」
「そういうことっす、基本的に物資調達の時に拾ったジャンク品っすからね、情報によると今時の最新技術で作られた部品があるらしいんすけど、それくらいの物がどうしてもそれなりの数欲しくって……個人的にもほしいからそりゃもうめちゃくちゃ欲しくて……」
「私欲が出てるけど俺もちょっと気になる……」
よだれを拭き、お互い冷静になったところで話を戻す。
「こほん……ともかく、これをなんとかしないといけないっす、これを完成させる為に必要な部品は新しい物でとても買えたもんでも拾えたもんでもないっす……こうなったら部品から作るしか……!」
「そんな事ができるの?」
「……精密な物はコルくん得意っすよね?」
「俺がやる感じ!?」
「冗談っすけど……ちなみにできるっすか?」
「ちょっと考える……」
その後、コルはそのまま操舵室で数分間、手元にある部品と設計図を見ながらうなり続けた。
歯車などは基本、工場で生産されるものだ。
機械文明が進み、今ではまるごと工場でできた街もあるほどだと言う。
魔術によって生産もできるという話もあるが、効率の面で工場生産には勝てないだろう。
故に魔術文明は衰え機械の文明が始まったのだ。
「んんんん……いっそのこと部品を作る機械を作るか?いや、量というより種類だし、時間もかかる……というかそれを作るのにもまたそれなりの部品がいる?……ナノン、どう思う?」
同じく設計図と顔を見合わせながら頭を悩ませ項垂れていたナノンも、机に顔を伏せながら答えた。
「その機械に使う部品で今回欲しい量の倍は使うんじゃないすかね……」
「だよな……ぐぬぬぬぬ……」
「部品から作ってしまおう作戦も難しいとなるといよいよ困るっすねえ、もう部品の輸送中とかを襲うしか……?」
ナノンが疲労感からかとんでもないことを言い出す。
「一応言うけどだめだよ?」
「わかってるっすよ!それができたら今頃ナノンロイドは300号までできてるっす……そもそもイプイプカンパニーの部品輸送ルートなんて知らないっす……」
「ん……」
お手上げだと言わんばかりに、ナノンは椅子から落ちて床に倒れ混む。
「……ん、イプイプカンパニー……?」
「っす……最新部品と言えばそこしか無いっすよ、コルくんも知ってるでしょう」
「、…当然知ってるよ、機械文明を急激に加速させた会社なんだから……そっか、イプイプ製のがほしいのか……そうだ、なんで気づかなかったんだろ、最新の部品が欲しいならイプイプカンパニーだよな……!」
コルは立ち上がり、横になったナノンに手を差し伸べる。
「起きてナノン!っていうか最初からそう言ってくれれば悩まずに済んだかもしれないのに」
「……どうしたんすか急に明るくなって、まさか、なにか閃いたんすか!?」
「ああ、俺ならなんとかできるかもしれない!」




