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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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今は動かぬ鉄の塊

「えええぇーーっっ!?」

コルの驚く声が団長室の外まで響く。

付近にいた亜人達は揃って声のする方へ向いたが、気にせずすぐにそれぞれの作業へ戻った。

「うむ、驚くのも無理はないのである!」

「……本気で?」

「本気も本気である、今言った通り、我々亜人開放団ノヤリスは『王国』と接触を図る」

聞き間違いの線も消えたところで、バハメロが冗談を言うタイプではない事は既に知っていた為、それ以上疑うことはできなかった。

受け入れてしまえば理解する事もできる。

「我々はいずれかの国の王に直接『同盟』を申し出る、我々にとって都合のいい要求をいくつもする事になる訳であるが……ロナザメトの予想では我々の戦力を知れば傭兵として使いたがる可能性が高い、と」

「それでこの前戦闘員の意思確認を?」

「うむ、交渉はうまくやるつもりであるが、少なくとも何度かの戦闘は避けられないであろうからな、だが最終的に、王に亜人への考えを改めさせれば……」

世界を変えるため、直接上から動かすというその大胆な作戦に、コルはただひたすら関心していた。

「俺にできることがあれば何でもするよ、団長」

「うむ、では早速働いてもらうのである!ゆくぞ!」

「想像の倍早急!」

コルはほとんどバハメロに担がれる様な形で、団長を後にした。



バハメロは重い扉を勢いよく開き、高らかに声を上げた。

「ナノン!いよいよ『アレ』を作るのである!」

二人が立ち入ったのは鋼花の工房。

あいも変わらず鉄の塊と部品に囲まれた空間では、もはや建物の一部のように馴染んだナノンと、カトリス襲撃作戦での傷がすっかり癒えたアリッサが機械部品の詰まった箱を整理している。

「アレを……!?ようやくこの時が来たんすね!〜〜!ついに完成させれるんすね!?……あっ……」

ナノンはひとしきりはしゃいだ後、担がれて逆さまになったコルに気がつき、小声でバハメロに囁いた。

「……アレのこと、コルくんに聞かれていいんすか?色々機密事項なのでは?」

「良い、むしろ協力してもらうのである」

「ナノンー、団長ー、アレだかタレだか知らないけどさあ、あたしのイヤリング探し手伝ってくんない?この辺の部品の中に落としちゃったかもしんなくて」

「そこに置いてある黄色のやつ?」

コルは逆さまに担がれたまま、扉の横に置かれた木箱の上のイヤリングを指さした。

「……あっ、これこれ!ああ良かったーまた落としたかと思った、ありがとな……作戦会議ぶりに会ったけど見ない間に血色悪くなった?」

「ずっと頭が下にあるからね……そろそろおろして……」

「む、すまない、うっかりしていたのである」

バハメロはコルを降ろした後、頭に登った血が全身を巡るまでにアリッサに今後の作戦について大まかに伝えた。

アリッサもそれなりに驚いていたが、大声を上げないのはコルより先輩で経験があるからだろうか。



工房を出た四人は再び拠点の中の入り組んだ道を、奥に向かって進んでいく。

その道中、ただでさえ複雑な道から隠し通路が開いた時点で、コルははぐれたらそこで終わりだと察し、必死でバハメロ達の後を追った。

「……それで、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?アレってどれ?」

「創設メンバーと鋼花の数人で、2年間かけて作って来た企画があるんすよ」

ナノンがそう言いながら壁の穴に小指を差し込むと、行き止まりに見えた壁が真っ二つに割れ、広い空間が現れる。

「……外?」

「っす、ここは迷路の森最奥、拠点の埋まった崖からしか抜けてこれない秘密の空間、そして眼の前にあるのが、『アレ』っす」

拠点の中に詰まった部屋全てと同じくらいの広さのある空間の、その殆どをしめる大きな機構の塊がそこにはあった。

今まで誰も見つける事ができなかったのが不思議で仕方ないほど堂々と置かれたそれは、まるで巨大な船のようだった。


「なにこれ……船みたいな」

コルは驚きのあまりみたままを口にする。

「うむ、これはまさに『船』である」

「団員が沢山増えた状態でここを出なきゃいけないって事になっても、安全にどこにでもいける様に開発を続けてきた移動する拠点、空飛ぶ船、その名も『ロッサ号』っす!」

ナノンが腕を大きく広げて巨大な黒い機構の集合体を見せつける。

一般人が聞けば、現代の技術の遥か先を行くそれを、夢物語だと笑っただろう。

船が飛ぶわけもなく、ましてやこの様な巨大な鉄の塊、動くことすらしないだろうと。

しかしコルは少し驚いたものの、機械いじりをかじった物であり、何度かナノンの作った機構を見ていた為、それが実現可能であると確信していた。

「……すごいな……ちょっと見せて、触らないから」

「その辺なら触ってもいいっすよ、これの重要な動力源にはあの時、ナドスト村跡地でコル君と取りに行った資材が使われてるっす」

「ホントだ……っていうことはここは魔術動力を?」

「ふふん、聞いて驚くっす、この船は機械と魔術と錬金術の技術の集合体!回転の力から生まれるエネルギーを倍増し、そして全体に効率よく行き渡らせる究極の動力源!うちのお仕置きに使われる『腕が疲れる謎のハンドルを回す刑』でかれこれ2年近く蓄積された回転エネルギーで起動すれば、半永久的な活動が可能っす!」

「蒸気とか水力じゃこうはいかない……すごいな……すごいしか言えない……新しい動力の発見とか国から賞貰える話だよ……それもナノンが?」

「ふんす、いくらでも褒めていいっすよ!」

ナノンのテンションと鼻が露骨に高くなっていく。


「さて、そろそろ本題なんすけど……まあ一旦作って行くっすよ、コルくんにはこっちを任せるっす」

ナノンから設計図を渡される。

読みやすく、コルが得意とする部類の機構が描かれており、これなら確かにできそうだった。

「でも完成の前にちょっと問題があるんすけど……何はともあれそこ以外を完成させるっす、アリッサさんは前と風圧抵抗装置接続の続きをわお願いするっす」

「はいよ、よっしじゃあ仕上げといきますか!ワクワクしてきたねぇ!」

アリッサは袖を肩まで捲り、イヤリングを外して隅の机の上に置き、腰の袋から取り出した布を頭に巻いた。

(あれ絶対後で忘れるから覚えといてあげなきゃっすね……)

「吾輩は器用な事はできないのである、よって!応援係として飲み物を持ってくるのである!」

バハメロが颯爽と走り去ったのを見てから、三人はそれぞれ作業を始めた。

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