これから
この大陸はノイミュ、ミスタル、レマンという3つの国家で形成されている。
ノイミュは時代を先取り、新しい文明を切り開く。
ミスタルは文明の変化への適応が早く、ノイミュの作った文明を更に発展させる。
そしてそれを受け、大陸の大半を占める一番大きな国であるレマンが大陸中にそれを広める。
長年大きな戦争もないが、明確な協力関係にある訳でもない。
しかしレマンの王が病により死去。
第一王子であるスーラ・ディー・レマンが王となった事で、この関係はゆらぎ始めていた。
レマンはノヤリスの拠点のある国でもあるが、今のノヤリスはそれどころではなかった。
「コル、起きろ」
部屋の仕切りになっているカーテンを避け、ラニはベッドの横に仁王立ちする。
「起きてる……」
「お前がそう言う時は大体嘘だ、本当の時は『おはよう』って言うからな」
「んんー……」
「よっ」
布団を剥がれて目が覚める。
正確には同時に体が床にぶつかった事で目が覚めた。
「いったぁ……ベッドごとひっくり返すことある!?」
「野宿中に木が倒れてきた時よりマシだろ?改めておはよう」
「おはよう……まああれよりはマシだけど、じゃなくて、なんたってこんなにしてまで起こしたの?」
「ああ、エミイが起こしてこいって」
コルがラニに連れられて向かったのは重要事項の貼られる掲示板だった。
既に団員達が複数人集まって何やら話し込んでいる。
エミイとオリセもその渦中にいた。
「起こしてきたぞ」
「はぁ……やっと来た、貴方こういう時だけやけに目覚めが悪いのなんなの?」
「ごめん……それで何があったの?」
視線で掲示板を見るように促される。
新しく貼られた紙は、創設メンバーがここ数日会議室に籠もって話し合っていたノヤリスのこれから、いわゆる『新体制』についての情報が書かれていた。
「なあエミイ、私よくわかんねえからコルが読んでから聞こうと思ってたんだけど、これってどういうことだ?」
「……ざっくり言うと、これから戦いが増えるかもしれない、だから一度戦闘員達に意思確認をしたいって事」
「戦闘員をやめることも自由、その場合は非戦闘員と同様に守る……か、新体制って言うほど根っから変わってないようにも見えるけどこれって……」
「貴方もそう思ったわよね、私とオリセも同じ考えよ」
コルがエミイとオリセと通じ合う中、ラニだけは頭に?を浮かべていた。
「あ?」
「貴女がこういう時だけやけに察しが悪いのもなんなの?」
「ラニは文面見てないから……ラニ、この前の戦いがあった上で、戦闘員の再確認……要するにこれからの戦いも一筋縄ではいかない、その上でこれからも作戦メンバーに呼ばれていいなら箱に名前を書いて入れろ、と」
「ふーん?なるほどな」
ラニは掲示板の横に置かれている机で積まれていた紙とペンを手に取り、自分の名前を書いて穴の空いた箱に放り込んだ。
あまりの即断即決に三人揃って目を見張る。
「……なんだよ、自分の名前くらいなら書けるぞ、ぎりぎりだけど」
「いや、ラニらしいなって思っただけ」
「はぁ……でもそうね、別に迷うことも無いわ」
コルとエミイも紙に名前を書き、同時に穴の空いた箱に放り込もうとした。
しかし、その腕は優しく掴まれる。
コルの手をラニが、エミイの手をオリセが引き止めた。
「ちょっ……ラニ?」
「この機会だ、お前は非戦闘員になった方がいい」
「……オリセ、貴方も同じ理由?」
エミイの問いかけに、オリセは頷く。
「……こうなったのは偶然だが……ラニの意見にも賛成だ、コルも……エミイと一緒に前線から引いた方がいい」
「別に足手まといとかって言うんじゃないぞ、だが戦いが増えるって言うんならコルには安全なところにいて欲しい」
「そんな心配しなくても――」
手を掴むラニの手に、少し力が入るのを感じる。
「お前はすごいやつだが、戦場以外でもすごくなれる、だからわざわざ危ない道を進まなくていいんだ」
「……」
「……で?コルはともかく私は最低限護身魔術が使えるのに、どうして止められるのかしら?」
オリセは言いにくそうに口を閉じたまま、エミイの腕を掴み続けている。
「はぁ……コル、貴方はどうするの?」
「まあ、相棒がこんなこと言ってるから……エミイは?」
「こっちは何も言わないけど、こんな風に止められたら……ね」
「それじゃあ……」
コルとエミイは手の力を抜いた。
そしてラニとオリセが手を緩めた瞬間、同時に勢いよく紙を箱に押し込んだ。
「あっ!コル!これからは危ないんだろ、だからお前はここで――」
「……そうだ、二人共……危険だ、今からでも取り出して――」
慌てふためく二人にコルは言い返す。
「だからだよ、危ないところに二人が行くのに、俺が黙って見てるってのも変な話だよ」
「私はそんな立派な理由じゃないわ、足手まといだって言うなら考えなくもないけど、そうじゃないのに考えるのも癪だわ」
「でも……でも!」
ラニはまだ納得がいかないといった表情で狼狽えている。
「そんなに不安?」
「だって、これから危ない時、前の作戦みたいにバラバラになったらすぐ守れないだろ……」
「ラニ、俺は確かにラニより弱いけど、ラニが思ってるほど簡単には死なないよ、少なくともラニが駆けつけてくれるまではね、今までもそうだったろ?足手まといにもならないから」
「ぐ……ぬぬ……あー!わかったよ、その代わり危ない事するなよ、戦いになったらすぐ側にいろ、離れるなよ」
「了解、実際俺達なら今までより近づいても戦えそうだ、今のうちから練習しとくか」
コル達が二人話し合っている間、エミイとオリセもまた話し合っていた。
ラニの説得には成功したが、オリセはまだ納得できていない様子だった。
「あっちは解決ムードだけど、言いたいことはあるかしら」
「……危険だ、エミイが弱いとは言わない……だが、護身の魔術では限界がある……それに……」
「それに?」
オリセは観念した様に口を開いた。
「……自分の体内魔力に……『何が』があるという自覚は……あるか?」
「……何の話?」
「はっきりとしない話だ……以前ラニに護鉄塊を教えた時……ラニの使う魔力には何か違和感があった……恐らく体内魔力に『何か』がある……それは爆弾かもしれない……」
「ふぅん、それで心配してくれたって訳」
「……ああ」
オリセは素直に頷いた。
エミイは自分より背が高いものの、一応一つ年下の男が自分をこうも素直に心配している事に、少し面白さを感じた。
「全く……安心しなさい、『それ』は私にもわからないのだけれど、私に害をなすものじゃないわ」
「……何故、そう言える……?」
「『何か』がわからないだけで『なぜ』あるかを知ってるからよ、まだ貴方達には教えないけれど、これで問題は護身魔術の限界についてだけど、これに関しては向こうと同じよ」
エミイが指を指した方にはすっかりいつも通りの距離で笑い合うコルとラニがいた。
「……連携、ということか?」
「そう、私が支援、貴方が前衛よ、ここに来てから護身以外も勉強しているのだから、身に付くまでまで私を守ってちょうだい」
「……了解だ」
四人はその場を後にし、朝食を取りに食堂へ向かった。
戦闘意思確認の提出期限は残り3日。
実はこの時点で、現在の全戦闘員と非戦闘員数名がこれから戦う意思を示していた。
この日彼らは、バハメロに付いていく事を決意したのだ。




