テッケン
ラニに引かれるまま、コル達は道場へ辿り着く。
バハメロや他団員が大変な状況であることを理解した上で渡り月は自主訓練の為にここまで来たのだが、ラニ以外は道場の中に入るのは初めてだった。
「ラニ、ここ入っていいの?」
「元々団長が入り浸ってるだけで共有の訓練場だからな、あ、靴は脱げよ?」
「それじゃあお邪魔します……」
コルは言われた通り靴を脱ぐ。
静かでありながらも、誰かの研鑽の跡が見て取れる壁に、思わず一礼しながら道場に足を踏み入れた。
コルとオリセに続き、最後にエミイが靴を脱いで道場に上がる。
「あ、エミイはその服も脱いだ方がいいぞ」
「ああそうなの?じゃあ……」
言われるがままに装飾を外しドレス状の服を脱ぐ。
「……ってそんな訳ないでしょう!何を急に!?」
「冗談じゃないぞ、これから動き回るんだから『ふりふり』が破れたら困ると思ってな」
「あのねえ……そもそも私は訓練なんて乗り気じゃ……ああもういいわ、せめて動きやすい服くらい用意してちょうだい」
コルとオリセが先に準備運動を済ませている間に、エミイは道場の棚から身軽な服を借りて着替えた。
ひとまず、ラニの訓練を残りが真似るという形から始めた。
「まずはこう!しっかり足に力を入れる!」
三人はラニの突きを見て、同じ腕で拳を突き出す。
「そして反対の手で……こう!」
ラニがもう一歩踏み込み、拳を突き上げるのを見て、同じように拳を突き上げる。
「ちゃんとできてるな、そしたら浮いた相手にこう……」
今のアッパーで相手が浮いた事を前提に、ラニは飛び上がり、着地までに拳を3回を振り最後は蹴りで相手を落とした。
その動きの精度は見えない相手が見えたと錯覚する程だ。
「……いやできないわよ!」
「そんな、これからあと9人倒すのに」
「1対10想定だったんだこれ……」
「とにかく私達にもっと合った訓練をするべきだわ!あんな動きできるのは貴女くらいよ!」
(エミイは見てなかったけどオリセが空中パンチ2回までできてたのは黙っとこうかな……)
その後、一応ラニの1対10のイメージ戦闘を最後まで見たが、時折魔術も使わず物理法則を無視した動きをするラニに、三人はただ感心していた。
それから数分後。
「あんなに動いたのに元気そうだね」
コルは声援を受けてから調子が上がって10人どころか20人と戦う想定で訓練をするラニに水筒を渡した。
「ああ、まだまだ元気だ、もう10人くらいなら続けて行けるぞ」
「あはは、ほんとに30人くらい倒してるの見たから信じるしかない」
「だろ、お前の相棒は強いんだぞ……あっそうだ」
ラニは何かを思い出し、水筒に入った水を全て飲み干してからエミイに呼びかけた。
ラニはカトリスでの戦闘を終えてから、ラニの使った魔術に興味津々だった。
「なあ教えてくれよ〜あの硬くなるやつ」
「……いやよ、はっきり言って面倒、オリセに聞きなさい」
「オリセでもいいけどよ……」
ちらりと見るとオリセは首を横に振る。
「……『護鉄塊』は……自分も使えるが……あれ程の硬度を維持するのは……無理だ……すまない」
「俺も魔術はわかんないんだけど、使う人によって差が出るものなの?」
「……っはぁ〜……」
エミイは少し考えた後、『このまま慣れない運動をするよりはマシか』と結論付け、しぶしぶ魔術の説明をすることにした。
「はじめに言っておくわ、魔術は生き物が産まれた時既に使えるか否かが決まっているの、否ならどう転んでも使えない、二人共手を出しなさい」
コルとラニが手を出すと、エミイは瞼を閉じ、二人の手を強く握った。
「……?これが何?」
「黙って」
短い時が流れ、エミイが瞼を開く。
「理屈は一旦置いておいて、貴方達の魔力を調べたわ、ラニはぎりぎり合格、コルは不合格ね」
「合格?じゃあ硬くなるやつも使えるのか?」
「……まあアレは割と初歩だから行けると思うわ」
「イャッホー!」
「エミイさん俺は……」
「不合格よ、ふ、ご、う、か、く」
全身で喜びを表すラニとは対象的に、コルは少しだけ落ち込んだ。
「素質さえあれば後は簡単よ、魔力の流れを掴んで、詠唱を覚える、これだけ」
「エミイ先生!魔力の流れってなんですか!?」
「コルには掴めないものの事よ」
エミイの意地悪を受けて更に落ち込んだコルは、道場の端に座ってラニ達を眺めることにした。
「うう、寂しい……」
そうしてる間にもラニは『魔力の流れ』を理解する。
正確には理屈や事実は理解できていないが結果として流れの掴み方を感覚的に理解したのだ。
「それじゃあ流れに集中して、詠唱に魔力を載せて……」
「えっとなんだっけ?」
「はぁ……血、肉、変化、硬質」
エミイは呆れながらも詠唱文を教える。
「ああそれだ、流れをこうして……血!肉!変化!硬質!んん……『護鉄塊』!!」
あの戦場で彼女がしたように、腕を交差する構えを取る。
初めての魔術は成功し、見た目では分かりづらいがラニの体は機関銃の弾を弾き返すほどに硬質化していた。
その証拠に腕を小突くとコンコンと芯の固まった音がする。
「貴女は魔力の性質的にあまり魔術を上手く扱えない、どこかしらに『ボロ』が出るはずよ、今回の場合硬度は問題無さそうだし持続かしら、元々から消耗の割に合わないのだけど……」
「ナルホド……ソレハマズイノカ?」
「さあ、詳しくは知らないけど一定数はそういう人もいるらしいわよ」
「ウゴケナイノモソノセイカ?」
「それは護鉄塊の性質よ、喋り方が変なのは違うけど、全身固めるんだからそうなるわよ、何?動きたかったの?」
「ウゴキタカッタ……イヤ、ワタシハウゴクゾ!」
ラニは護鉄塊をなんとか維持しつつ体を動かそうとする。
護鉄塊は護衛魔術の中でも比較的初歩、ゆえにシンプルだが、行動制限はシンプルである為の成約のようなものだ。
魔術を限界まで極めた者であれば成約を打ち破る事もできようが、それはもはや護鉄塊ではない。
護鉄塊とは別の上位硬化魔術だ。
「ングググググォォオ……ダァ!」
しかしラニは護鉄塊を護鉄塊のまま別の武器として昇華させた。
ラニの鍛え上げた身体が硬質化しながらの行動を可能としたのだ。
「はぁ!?」
「……すごいな……」
慣れない魔力を扱い消耗する上に短時間ではあるが、慣れれば実戦でのラニの近接戦闘により磨きがかかるだろう。
これには魔術に精通したエミイとオリセも目を丸くするばかりだった。
二人はその後、暗くなるまでラニの護鉄塊を扱う特訓に只管協力した。
その成果としてラニは護鉄塊をある程度扱えるようになったのだった。
コルは道場の隅で座って眺めていた。
最後まで。
「ラニが楽しそうで良かったけど、俺を忘れるのはやめとくれー……」




