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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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最低な罰と最悪の戒め

カトリス襲撃作戦に参加した団員が全員帰還した次の日。

一晩自室で休んだコルとラニは、作戦後の報告書類作成のため、作戦会議に使った会議室へ向かった。

「……なあ、なんか変な感じしねえ?」

「うん、何かあったのか……いい雰囲気じゃないな」

ラニの直感的な違和感に、同意する。

この日は拠点全体が妙に静かだったり、妙に騒がしかったり、落ち着きがない様子だった。

二人も今回の任務に手応えを感じていて、それとなくそわそわしていたが、それとはまた違う落ち着きのなさだった。

「ひとまず、今は……」

会議室の前までたどり着き、扉を開ける。

部屋には先に部屋を出たエミイとオリセ、そして拠点の雰囲気同様落ち着かない様子のチャシが座っていた。



「お待たせ……なあ、俺たちが寝てる間に何かあったのか?チャシもだけど、みんなそわそわしてるっていうか」

「はぁ……ちょうどそのことについて聞いてたところよ……全員揃ったし、そろそろ話してくださる?」

「ああ、ワシもついさっき聞いて一瞬で酔いが冷めた、襲撃班側で起こった事だ」


チャシはいつものように大口を開けて笑うでもなく、静かに理由を話した。

コル達は撤退直前、襲撃班のクドと合流したため、残された亜人が18人だった事、負傷者が出た事、そしてバハメロがカトリスのボスと戦闘になった事までは知っていた。

チャシが話したのは報告されたその後についてだ。

バハメロの負傷とカトリスのボスの殺害。

拠点内がざわついていたのは、コル達が寝た後にバハメロが満身創痍で帰ってきたからだった。

「あんなボロボロの団長、創設メンバーのワシでも見たことねえ、帰った時団長を見たのは数人だったがよ、この感じだとすでに噂になったか……」

「……団長は今どこに?」

チャシは頭を抱え、柄にもなくため息をこぼしながら答えた。


「ノヤリスにはなにかしら問題を起こした団員に与える罰がある、全部で4段階」

「罰?」

「レベル1、説教の刑、ミクノちゃんからのガチ説教、最年少からの正論が一番つらい、レベル2、地下の刑、地下にあるナノン印のよくわかんねえ機械のハンドルを回す、退屈な上に腕がしぬほど疲れる、大概のことはこのどっちかだ……これ以上となると相当な問題を起こしてる」

息を飲み、次の罰の説明をする。

「レベル3、手伝いの刑、そこそこの期間雑用係を任される、こんな名前と内容だが、かなり辛い、良識の範囲内とはいえ結果として奴隷の真似事の様な状況になるんだからな、そして何より終わった後に団長が悲しそうな顔で謝りながら最後の説教をするもんだから、誰も幸せにならない最悪の罰だ、ちなみに基礎的な部分はシーモが考えた」

「……レベル3で最悪ってんなら、4はどうなるんだ?」

「……レベル4、地下牢の刑、少しの間地下牢に閉じ込める、最悪中の最悪、普通使われねえ、無駄な殺しでもしない限りな、拘束は無し、飯もある、ただそれ以外の時間を牢で反省する、レベル3ですら過去2.3回、この罰はただあるだけだった」

察しのいいコルとエミイは冷や汗を流した。

「まさか……でもどうして?」

「……これを見てくれ」

チャシは一枚の報告書を差し出した。

その書類を書いた者も動揺していたのか少し字が曲がっている。

そこにはこう書かれていた。

『団員番号14 ヤカ・ヤック 人を殺した罰として地下牢の刑』

『団員番号1 バハメロ・フラオリム 本人の申し出により 同様の場罰を与える』


「戒めってやつだ……3日間に合わなかった亜人達のこと、ベーズ達をケガさせたこと、ヤカがボスを殺したことも、最悪の刑をもって罰した事も全部自分のせいだと……まだ19の癖に、全部自分の責任にしやがって……」

全員が何も言えないまま立ち尽くしていると、チャシは話を続けた。

「……おほん、ひとまず、報酬は昨日の夜のうちに配られたから安心しな、今日中にロナザメトが掲示板に今回の事を書けるだけ書くはずだから、今回の件について何か聞かれたらそう答えてくれや、ガハハ……」



それからチャシは、報告書の事を請け負って、渡り月を部屋に返した。

部屋に帰る途中、四人はバハメロの事が気になってしょうがなかった。

そしてそのことを最初に切り出したのはラニだった。

「……その、バハメロの事だけどよ……」

「私達にできることは全部やった、そして今できることはないわ」

「でもよぉ……あんな強いのに大怪我したってのが信じらんねえよ」

「……ラニ、今は待つしかないよ、大丈夫、責任感の強い団長の事だから、できるだけすぐに戻ってくるはずだ、その時の為にしっかりしとこう」

「コル……そうだよな」

ラニは自分の頬を叩いて気を引き締め直す。

「……っし、それじゃあ行くぞコル」

「……どこへ?」

「『しっかりしに』だ、びしっとするには訓練だ、一緒に組み手をするぞ」

「あっはい、お手柔らかに……」

「それじゃあ、私達は先に部屋に戻るわ、部屋に帰る前に泥は落としてくるのよ」

エミイが軽くため息を付きながら手を降る、ラニはその手を掴んで引いた。

「エミイも行くぞ、あの硬くなる魔術教えて貰うからな」

「はぁ!?だから貴女には向いてないって……力強いわねこのっ……ああもうわかったから引っ張らないで!」

「……」

コルとエミイを引きずって歩くラニを見ながら、自分だけ部屋に戻る訳にも行かず、オリセは後ろを静かに付いていった。


そしてその頃、懲罰用の地下牢では。

片方はうずくまってぶつぶつと独り言を呟き、片方は苦悶に歪んだ表情で服の裾を噛み締めていた。

二人共、既に心の底から後悔と反省を繰り返している。

しかしまだ出ることはできない、これは罰なのだから。

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