その頭と翼には筋肉が詰まっている
揺動班として部屋に残ったのは渡り月の四人、鳥頭の大男、青い羽の少女、猫の少年、この7人だった。
『真面目な班内作戦会議』と言った鳥頭の大男がまず最初にしたことは、どこからともなく酒を取り出す事だった。
「さっき素面でって……」
「あ?おっとこりゃ良くない、癖だ癖、さてまずは名乗らせてもらうぜ、ワシは補給部隊『酔鳥』隊長のチャシってんだ、そんでこのちっこいのが……」
「カロロ……です……」
「これでもワシらは団員番号3番と4番!つまり大先輩だから今回も大船に乗ったつもりでいてくれればいいからな!ガハハ!」
チャシは高らかに笑いながら机に置いた酒瓶を大きな嘴に近づける。
それをすぐさまカロロが取り上げた
「没収、です」
「っと、これまた良くないな……どうも話を進めようとすると酒に翼が伸びる」
「それ、やっぱり翼だったのね」
渡り月の四人がずっと気になってた疑問にエミイが切り込む。
チャシの頭部は鳥そのものであり、筋肉質な腕も人のそれとは違う形状をしていた。
「ああ、ワシは性質が『濃い』んだ、鳥の亜人ってえとカロロみたいに背中に翼があんだが、ワシは頭と腕が鳥のそれに置き換わってたもんで、もう49年付き合った体だからな!今更任務に支障はねえから安心しろってんだ!」
無意識にカロロの持つ酒を手に取ろうとするチャシの間に割り込むように、少し離れた位置に立っていた猫の亜人が寄ってきた。
「渡り月の皆様ははじめましてー、リッキーと申します、自己紹介は切り上げてそろそろ本題に映るべきとー思います」
「それもそうだ!このままじゃ夜が明けちまう!それは良くない!じゃあ今から配る書類に目を通して貰おう!」
カロロが書類を配っている間に、チャシは置かれた酒を一気に飲んだ。
「ひっく、んじゃ任せたカロロ、緊張せずにいつもどーりやればいいあらな」
「……コホン、えっとまず……改めて今回の『カトリス襲撃作戦』、ボク達揺動班の役目は文字通り揺動になり……ます、書類三枚目をご覧ください」
確認するとそこにはおおまかなカトリスの拠点周辺のマップが記されていた。
「ま、まずはリッキーさんの馬車で『ポイント1』に到着、リッキーさんはここで待機になります」
「了解ー、書類に目を通した限り出番は以上な様ですので、先に馬の準備をしてきますー」
「あっ……はい、よろしくお願いします」
「ではー」
リッキーは敬礼を残して会議室を後にした。
「えっと、その後ボク達は『ポイント2』まで迅速に移動、そしてここになるべく多く敵の意識を集中させます、ここまでで質問は……あります……か……?」
エミイは目を合わせた途端あからさまに怯えられた事に対するため息を飲み込みながら質問を続けた。
「カトリスの構成員は推定100人、私達6人で集められる数なんて、10人がいいところじゃない?」
「は、はい……それでもいいんです、10人でしたら倒せるので……そしたら増援が来るまで建物を壊し続け……それを繰り返し40人程度引き付け、頃合いをみて『ポイント1』まで撤退というのが……現状の作戦です」
「脳筋計算過ぎない?」
「私は15人くらいなら勝てるぞ」
ラニがそう豪語する、するとチャシは酒を飲む手を止めてラニから順番にコル、エミイ、オリセをジロジロと見つめた。
「……!ガハハハ!これはいいな!流石バハメロが鍛えただけある!見たところ他3人もそれなりにやるようだな……50人だって夢じゃねえぜ!ガハハ!」
「はぁ……ほんとにそれでいいのかしら……」
「あ?なんだ嬢ちゃん、不安か?奇襲なんて大体こんなもんよ!」
「はぁ……さっきの会議で黒髪の亜人が言ってたわ『一筋縄ではいかない』って、私はこれが初めてだけど、今までとは違うんでしょう?」
「あ?あー……」
チャシが頭をかく。
鳥の頭でもそれが困った表情だと言うことはわかりやすかった。
「正直な話、その気になればそこらの亜人狩り100人なんてワシとバハメロとシーモ……あとはその黒髪の、ヤカってやつ、この四人だけでも勝てる」
「殺していいなら……ってこと?」
「おう、察しがいいなあコル、しっかし勝ってもこっちは死なない程度に怪我はするだろうがな!『出来る限り殺さない』こんな雑な決まりを今迄全員守ってきた、正義の名のもとにやる殺しは気分が悪いからな!ガハハ!」
「みんながみんなチャシさんみたいに気分でそうしてるわけじゃないですが……殺せばその分『対等な未来』は遠のく、不安も山程ありますが、その度になんとかしてきたので……でもこういうと感覚麻痺ですね……ボクとチャシさんは創設メンバーなので……団長の事信じたいんです」
「……ずっと、気になってたんだが……」
これまで書類を見つめていたオリセが顔を上げて声を出す。
「……何故ノヤリスの存在は未だ隠せているのだろうか、誰も殺していないなら……残党から噂が広まるはずだ……」
「そりゃあお前、亜人狩りが表で『奴隷売ろうとしたら亜人にめちゃくちゃにされた!』なんざ言えるかい、プライドもそうだが純人の法じゃ奴隷商はギリギリ罪に問われる、んでもって襲撃が毎度成功するあたり……亜人狩りは他の亜人狩りはなんというか……」
「…… 協力関係にない、なんなら商売敵として対立している可能性すらある、というのがノヤリスでの推測です」
「そういうこった!話がちょっとそれちまったか?こいつは良くない、他に質問がないなら次に移るが……」
少し迷う素振りを見せたコルが手を上げた。
「これもちょっと関係ないかもしれないけど、解放作戦の時の団長っていっつもあんな感じなのか?」
「団長?なんでまた」
「なんというか、いつもより余裕が無い様に見えたから……」
チャシは空になった瓶の蓋を閉め、筋肉の詰まった太い翼を器用に使い、足元に置いた。
「ははあ良く見てるな?ワシと同じ感想だ、あれはあれだな、シーモが心配でしょうがないって顔だ、ワシらの団長は仲間想いなんだよ、不器用な程にな」
その後会議は問題なく進み、気づけば空には星が浮かび始めていた。
翌日の準備を整えたリッキーと合流し、揺動班の7人は食堂で食事を取った後、それぞれ自室で仮眠を取ることにした。
日の出と共に『カトリス襲撃作戦』が始まる。




