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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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才能

「……はっ、こほん!僕の完璧な陣形を乗り越えるとは、なかなかやるじゃないですか」

「あ、動いた」

しばらくラニに目を奪われていたクムルがようやく手を振りほどいて立ち上がる。

「言うほど完璧か?あんだけ自信満々に有利な場を作ったのに自分が入って殴りかかってきたら意味ねえだろ」

「……うう、はい」

「クムルにい、コルにいのおはなし、きいてくれる?」

コルはこれまでの経緯と工房へ向かう目的を話した。

クムルは途中ラニが気になっているようで、チラチラと目線を向けていたが、その度ミクノから注意を受けていた。

「話はわかりました、早とちりでした、すいません……しかしクレームどころかお礼ですか、師匠喜びますよ、多分……きっと……おそらく……多分?」

「自信なっ、多分が2回使われるほど!?」

「師匠卑屈ですから、足止めのお詫びじゃないけど、師匠の話とかしながら案内しますよ」

「んん……あんないはミクノがするから、いらない……」

「うーんじゃあ、僕もミクノさんについていく感じで」

「ならいいよ」

改めて、3人はクムルと共に少し焦げた匂いの残ったベランダから屋内へ入った。

「こほん、ここからしばらく、おへやのないろうかがつづくよ、おてあらいは、だいじょうぶ?」



道中に語られるクムルの師匠自慢は中々に興味深い話が多かった。

それはもちろん現時点で唯一錬金術に興味を示しているコルにとってのみだったが。

「――その時師匠は自分で1から作った薬品を見てすぐ『うん、これならまだまだ改良できるよね』って!僕の目には完璧にしか見えなかったのに、まだまだ修行が足りないんですかねえ」

「錬金術って深いんだなあ、魔術と科学の中間くらいのふわっとした印象だったけど、聞けば聞くほどどちらでもありどちらでもない……」

「例の鈴ですけど、純人の街に調査に言った団員から『通信機』の話を聞いたときは流石に嬉しくなりましたよ」

「それはまたどうして?」

「だってあの鈴は通信機より先に師匠が開発したんです!それに鈴の方が小さい!量産の面では流石に負けたので4つしかない訳ですが」

「そんな貴重品俺達が持ってていいのか?」

「いいですよ、武器庫に置いてる錬金道具は師匠の習作ばっかりですから、その鈴はいい道具なのにぴったりな団員がいなかったので、うまく使ってください」

「じゃあありがたく……なあクムル、錬金術って勉強すれば誰でもできるの?」

クムルの首がぐりんと周り、真っ黒な両の目でコルを見つめる。

「コルさんもなりますか!?錬金術師!」

「うおっどうなってんだその首」

つい驚いて大声を上げると、一瞬ラニがその声に驚いて振り向いた後「なんか既視感あるけどちょっとちげえな」と呟いてクッキーをかじった。

「ああこれまた失敬、生まれつき首の可動域が広くてテンションが上がると頭が上下逆さまになるんですよ、不気味ですよね……」

「いやちょっとびっくりしただけ、それより質問の方は……」

「はい、結論から言うと誰でもは無理です、例えばそうですね、とりあえず『才能』と例えますか、魔術の才能とは体内魔力の量とか大気魔力との相性とか言われてますね、そして科学の才能は知識を得るための努力ができるか否かにあると言われています、では錬金術の才能とはなんだと思います?」

「錬金術の才能……うーん……わかんないな」

クムルは自分の翼に包まってニヤリと笑っている。

「正解は発想力です」

「発想力?」

「錬金術は道具を作るもの、魔術と違い形がありますが、科学と違ってそれは自由なのです、科学で作られる『通信機』は今後あの四角いゴツゴツ路線から変わることはないでしょうが、錬金術製なら鈴でも棒でも紐でも、なんなら液体でもいいと言うことです」

「……わかるような……わかんないような?」

「師匠曰く『最初から賢い人は柔軟性に欠けるからちょっと馬鹿な方が錬金術師には向いてるよね』だそうです」

「あー……なるほど、魔術の時代が終わり科学の時代が始まるなんて言われてる昨今、どうしてこの技術力がある錬金術が光を浴びてなかったのか今わかったよ、偉い人は『賢い』からね」

「フフッ……あっ、そうこう言ってるうちに次の角を右に曲がったらあとはまっすぐですね、もうここまで来ると工房しかないからほとんどだーれもきません」

「むう……クムルにい、あんないはミクノがやるって言ったのに」

「あ……つい」

「……いこ、ラニねえ」

ミクノは頬を膨らませ、ラニを引っ張って先に角を曲がってしまった。

「あらら、ミクノさんを怒らせてしまうのは不味いですよ、いろんな人から怒られます、特にナノンさんから」

「追いかけよう」

ふたりは小走りで角を曲がる。

するとコルの体が何かにぶつかって思わず尻餅をつく。

ぶつかったそれは先に進んだはずのラニだった。

「あ、すまん」

「いってて……どしたのラニ」

「いやな、なんかやな予感すんだよな、なあ先輩」

「ん、ミクノもね、なんかおかしいきがするの、なんだかね、まえとちがうみたいな……そんなかんじする」

四人の前にはただ、薄暗い廊下が続いていた。

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