通れない道
あれからどれだけ歩いただろうか。
コルとラニは、ミクノの後に続いて階段を降りる。
目的地へと進むほどに陽の光から遠ざかってゆくのを実感する。
長く続く通路には窓に変わり、右の壁には据え置き型の魔術灯が等間隔に並んでいた。
「そうだ、コルにい、どーくついったんだよね、くらくてせまいって、ほんでよんだんだけど、こんなかんじ?」
「ん、んーそうだな……」
コルは辺りを見回す。
ただ暗く狭い洞窟と比べ、薄暗いながらも安定した光源と整った足場があるだけで、不思議と安心感があった。
「もっと怖いとこだったよ」
「はっ、ここじゃ収まんないくらいデカくて尖った異獣が襲って来るんだぞ」
「ラニねえより、おおきい?」
「ああ、私が5人分は越えてたな、だが私……いや、私達四人の方が強かった!」
「おー……かっこいい……あれ?」
話半分に進めていた足が止まる。
目前にはボロボロになった通路と、そこに入るなと警告する看板が立てられていた。
「むー、とおれない」
「……誰かいるな?」
「おや、誰かと思えばコル君ラニ君ミクノ君、こんなとこに何用かな?っと、頭上気をつけてね」
「その声は……シーモ?一体どこから……」
「真正面さ、何?暗くて見えない?そうだろうね、そっから先の魔術灯は壁ごと吹き飛んだんだからさ!」
ボロボロの通路から聞こえるシーモの声は、どことなく疲労感を醸し出している。
「……何やらかしたんだ?」
「あ、ワタシがやったと思ってるね?傷ついちゃうなぁ」
「なんだか焦げ臭いけど、なんでこんな大変な事に?」
「運んでほしいって言われた爆弾が急に爆発したのさ、事故だね事故、事故なのに修理しろってさ、フフフ、作った人と起爆した人、果たして悪いのはどっちかなあ!」
暗闇の中から愚痴を溢すシーモを意にも介さず、ミクノは純粋に言葉を投げる。
「シーモおじちゃん、こことおっちゃだめ?」
「ミクノくぅん、ワタシのこと頑なにおじちゃんに分類するのどうしてなの……?この道は危ないから通行止めさ、回り道したまえ」
「ぷう……いこ、コルにい、ラニねえ、とおまわりになっちゃうけど」
「っと、そういうわけだから、シーモも後は頑張れ」
「じゃあな」
「はいはい、いってらっしゃ~い」
ミクノは頬を膨らまし、コルの袖を引きながら崩れた道に背を向けた。
一同は同じ道を引き返す。
先程まで右側に並んでいた魔術灯が今度は左側に並ぶ。
「きょてんはみちがたくさんあるから、いっことおせんぼされてもだいじょうぶ、ちずでいうと……ここ」
「……ほんとに迷路だな……なんでこんなに複雑化したの?」
「あたらしいひとがきたとき、おへやにこまらないようにって、でもね、たのしくなっちゃったんだって」
三人は階段まで辿り着いた。
上から自然の明かりが差し込んでいる。
「楽しく?」
「うん、たくさんみちとかおへやとかつくりたくなっちゃって、だからあたらしいひとのおへやなのにあたらしいひとがむずかしくていけないの」
「本末転倒ってやつか……」
「それ、ナノねえもいってた、ほんまつてんとー?だからラニねえたちのおへやもみんなでひとつなんだよね?たのしそうでいいなあ」
階段は降りる時は意識しなかったが登るとなるとそれなりに長い階段。
登りきった時、呼吸が乱れていたのはコルだけだった。
「……ふう……」
「コル、お前はもうちょっと持久力あった方がいいな」
「この階段微妙に段差が高い気がする……」
「気の所為だ気の所為、さて先輩、ここまで戻ってきたけど、先輩は疲れてないか?」
「ん、ミクノはげんき、クッキーもまだたくさんある」
「っーしじゃあ行くぞ、っと地図だとここってことは……あっちか?」
「うん、せーかい!」
「ははーん、なんとなくわかってきたぞ」
ラニが拠点の構造を理解し始めたことで、三人はよりスムーズに次の道へ進むのだった。
一方その頃、魔術灯の壊れた通路にて。
シーモは魔術も駆使して修理作業を続けていた。
「人手が欲しかったけど、まあ忙しそうだし仕方ないね……そろそろ喋ってもいいんじゃないかな?もう聞こえないと思うよ」
「か…隠れようと思ったら一歩も動けないから辛いのよ……しかし今危なかったのよね、偶然爆弾が爆ぜてなかったら彼らとこんなとこで鉢合わせていた……ぞっとするよね……」
暗闇から、鉄のきしむ音と共にシーモとは違う声がする。
「フフ、人見知りさんめ、暗くて見えなかったとはいえ見つからない物だねえ……」
「あの男が……もしかしてさっき言ってた純人?」
「そうそう、彼がコルトリック君、いい子そうだったろう?」
シーモは暗闇の中手探りで半壊した魔術灯に手を伸ばす。
そして手探りのまま簡単な修理を試みた。
「いや、人は見かけに寄らないのよ……」
「しかし彼ら、ここで何してるんだろうねえ」
「……彼が僕の作った鈴を使ったってね、そしてこの先にあるのは僕の工房!間違いない……こんなの……クレームしかないのよ!」
魔術灯の応急修理に成功し、薄暗く赤い光が壊れた通路を照らす。
そこにはよれよれの服に不釣り合いな物々しい兜を身に着けた男が立っていた。
「フフ、フフフ、人見知りな上に心配性だね、ラック君は」




