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亜人解放団ノヤリス  作者: 荒神哀鬼
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巧みな交渉術

コルは団長室の扉を閉め、先に出た三人を追いかけようと廊下を見渡した。

陽の光が差し込む廊下は程よい暖かさで、暗くて狭い異獣の巣窟から帰ってきたんだということを肌で感じ、思わずその感情を噛みしめる。

滲み始めた涙を拭うと数歩離れた先の壁でラニが座り込んでいるのが見えた。

「もしかして待ってた?」

「おう」

「そっか、おまたせ」

ラニはゆっくり立ち上がり背伸びをする。

「エミイは部屋に報告書書きに戻ったぞ、でオリセは図書室、借りたの返しに行くって」

「ラニはこれからどうするんだ?部屋に戻る?」

「……さっきエミイがな『報告書の邪魔になるから、散歩でもしてらっしゃい』って」

「ああ言いそう……でもちょうどいいや、一緒に行こう」

「いいぞ、どこ行くのか知らんけど」

「散歩……いや、迷宮探検かな」

コルはバハメロ達から聞いた『ノヤリスの錬金術師』の話を噛み砕いて伝えた。

「なるほど迷宮の奥に隠れてるって訳だ」

「で、これがその地図、ところどころ後から書き足されてるあたりこれだけで辿り着くのは難しそうだ……」

「この拠点の奥はほんとに複雑だった、私も洞窟行く前一回迷子になった――」

直後、ラニの表情が明るくなる。

「そうだ、私にいい考えがあるぞ!」

「その考えとは?」


数分後、『鋼華』工房前。


相も変わらず鉄がきしむ音と油の匂いのする建物、何度も来ているコルはこの音と匂いにも慣れ始めていた。

「おじゃましまーす」

「おや、その声は……」

いつぞやと同じ様に大きな機構の組み込まれた鉄の塊の影から鼠の亜人が顔を出す。

そして相変わらず煤まみれの顔だった。

「やっぱりコルくんっすか、初任務ご苦労さまっす」

「ありがと、それこそナノンとナドスト村に行ったのがあるからそんな気はしないけどね」

「ナドストといえば……あれからお守りに何かあったっすか?」

「そういえば……」

コルは首にかけていた歯車のお守りを取り出す。

以前一度だけ発光し、コルとナノンを救ったそれは、今はただの紐付き歯車だ。

「あれ何だったんすかね……まあでも、ナドスト村跡地から帰ってすぐの洞窟調査だったんすから、ゆっくり休んでから調べる方がいいっす、任務終わったからしばらく自由時間っすよね?」

ナノンに言われて思い返して見ると、コルはあの日あの廃屋でノヤリスと出会ってからまるでゆっくりしていないことに気づく。

しかしロナザメトやラニに行くと言った反面この一件を終わらせるまでは休めない。

「確かに言われてみればずっと動きっぱなしだ……用事が済んだらそうするよ」

「あっといけないっす、その用事が私にあるんすよね、ラニさんと一緒ってことは機械関連じゃない?」

「私は細かいのよくわかんねえからな!あと用事があるのはナノンじゃなくて、ミクノを借りに来たんだ」

「ミクノちゃんっすか?」

「……だれかよんだ?」

声のする方を向くと、そこには扉から顔を覗かせるミクノがいた。

「ラニねえ、ちょっとだけ、ひさしぶり」

「今日は先輩に頼みがあってきたんだ、また道案内してほしくてな、コルが錬金術師に会いたがってるんだ」

「ラックさんに?コルくん聞いてるとは思うっすけど……」

「トラブルになる前に退散するよ、それで拠点内の道に詳しい人に心当たりがあるってラニが、まさかミクノちゃんとは思わなかったけど」

「勿論ただでとは言わねえよ」

ラニが懐から取りだしたのは、ここに来る前厨房に寄って、ラニのポイントと交換してきた6枚入りのクッキー袋だった。

クッキーは厨房のリンからミクノの好物を聞いた上で交換した物だった。

「先輩が手伝ってくれるならこれ、全部やるぞ」

「わあ……うん、いいよ、ラックおじさんのところ、あんないする」

「よっし!見たかコル!これがコーショージュツってやつだろ!」

「ああそうだ、すごいなラニは」

「ふふん」

「というわけでちょっとミクノちゃん借りるね」

「まあしょうがないっすね……暗くなる前には帰るんすよ」

「うん、いってきます、ラニねえコルにい、まずはこっち」

少女は受け取った袋を握りしめ、前方を指差しまっすぐ歩く。

「頼んで正解だったな、さっそく地図と真逆だぞ」



「ねえミクノちゃん、そのラックおじさんってどんな人?」

「んーとね、いいひと、たまにしかあえないけど、なんだっけ、あのよろいのひとがつけるあたま……」

「兜?」

「そう、かぶと、いっつもつけてる、よろいきてないのにかぶとだけ、はじめましてしたときはもうそうだったけどしっぽでわかる、ラックおじさんはとかげのあじんさん」

「兜を被ったとかげの亜人ね」

「れんきんじゅつは、ラックおじさんとクムルにいしかできないからすごいなあって」

「あの鈴とか凄いことはわかるけどどうなってんのかさっぱりだったもんな」

「……ん?ミクノちゃん、錬金術師はラックおじさんだけじゃないの?」

「え?うん、クムルにいもいるよ、ラックおじさんの、うーんと、おでし?」

「おでし……お弟子?」

「でもクムルにいはまだじょうずじゃないからいっつも『ばくはつ』してるの、ナノねえといっしょ、にぎやかできれいだから、『ばくはつ』はすき」

(将来有望だな……)

コルとラニは苦笑いしながら笑顔でクッキーを一つ取り出すミクノの後ろを歩くのだった。

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