そんなに……?
すっかり日も登りきった頃。
最初に目を覚ましたエミイがラニを揺さぶり、その音と声でコルとオリセも深い眠りから目覚める。
四人は帰ってそのままベッドに倒れ込んだため、簡単に服装だけを正して団長室へ向かった。
そこではいつも通り大きな椅子に座るバハメロの隣でロナザメトが上機嫌に作業をしていた。
「――以上が今回の洞窟探索の報告、報告書は書き方がわからないからまだ書いてないわ」
「ふーむふむ……うむ!ご苦労であった!正直異獣が住み着いていたのは想定外だったがよく戻ってくれた、ふらふらと帰ってきた時はもう心臓が飛び出るかと……あ、報告書の書き方はここにメモがあるから参考にするといい、書いたら吾輩かロナザメトに渡すのである」
バハメロは机に積もった紙の一枚を持って立ち上がる。
そしてメモを手渡しすると同時にエミイの頭を力強く撫でた。
「な、何?」
「む……何と言われても困るのだが……ほら3人も」
そのままエミイの一歩後ろで待っていたコル、ラニ、オリセの3人も一通り撫でた後、バハメロは椅子に座り直した。
「勿論褒めるだけで終わりではない!皆、ノヤリスポイントカードは持ってきたな?見てみるのだ」
言われた通りカードを取り出す。
受け取ったときにはなかった赤い印がカードに刻まれていた。
「あっ、スタンプもう押されてるぞ!」
「……いつの間に?」
「ふふん、押そうと思うだけで印が浮かび上がる、吾輩専用の凄い魔術である、カードと一緒にシーモが作ったのでである!ポイントを使用する時は消える様になってるから、ズルはできぬぞ!」
「今回の任務で10個……団長、ちなみにこれどのくらいの物なんだ?」
カードに描かれた枠の様な物にはまだかなり空きがある。
「晩ご飯の増量やおかわりに大体3、物資調達の時に欲しい物を買ってきてもらう権は大体50ポイントである、これはメニューや欲しい物の入手難度によって変わるが……まあ厨房のリンや補給部隊長のチャシに聞くのだ!」
(……パーティーにいた……あの大男か……)
(隊長だったのね)
(チャシって誰だ?)
「ひとまず次の任務までのしばらくは自由に過ごしてほしい、次に渡り月に任務を与える時にはまた呼ぶから、それまで充分に休息と研鑽を積むのである!では解散!」
なんとなく雰囲気に流され、ラニ以外が軽く頭を下げてから部屋を後にする。
「あそうだ、みんな先行ってて、団長にちょっと聞きたいことがあるんだ」
「む、どうしたのだコル、ポイントなら頑張ったみたいだからおまけしたぞ」
「いや催促じゃないけど、それはどうも……聞きたいのはこの鈴のことなんだ」
「鈴?」
「ああ、シーモが言ってましたよ『ラック製の錬金道具を渡した』と、聞いてもないのにヘラヘラと」
「この鈴かなり便利そうだからこれからも使いたくて、その作った錬金術師に話を聞いておきたいんだけど、どこにいるのかなって」
そう聞くとバハメロとロナザメトが困った顔を見合わせて唸り始める。
「そんなに困ること聞いた?」
「……問題が二つあります、まず彼の工房は拠点の奥の方にあります、相当入り組んだ所なので慣れてないコルさんではまず迷うでしょう」
「二つ目は……彼は純人を嫌悪しているのである」
「あっ……」
「そう申し訳無さそうな顔をするでない、ノヤリスにも少なからずそういう団員はいるが、ナノンのおかげもあって、組織内ではコルだけの評判なら悪くない、しかしラックは工房から出ないし弟子以外とろくに交流もしていないが故……な」
「いい機会かもしれません、どのみち避けては通れないでしょうし、コルさん、自由行動期間、いつでもいいので工房に向かってください」
「……うん、わかった、今日行くよ」
「道中誰かにすれ違ったら絶対道を聞いてください、馬鹿にするわけではありませんが、一人だと絶対迷うので」
「そんなに!?き、気をつける」
コルは複雑に描かれた拠点の地図を握りしめてラニ達を追いかけた。
「……さてロナザメト、ラックの件も気になるが、あの報告どう思う?」
「疑わしい、という意味ではないですよね」
「無論である、団員のことは何よりも信じている、だからこそ吾輩妙だと思うのである」
「ええ、彼らも不思議に思った様ですが、崖の中にある人工物に大きな空洞となにもない一軒家、そしてそれらが異獣によって崩壊していない、異常がないことが異常とでもいいますか、何より……」
「何より『洞窟に入ってからほぼ丸一日で帰ってこれた』か」
バハメロは椅子に座ったまま考え込む。
「むむむ……古代の神秘か、それとも魔術儀式?何にせよもう少し調べたいところである、ロナザメト、頼めるか?」
「……了解しました」
「珍しく不服そうであるな、もしや用事でもあるか?ならば……」
「いいえ問題ありません、そういえばモグラと地下の町の昔話があると以前カロロから聞きました、何か関係があるかもしれません」
「む、図書室に行くならついでにこれを返してきてくれ」
「はい、相変わらず兵法書ですか、この本前も読んでいませんでした?」
「大事な物は何度読んでもいいのである!」
「ふぅ……何度読んでも団長の得意戦術は突撃のままですけどね」
ロナザメトはバハメロから渡された本を持って図書室に向かった。




