拠点に帰るまでが任務です
休憩を終えた四人は重い腰を上げて小屋へと向かった。
「じゃあ、開けるぞ」
ラニが警戒しつつ扉を引く。
他の異獣や罠の類は無く、扉はただ普通に開いただけだった。
「なんというか、普通ね」
「……ああ」
中には椅子や机、空の本棚。
地下であるが故に光の差し込まない窓辺には、花の入ってない花瓶が置いてある。
ラニはその花瓶をひっくり返して覗いて見た。
「んーなんもねえな、すでに誰かが来て全部持ってったか?」
「それは考えにくそうだけどなあ、そう簡単に来れる場所じゃないし、あの異獣もいるし」
「だよなあ」
棚の中を覗いたエミイがため息交じりに口を挟む。
「妙に小綺麗だわ、少なくとも異獣はここには入ってないみたいね、だとしたらここは誰の家……?」
「こういう時はそう……隠し通路とかがあるに違いない!」
「……探してみよう」
コルの一声で室内をくまなく捜索する。
数分かけて得られたのは『何も隠されていない』という情報だけだった。
「なんもないぞ、こんな苦労して入ったのに!」
「はぁ……微妙に腑に落ちないけどここにはもう何もなさそうね、大人しく帰還しましょう、帰りはラニとオリセが通った道からでいいかしら?」
「……問題ない」
四人はラニとオリセが行きに通った足場の悪い道を使って外を目指す。
「しっかしこう意識するとここ坂道だったんだな」
「……知っている道だ、すぐに出口にたどり着くだろう」
「俺達が通った方はこう、真っ直ぐの道が急に下に向かってた、人口っぽかったけどこういう坂道にできなかったのかな……というかあの道と小屋は同じ人が?ううん、謎だ」
「ははっ、案外意味もなかったりして……お、ここあんときの分かれ道だぞ、さくさく帰れてるな」
「行きはあんなに大変だったのに……逆に不安になってきた気が……」
魔術灯一つだけの薄暗い空間が静寂に包まれる。
「なんか無性に奇妙に思えてきた……言われてみればあんなとこにある小屋に何もないの、逆に怖くない?」
「……」
最後尾を歩いていたエミイが早足で後ろから二番目のコルを無言で追い越す。
「……」
すかさずコルが無言で追い越し返す。
「……コルが後ろで私がその前、これは隊長命令よ!」
「あっずるいこんな時だけ!嫌そうな顔してた癖に!」
「うるさいわね!素直に怖いですって言ったら、考えてあげなくもないけれど?」
「後ろが怖いから最後尾になりたくない!」
「そう!わかったわ!駄目よ!」
後ろのちょっとしたいざこざはラニが最後尾になることで解決した。
「落ち着いて考えてみてさ、俺達は宝探しに来たんじゃなくて未探索の土地の調査って名目な訳だし、『何もない』があっても不思議じゃないよな、うん」
「はぁ……今はそうしときましょう、一刻も早く外の空気が吸いたいわ……」
エミイがそう呟く頃には進行方向から風が流れていた、わずかに視界も明るくなり始め、出口が近づくのが感覚で理解できる。
「長いようで短い洞窟探検も終わりかあ……そう思うとちょっと寂しいような……」
「……引き返すか?」
「オリセ……貴方冗談言えたのね」
出口までたどり着き、外の景色が見えた。
久しぶりの外はすでに日が沈み、森の草木を夜風が揺らしている。
「そういえば時間全然気にしてなかったけど……23時間も地下にいたのね」
「絶対もっと……三日はいたぞ……腹減ったし眠い……」
眠気と空腹は活力を下げる。
亜人の中でもずば抜けてフィジカルが強いラニでさえ、極度の睡眠不足と空腹が運悪く重なれば、亜人狩りに捕まるほど弱ってしてしまう。
その後寝れば脱走できる程に回復するのだが。
つまり現状、四人は一刻も早く寝たい一心だった。
「ふぅ……さあもう一踏ん張りだ、拠点に帰るまでが任務!色々謎はあるけどそれを持ち帰って詳しい人に伝えるのが俺達の仕事!なはず……!」
こうして新部隊渡り月の初任務は報告を残すだけとなった。
四人は再び数時間かけて森を抜け拠点に帰る。
虫に怯えるコウモリ少女の悲鳴以外は何の問題ない帰路だった。
拠点の入り口でへとへとになった四人をバハメロとロナザメト、そしてシーモの3人が出迎える。
バハメロの『吾輩も眠いから報告は明日でいいな!いいであろう!それでは!』と言う言葉に従い部屋に直行。
そのまま四人同時にベッドに倒れ込み、揃って昼まで熟睡したのだった。




