伸びろ
オリセが走る、両手に小石を抱えたコルを担いで真っ直ぐに。
「おいどこ連れてく気だ!」
「すぐ分かるよ!ラニはそのままもうちょっと後ろに!」
「……!わかった!」
異獣はオリセとコルを追いかける、人一人担いだオリセの速度は異獣の全速力よりも少し遅い。
「オリセあそこ!俺達が来た道、遺跡からの一本道!」
「……コル、本当にあれを、止められるのか?」
「止めて見せる、オリセこそ、10秒で本当に足りる?」
「……」
「えっここで黙る?」
オリセの脳内で過去の記憶が走馬灯の様に流れていた。
昔魔術を習った時の記憶。
見えない何かから、聞こえない声で、知らない魔術を教わったあの日、現状と比べ矛盾だらけで歪な記憶。
それが本当に記憶なのか、過去改変の妄想なのか、オリセにすらわからない。
(……どうせ思い出すなら、完璧に思い出してほしいのだが……いつもこうだ、昔を思い出そうとすると必ず乱される……だがこの乱雑な脳内が、自分を、導いている……)
「……問題……ない!」
二人はコルとエミイが来た道へ逃げた。
その道は狭く細いが異獣は速度を落とすこともなく、壁を削りながら進んでくる。
「……このあたりでいいだろう」
オリセは道を少し進んだところでコルを降ろした。
異獣は壁にぶつかって折れた針も気にせずひたすらに向かってくる。
「くっ、デカいからここまでは追ってこれないと思った……訳じゃないんだな!」
コルはつまみを回し、棒を投げる。
「伸びろ、カノヒ棒!」
棒が伸びて壁に突き刺さった、通路に一本の棒が引っかかっただけ。
だがそれは全速力で突き進む異獣にとっては充分な障害だった。
異獣が引っかかる、異獣は突如現れた障害を認識できずに思考が止まった。
「オリセ!」
「……木……枝……自然……」
オリセが重心を足に込め右手を前に突き出し、詠唱を始める。
ここまで約3秒。
魔力を感じ取ったのか、異獣は再度動き出し、壁に刺さったカノヒ棒を折ろうとする。
同時にコルますかさず懐からアロルの小銃を取り出し、ぎりぎりの距離まで銃口を近づける。
「刺さる覚悟で隙間に当てるつもりだったけど、そんだけ折れてたら怖くないねえ!!」
モグラの異獣の背中に六発の針が追加され、小さな隙が致命的な隙にまで、伸びる。
これで約8秒。
「……大樹……!森の牙……!林の爪……!『根よ、押し通れ』!」
オリセが魔術を発動した。
壁から飛び出した根は、たちまちに集まり太くなり、一瞬の痺れで動けない異獣を絡め取り通路の外へ押し込んだ。
通路の外で言われた通り待機していたラニに向かって、異獣を絡めた根が伸びる。
「なるほどなぁ……!わかった任せなァ!!」
ラニはすぐさま伸びる根に向かって走りだした。
「狙うは一点、むき出しの腹!だろ!」
踏み込み、ただ力を込めて殴る。
「オォォラァッ!!」
渾身の一撃が、針のない異獣の腹に入る。
あまりの威力に異獣に絡みついていた根ごとちぎれ、反対側の壁まで吹き飛んで行った。
「全力の拳が直撃!起きれる訳がねえ!勝ち!」
「……貴女よく反応したわね」
「待ってろって言われたからなんか来るだろって構えてたんだ」
「そう、それよりまだ生きてるわ、トドメは私にやらせなさい」
「おいおい、いいとこ取りってやつか?」
異獣がぴくぴく痙攣する。
光のない目からは何も感じ取ることができない。
「……私だけ何もしてないの、この異獣と戦ったのに何も、私だけ汚れない訳にはいかないわ」
「……?」
「はぁ、まあわかんないでしょうね、プライドよ、プライド」
エミイは瀕死状態のモグラの異獣の腹を撫でると、小さく鼓動を打つ部分を見つけた。
「異獣にも心臓があるのね」
そしてそのままナイフで異獣の心臓を突き刺した。
吹き出た血で手が赤く染まる。
その後すぐに、コルとオリセが根の隙間をくぐって戻ってきた。
「おかえり、ハリネズミはエミイがトドメ刺したぞ、文字通りな」
「あれはモグラよ、私はトドメを刺しただけ……ほとんど一撃、ラニの攻撃が致命傷になってたわ」
「さっすがラニ、伝わってよかった」
「……終わったのなら異獣が隠れていたあの家を、調査しなければいけない……」
オリセの指差す方にある一軒家。
洞窟の奥深くの広い空間にぽつんと建っている家。
異獣との戦闘ですっかり視界から外れていたが、改めて異様な光景だった。
「……よく見たら家の周りにも何かあるわ」
「ああ、でもよお、コル」
「うん、そうだなあ」
「……今のは……自分にも伝わった」
「ええ……」
「ちょっと、休もう……!」




