形のない恩
凹凸の激しい道に鈴の音が反響する。
「普通の鈴に戻っちまった、錬金術ってのはよくわかんねえけど便利だな、もっと色々持ってくればよかったか?」
ラニとオリセは別働している二人との通信が切れた後、すぐに魔術灯を暗闇へ突き出しながら進んだ。
「しっかし変な道だな、雑に掘られてるのに崩れる気配もない、野生の技術ってやつか?」
二人はただただ先へ進む、時折最大出力の光にモグラの異獣が怯えて逃げるのが見えるが、それ以外は代わり映えのしない景色だった。
「こんな深くても息苦しくないのはエミイの魔術のおかげだろ?そんで鈴から声がしたのは錬金術で……あ?魔術で道具を作るのが錬金術なら魔術灯は錬金灯じゃねえのかよ」
「……恐らく中の光源が魔術製であって外枠は普通の物……故に錬金術は関わっていないのではないだろうか」
「なるほどなあ、お前こういうの詳しいのか?そういや出発前錬金術の話した時も一番知ってる口だったし」
返事はすぐには帰ってこなかった。
オリセは元々口数が少ないとはいえ、自分に投げられた言葉に対してある程度返事はしている。
急に話が途切れ、不審に思ったラニが後ろを向く。
「……?オリセ――」
急に立ち止まったラニと問題なく後ろについていたオリセがぶつかった。
「っ……と、なんだいるじゃねえか、急に黙るなよ」
「……ああすまない、魔術の知識は……並程度だろう……」
「そういやそもそも魔術ってどうやって覚えるもんなんだ?今まで生きててそんな機会とか無かったぞ」
オリセが再び口を紡ぐ。
「なんか言いづらいことか?」
「……体質や環境によって様々だろう、自然に身につける者や口伝によって会得する者……読むだけで魔術を会得する本が何処かにあるという話も……聞いた限りだと誰かに教わる事が基本のようだ」
「師匠ってやつか、他人と関わりだしたのコルと会ってからだから、そりゃあ魔術を教えて貰えなかった訳だ、まあ使える気しねえけど……オリセには、師匠がいたのか?」
「……ああ、いた、はずなんだ」
「はず?」
「……ああ」
オリセはそれ以上語ろうとしなかった。
お互い黙ったまま更に奥へと進んでいく。
「――じゃねえよ!気になるだろ、はずってなんだ?」
オリセは少し深呼吸をしてから話し始めた。
「……幼い頃、ブラボという人に生き方と魔術を教わったはずなんだ、だがブラボは……いなかった」
「いない?」
「……幻覚だったんだ、幼い自分が孤独を紛らわすための、思えば顔も声も性格もわからない、だがブラボのお陰で魔術を使えるという事は何故か確信している……いてもいなくても、自分の記憶がおかしいことは確かだ、だから自分も……探しているんだ、答えを」
オリセの声が徐々に小さくなる。
「そうか、話してくれてありがとよ、いるかもしれないってんならその前提で探そうぜ」
「……不確かなことだ、気にするな」
「なら片手間に少しづつ探すくらいで、私が探すならコルも探すだろうな、じゃあついでにエミイにも手伝わせるか、渡り月の共通目標だな」
「……何故そこまで?」
「何故って……何故?何故か……」
ラニは考える、変わらず魔術灯を暗闇に突き出し前を歩きながら。
「同じ事聞いたコルがそうするだろうから?あいつ仲間意識が強いんだよ、相棒がそうなら私もそうだ、仲間から悩みを聞いたら手伝うのが仲間って感じだろ?あってるよな」
「…………わかった、帰ったら相談してみよう……コルとは……本当に親しいんだな」
「……まあ、たった半年とはいえ毎日同じ飯食って危険な道通ってクソ寒い倉庫で寝て……あんなに命預ければ絆も生まれるだろ」
「ただ、ノヤリスに入ってからずっと別行動している気がする、今回だってできればあっちに行きたかった、エミイのことも信じてないわけじゃないが、少しだけ、不安だ」
「……ならば早く、終わらせよう」
「ああそうだな、早く帰って全員で飯食って、ブラボの相談して、そんでコルには二人の時間を作らせてやる」
ラニは意気揚々と肩を回しながら、狭い道が段々と広がっていくのを感じていた。




