こえがきこえる
コルとエミイは壁に埋まった遺跡のようなものに入って行った。
狭い入り口とは裏腹に中は広く、石造りの整備された地面が一本道で続いている。
「うーん、いかにも何かありそう、分担して正解だったかな」
「今更だけど、入り口を崩せば向こうの二人も入れたんじゃないの?」
「いやこういうのは下手に触ると崩れたりするからね、エミイはひっかかる物が無いからそれも丁度良かったよ」
一瞬、通路に足音と二人が身につけた鈴の小さな音だけが響く。
「……あ待ってなんか誤解――っあだっ!」
エミイのローキックが脛を直撃し、コルはそのまま崩れ落ちた。
「ラニの角やオリセの巨体という意味よね、知ってたわ、どこを見て、何と、誤解したと思ったか聞いてもいいかしら?」
「いたた……その、ごめんなさい」
エミイは舌打ちしながら、もはや松明としてしか機能していないカノヒ棒を拾い上げ、道の奥へと進んだ。
奥へと進むほど壁の模様や石の材質が変わっていくのが素人目にもわかる。
時折カノヒ棒の眩しい光から逃げるように、先程襲ってきたモグラの異獣と思われる生き物が小さな横穴へ消えていく。
しばらく進むと二人は一本道の終わりに辿り着いた。
道は直角に曲がっていたが、それは左右ではなく下、はしごもついてない四角い穴が真下へと続いていた。
「想像の斜め上ね」
「下だけど」
「ちょっと面白かったわ、じゃあ蹴り落とすわね、さようなら」
「ほんとごめんって、こんなこともあろうかとほら、登り降り用のロープ持ってきてるから」
コルは荷物から取り出した長いロープを取り出し、ロープの先端についた大きな杭をしっかりと地面に刺す。
すると杭の上についている部品から更にツメが展開し、ガッチリと固定した。
エミイが石を落として音で深さを確認する。
「そこまで深くないわ、先に行くから少し待ちなさい」
エミイに続いてコルも縄を掴み下へと向かう。
「なあその棒こういう時に深度を測る為に伸ばせるようにしたんだけど」
「だからずっと言ってるでしょう、いらないわその機能、それよりも時々上から砂が降ってくるのとても不快だわ」
「だから俺が先行こうとしたのに言う前に降りてったもんで」
「灯りを持ってるのだから私が前と思ったのよ、ああイライラする……」
ロープの結び目に引っ掛ける足に力が入り、少しだけロープが揺れる。
「落ち着け落ち着け、なるべく砂がかからないようにしてるから」
「ああもうその鈴もチリンチリンうるさいのよ!」
「いやそれはエミイが揺らすからだろ!……?いや、揺れてないのに鳴って」
二人が落ち着いて鈴を見るとコルの鈴だけでなくエミイの持つ金色の鈴も同様に、揺らしていないのに大きな音を立てていた。
「えっ、なにこれ」
コルが鈴を取り出して耳を傾けると鈴の中から声がした。
『……帰ったら……謝るしかないだろう』
『ビヒンってやつだもんな、怒られるよな……』
「ラニとオリセ?どうして二人の声が聞こえるの?」
『あ?今エミイの声が……聞こえたよな?』
『……ああ、自分にも聞こえた、自分達の鈴からだ』
「なるほど、これは……もしもしラニ、オリセ、聞こえる?」
『もしもしってなんだ、聞こえるぞ』
『……聞こえている、これは一体……』
「これはいわゆる通信機として使えるみたいだ、最新の高級品と同じ事がなんで鈴でできるのかわかんないけど……多分そっちからかかってきたんだけど通信が始まる前鈴に何かした?」
鈴の中からラニが口ごもる音が聞こえる。
『何か……それかはわかんないけどついてる紐持ってぐるぐる振り回してたぞ』
「振り回すって貴女ね……でどうしてそんなに言いづらそうなのかしら」
『いやそれが、振り回したせいか急に音が出なくなって、壊れたのかもしれん……』
『……いや、コル達の声が聞こえてから自分のも鳴らない、恐らく繋がっている時はそうなのだろう』
『!じゃあ壊してないんだな、良かった。』
「音を鳴らす……いや、振り回すのがきっかけ……?何にせよ使えればかなり便利だ」
『って鈴の話は置いといて、今そっちはどうなんだよ、大丈夫か?』
「問題はないわ、でもさすがにこの体勢でこのまま止まるのはきついからそろそろ進んでいいかしら」
コルとエミイは通信が始まってからずっとロープにしがみついたまま止まっていた。
手足が疲労を感じ始める。
「そうだな一回切るよ、ラニ、オリセ、多分だけどさっきみたいに振り回せば全員に通じる仕組みだと思うからいざという時はそうして、それじゃあ」
コルは切ると言ったもののどうやって?と少し悩んだ後、紐をしっかり握ってぐるぐると回して見る。
数回回したところでチリンチリンと音が鳴り、通信機から元の鈴へと戻った。
「私のも鳴るわ、一人がやめると全員戻るみたいね」
エミイが試しに少し鈴を揺らし、懐にしまってからまた降り始めた。
「個人通信とかできれば便利だったんだけど、まあ最先端の技術がこんな形で使えるだけでも凄いや、錬金術恐るべし」
「貴方も始めたら?錬金術、これより便利なものができると思うわよ」
暗い穴の先から機械じかけの松明ことカノヒ棒の光が揺れる。
「まあ少なからず魔術で回路を組むこともあるし似て異なる物なんだよなあ、錬金術じゃないにしても勉強にはなりそうだし、ノヤリスの錬金術にあったら話聞いてみようかな」
「嫌味のつもりだったのだけど、私にはこれもただの眩しい棒にしか見えないわ、ほんとに眩しい……少し出力を下げるわよ、ええとこれかしら」
エミイが取っ手の2つのつまみの片方を回す、しかし光が収まることはなく、代わりに棒が伸びる。
なぜならこれはカナリノビテヒカル棒なのだから。
「きゃっ……!」
突然想定と違う挙動で動いたそれに驚いてつい手を離す。
片手で持てる棒から短めの槍ほどの長さになった光源がまっすぐに穴の底に向かって落ちてゆき、あたり一面が真っ暗になる。
「そういえばどっちが明るさか説明してなかったね」
「ほんとにいらないわ!あの機能!」
「俺もさすがにそう思ってしまった、カノヒ棒が落ちた音からしてもうすぐ着くみたいだし、早く降りよう」
「言われなくても、暗いから気をつけなさい……あと落として悪かったわね」
「武器にできるように巨大異獣に体当たりされても折れないくらいには頑丈に作ったから大丈夫……のはず、でも光る機能は後付けだからそこだけ壊れる可能性が……」
「もしそうなら最悪だわ、というか灯りを一番最初につけなさいよ」




