木が揺れ歯車動く家
コルとラニを置いて 一足先に森の外
少し話は変わるが、ここはとある町。
自然と鉄の調和の取れた町、程よく田舎、程よく都会。
畑や果樹園がありつつも、時計塔や商店などには最新鋭のイプイプカンパニー製歯車を使った機工が組まれていて、発展の兆しを見せている。
ここはムラフの町、コルの生まれ育った町だ。
もちろん彼はここにはいない。
母の死を、通信装置を家に設置していない祖母に伝えるため隣町まで向かい、帰りの道で森に迷い込んでしまったのだ。
「はぁ……心配だ……」
そんな町のどかな朝、広い部屋をうろうろとする長い髭の男がいた。
座っては、立ち、棚を開け、閉める。
落ち着きのない男の名はゴムト、コルトリックの父親である。
「やはりあんな浮かない顔をしているときに一人で行かせたのがいけなかったか?いやしかし私は葬儀や仕事やでここを離れるわけには…そもそもお義母様の家にも通信装置を設置してあげるべきだったんだ、そうすれば妻に続き息子までも……うぅ……」
「旦那様、…コル君はきっと無事ですよお……落ち着いて、まずはお休みになってください、ただでさえ奥様を亡くされて心が疲れているのですから…」
使用人の老婆がゴムトの独り言を止める。
「すまないマリさん……」
(コルももう子供ではない……無事だといいが……心配はそれだけではない…マリさんの負担についてもだ……)
ゴムトは町の果樹園を管理する仕事をしていた。
コルが産まれる前、ルーンタグ家には使用人を雇うくらいには余裕があったのだが、ゴムトの妻でありコルの母、マユラ・ルーンタグが大の家事好きであっため、使用人から仕事を奪いベテランであったマリ以外帰してしまったのだ、マリは果樹園管理の仕事も手伝っていたため残ったが、あれから約20年。
マユラが病により急死し仕事が帰ってきたマリはすでに老体であった。
(マリさんはプロだ……辞めたいと言われるまで解雇はしたくない……もう一人使用人を雇うか、今は貯金も少ないし値段次第では亜人の奴隷も検討するかな……それで私と二人でマリさんに家事を習うんだ……)
窓の外を眺めると、家族で育ててきた果樹園がよく見える。
そこにはいくつもの思い出が詰まっていた。
(もう私に任せなさい!って全部持っていく陽気な美人はいないしな……はは……は……っ……)
その言葉をきっかけに感情が溢れ出し、ゴムトは声を出さずに大粒の涙を流した。
最愛の妻との思い出、そして最愛の息子への心配でぐしゃぐしゃになるまで泣いた。
「ああコル……帰ってきてくれ……」
その願いは少し後に叶うことになる。
しかし同時に運命も大きく動く。
長い月日をかけて噛み合った、最新鋭ではない親子の歯車は、少しのずれで崩れてしまうのだった。