丁度いい成果
「ぁー……腹減った腹減った、って私が最後か、一番最初に帰ってやろうと思ってたんだけどなぁ」
「おかえりラニ、残念ながら1番乗りはオリセ、2番がエミイで3番が俺……俺も1番狙ってたんだけどちょっと盛り上がっちゃってね」
部屋の奥でオリセが本を読んでいる。
「オリセ達は集中してなんか読んでんな、邪魔しないほうがいいか?」
それぞれ情報を集めた4人は晩御飯の前に一度、予定通り部屋に集まって結果発表を行うことにした。
狭い共有スペースの机に持ち寄った物を広げる。
「ふうん、私の書類とオリセの文献を照らし合わせれば、洞窟探索と危険への対策はスムーズにできそうね、こんな丁度いい本よく見つけたわね」
「……図書室の女の子が見つけてくれただけだ」
オリセは敢えてパーティー会場でエミイを見て倒れた少女、とは言わなかった。
「さて、情報はこれでいいのだけれど、コルとラニ、私は使えそうな道具を探しに行かせたわよね」
書類や文献の横に置かれていたのは、小さなポーチと灰色の棒と4つの鈴だった。
「……どうして小道具を作りに行かせたコルが棒で、武器庫に行かせたラニが鈴なのかしら?」
「いやその武器庫ってのが……」
「その棒なんだけど……」
コルとラニが同時に口を開き、軽く譲り合った後コルが話し始めた。
「コホン、ちゃんと洞窟便利道具はそのポーチに収まってる、魔術灯に小型ドリルに携帯食料まで!そしてその棒はただの棒じゃあないんだ、伸縮自在で洞窟内の広さに合わせて最適な長さに調整できるから腐らない!そして何よりすごく光るから伸ばして安全に深さを測ることも可能!……当初の洞窟内で使える武器って予定からはちょっとズレたけどそれでもこの刺突力は中々でじゃあなんで槍じゃないかと言うと――」
「話が長いわ、つまり今回の戦利品は?」
勢いが付き始めて棒の使い方を語り出すコルをエミイが止める、コルはしゅんとして答えた。
「目的地の洞窟便利道具は入手して、おまけに使えそうなかなり伸びて光る棒……カノヒ棒を作ってきました!」
落ち込みつつも棒に名前をつける、エミイは呆れてため息をついた。
「おまけのほうが力が入ってる気がするけれど……まあいいわ、それならこの鈴のほうが問題ね」
武器庫から取ってきたとは思えない小さな鈴をちりんと鳴らす、当然何も起こらない。
「んー見たところ機械製でもない本当に普通の鈴って感じ、武器庫に行ったんじゃなかったっけ」
「いやそれなんだけどな、武器庫ってのがちょっと違ったんだよ、みんな自分の武器があるからしまうもんなくて、今は錬金道具置き場になってるらしくてな」
「錬金……魔術で道具を作るみたいなやつだっけか」
オリセが頷く。
「……正確には物と物の性質をかけ合わせ一つの物にする工房魔術だ」
「錬金術師?ってやつがいつもいるらしいんだが、今日はいないからってたまたまいたシーモが『これとかいいんじゃないかい?』って言って渡してきたのがその鈴って訳、よくわかんねえけど四つ貰ったし一個づつ持ってればいいんじゃねえの?」
「そうだね、暗くても音があると安心できそうだし居場所の把握にも使える」
コルが鈴を全員に配る、小さな鈴をラニに、金色の鈴をエミイに、1番大きな音のなる鈴をオリセに渡し、最後に残った特徴のない鈴をポケットにしまった。
渡り月の4人は集めた情報と道具を頼りに、時間をかけて作戦会議をした。
全員にとって初めてのことで、不思議な高揚感を感じた。
コミニケーションが問題視されていたエミイとオリセも、この瞬間はこの空気を楽しんでいた。
それでもあたりの強い物言いの彼女と、寡黙で受動的な彼の性格は変わらなかったが、
大人気なくもどこか楽しみつつ、しかし真面目に話し合う。
作戦会議はラニの腹の虫が大声で鳴くまで続いた。
「そろそろ飯の時間だし、休憩しようぜ休憩、私腹減ってたんだ」
「じゃあ食堂行くか、俺ももう腹ペコだし、お肉とか食べたいなあ」
「いいなぁ肉!」
「残念、今日は魚よ、昼に献立表を見たわ」
「……残念だ」
翌朝、渡り月は森への入り口に立つ。
入り組んだ森の中で、距離もそう遠くないため、今回は馬車は使わず徒歩で向かうのだ。
「魔術灯よし……棒よし……一応銃ももった……ハンカチもある……」
「コル、お前それ昨晩から数えて5回目だそ、流石にもう大丈夫だろ」
「確認できたかしら、もう行くわよ」
そう言ったエミイは森に入っていかない。
「いかないのか?」
「……オリセ、貴方先に行きなさい、隊長命令よ」
「……わかった」
オリセが先に進み、それに続いて3人も森に入っていく。
この時すでにコルは察していたが、それはほんの数分で確信に変わる。
大きめの羽虫がブオンと音を立ててエミイの耳元をかすめる。
「っ……!」
驚いて避けると肩が木にぶつかり、枝に張り付いていた大きな虫が肩に落ちてくる、硬直するエミイの頭とほとんど同じサイズだった。
「お、久しぶりに見たな、その虫焼けば食えるぞ……エミイ?泣いてる?」
「やっぱ虫苦手だったんだな……普通の虫ならまだしもあのサイズじゃなあ」
「いいから、早くとりなさい、早く」
「別に噛んだりしねえのに」
ラニが近づいてきて、片手でつまんで持ち上げる。
直後エミイは膝から崩れて座り込んだ。
「……帰りたいわ……」
「早い早い!もうちょっと頑張ろう、虫は俺たちがなんとかするから、な?泣かないでほら」
「……今満腹だな、オリセこれ食うか?」
「……遠慮する」
必死で慰めるコルの後ろで、ラニは大きな虫を残念そうに逃がすのだった。
森の洞窟まで、あと2時間。




