事前準備 「迷」と「本」
ラニがあたりを見回しながら通路を歩く。
「ああこれは認めたくねえけど、迷ったな」
ノヤリスの拠点は小屋から始まり改築を続けたため、入り組んだ構造になっている。
「まあ夜までに部屋に戻れれば……いや情報なり何なり持って帰んないのも悪いな、しゃーない、一回この窓から飛び出て入り口からやり直すか」
枠に手をかけ窓を開こうとしたがレールが錆びていたせいか鈍い音を鳴らすだけで動かない。
「いっ……このっ!」
想定外の耳障りな音に驚きつい拳を振り上げた。
「だめだよ」
さらに想定外の声が聞こえ、声のする方へ振り返る。
しかしそこには誰もいない。
「あ?今確かに誰か……」
「だめだよラニねえ、まどわったらおこられちゃうしおててもけがしちゃう」
声の主は足元、小さな鼠耳の女の子だった。
「ミクノか、いや割ろうとしたわけじゃないんだ少し驚いただけで……ってそうだ、武器庫ってこっちであってるか?」
「ううん、もういっこしたのかい、もしかしてラニねえまいごなの?」
「う……まあそうだな、でも武器庫さえわかればひとまず大丈夫だ、ありがとうな」
ミクノの頭を軽く撫でて元の道へ歩き出す。
「かいだんそっちじゃないよ、こっちこっち、ついてきて」
「……ここは大人しく頼むぜ、先輩」
ラニは反対の道に進むミクノを信じてついていくことにした。
ラニとミクノは小話をしながら梯子を使う段差や「角の引っかかりに注意!」と書かれた低い天井の通路を越え、今は異常に寒い通路を通っていた。
「広いな……外から見たより広くないか?」
「えっとね、うしろのがけのなかにもあなをほってつなげておへやをつくって……んーなんだっけ……とにかくみんないっぱいがんばったの」
「もぐらみてえだ、さすが団員番号7番ともなると詳しいな、しかしにしては階段遠くねえか?こんだけ広いならもっと近くにあっても…ミクノ?」
ミクノが露骨に目を合わせようとしない、あまり表情の動かないミクノとは言え何かを隠しているのは明白だった。
「ミクノお前、遠回りしてないか?」
「……した」
「そんな顔すんなって、別に怒ってねえよ、なんで遠回りしたんだ?」
「……ラニねえとおしゃべりしたかったから……」
ラニは予想外に感じたが改めて相手を見て幼い子供であることを思い出し少し納得した。
「ついてもまだ話くらいできるぞ、私もノヤリスの話ももっと聞きたいしな」
「ぶきこはあぶないからいっちゃだめってだんちょーが」
「なるほどな、じゃ武器庫の用事の後で好きなだけ話すぞ」
「ほんと?」
嬉しそうな顔をしたミクノにラニが二シシと笑いかける。
「ほら、そうと決まれば連れてってくれよ、進むのと戻るのがどっちが早い?」
「もどるほうがはやい、でも……」
「でも?」
「……あっちのかいだん……くらくてこわいから……ちょっといや」
「よしわかった、進むぞ」
時を少し遡り、図書室。
ノヤリス拠点の一角にある図書室。
あまり広くはないが壁一面の本棚に書物が敷き詰められてなお数が足りず床に本が積まれている。
エミイに「参考資料でも探してくれば?」と言われたオリセはこの図書室に来た。
(……そうは言っても突如見つかった横穴の参考資料になりそうな物を……ここから見つけるのか……)
一番近くの本を手に取ってみる、タイトルは神霊に愛された英雄。
(……気になるが今は関係なさそうだ)
本の山を前にし途方に暮れる。
「……答えてくれブラボ……自分は……どうすればいいんだ……」
「へ……?」
本の山から声がする。
「ブラボ?そこにいるのか!ブラボ!」
「す、すいませんすいません人違いです」
オリセはここに来てから一番の大声を出しながら山の後ろを覗き込む。
そこにいたのは背中に青い翼のある少女だった。
「えっと新人さんですよね……人探しですか?」
「……すまない、なんでもないんだ、気にしないでほしい」
「いえ……それより気づかなくてすいません……」
「……いや、自分がここに入ってから声を出さなかったからだ」
「ボクも読書に夢中で……」
二人の問答はしばらくの間続いた。
「ああ自己紹介も遅れて……ボクはこの図書室の管理を任せれてるカロロと言います」
「自分は……オリセ、この付近に現れた横穴の情報を集めに来たのだが」
「なるほど、噂の横穴ですね……少しお待ちを」
カロロは特徴的な丸眼鏡を指で持ち上げ、青い翼で羽ばたいて棚の高所にある本を3冊取って帰ってきた。
「っと、調査のすすんでない場所ですので……確かではありませんけど恐らくこのあたりでしょうか、特にこの『穴を掘る生命』は万が一の対策になると思います」
「……感謝する、それと……これも読んでいいだろうか」
オリセが取り出したのは一番はじめに目についた『神々に愛された英雄』。
「ここの本はノヤリス全体の財産なので、気になった本を好きに読んでいいんですよ、皆さんあまりここに来ませんけど……」
「……」
「ってすいませんつい無駄話を……他には何かありますか?」
「……いや、また来る」
そう言ってオリセは3冊の本を持って図書室を後にし、自室へと足を進めた。
「優しい目をした人だったなあ……オリセさんの探し人が見つかりますように」




