ワタリヅキ
「納得いかない……納得いかないわ」
テーブルから料理が無くなりパーティーが幕を閉じ、ロナザメトから自室を与えられたエミイは不満の表情を浮かべていた。
「まだ言ってんのかよ」
「ラニ、貴方はまだいいわよ、一人一部屋の余裕はないから相部屋になるのは納得できる……問題はカーテンの向こうよ!」
部屋は内部をカーテンで3つに区切り、共有スペース、スペース1、スペース2というようになっていた。
境目になっている厚い布の奥から声が聞こえる。
「そろそろ寝なよ、明日朝から集合って言われてるんだからさあ、見えないと思うけどオリセはもうぐっすりだよ」
「布一枚隔てただけで男性と同じ部屋で寝るなんて無理に決まってるわ!ああもうどうしてこんな……!」
『ラニさんとエミイさんの部屋はバカ……失礼、元気が有り余った発明娘が吹き飛ばしました、他の空き部屋はカミクイクロ虫が出たと報告が上がってますが……』
「ってロナザメトが言ったからな、ほらハゲるよかマシだろ」
「俺とラニはここに来るまで何回も野営したしな」
「そういうこと、道理でやけに動じないと思ったわ……向こうのスペースに行ってもいいのよ?」
「いやいや3対1なのも変でしょ、それよりほんとにそろそろ寝ておきなよ、覗いたりしないから」
「おう、おやすみ」
ラニは布団に潜るとすぐに寝息を立て始めた。
エミイは信じられないという顔をした後小声で悪態をつく。
「何度も言うように信用できないわ、それに夜のほうが活動的なの、私一応蝙蝠の亜人だから、貴方こそとっとと寝なさい」
「俺も寝たいんだけど……あっそうだ、まだ起きとくんだったらこれ代わりに頼める?」
カーテンの下の薄い隙間から一枚の紙が滑り込んできた。
「……これは?」
「パーティー中にシーモってやつに渡されたんだ、明日までに俺達4人の部隊名を考えろってさ、考えたけど俺センス無いし眠くて頭回らないから……」
「はぁ……こんなの適当でいいじゃない」
「シーモ曰く『名前で役割がわかるようにしてほしい』って、それに折角だしかっこいい感じがいいじゃん、勝手なイメージだけどエミイはこういうの得意そうだし後よろしく……」
すぐに寝息が始まる、薄暗い部屋でエミイだけが目を開けていた。
「はぁ……私のセンスでやってしまうわよ、貴方もそれでいいわよね、オリセ」
「……それでいい……何故起きていると分かった?」
「別に、全員寝付くまで起きておくつもりだったのかもしれないけど、私がいる以上諦めたほうがいいわね」
「……」
(さて、私達の名前ね、心底どうでもいいわ、こういうときは目についた物から……)
エミイが書類から顔をあげると窓の外を月明かりが照らしていた。
仕切りのカーテンで窓が半分になっているため見えづらいが綺麗な月だった。
(月、私達の役割は調査や遊撃や他部隊への派遣と言っていたわね)
エミイは書類に筆を走らせる、謎の緊張で少し指が震えたものの綺麗な字で書きとどめ、誰も起こさない様に小声で呟いた。
「私のセンスよ、悪く思わないことね」
新生部隊名 『渡り月』
団員番号47、48、49、50の4人で構成された小隊であり―――。
短いので おまけがあります




