パーティー!
廊下を少し歩く、一歩進むほどに香ばしい匂いと楽しげな声が近づいてくる。
食堂に辿り着いた時、すでにパーティーは始まっていた。
どこを見ても亜人が笑って飲み食いしているその光景はまさにノヤリスの求める景色だろう。
「吾輩が来てなかったというのに始まっておる!またチャシか、チャシだろうせっかち酒飲みめ!ええい吾輩も食べたいのだぞ……!」
慌てて大きな肉に向かって行ったバハメロを見てロナザメトがため息をつく。
「はぁ……新入団員を置いていっては意味がないでしょうに……皆さんこちらへ」
コル達4人が案内されるまま用意された台に立つと、ロナザメトが棒状の機械を口に近づけて話し始める。
それは音を部屋中に拡大する装置だった。
「はい皆さん、食べながらでいいので注目してください、今回は一応彼らの加入祝い兼団員50人記念なので、彼らの紹介をさせて貰います、簡単に名前だけ、右からコルラニエミイオリセです、以上」
「雑じゃない!?」
「これ以上のことが気になるなら本人にどうぞ、折角の無礼講なので」
コルが思わずツッコミを入れているとざわめく亜人達の中から声が聞こえた。
「4人はどこの部隊に配属部署っすかー?」
「いい質問ですね、彼らには新部隊を結成してもらうのでどこにも配属しません……何を意外そうな顔してるんですか?」
「い、いえなんでもないっす」
「最低限の紹介はしましたので、後ほど掲示板に詳細を貼りますが新部隊についての質問は私に、新人への質問は本人にどうぞ、では」
ロナザメトの紹介(?)が終わった後、エミイとオリセはご馳走を取りにパーティーの中に入っていった。
質問があれば本人に、とのことだったが近寄りがたい雰囲気のエミイと気配を消すオリセに何かを聞きに行こうと接触する団員はいなかった。
「うめえなこれ……んぐ、しかし私らのとこにも来ねえな質問」
「俺のことが気になってる人はいそうだけど『純人に見えるけどもし本当にそうだったら酒が不味くなるから今はほっとこう』って感じじゃないか?これを読んでのフライングスタートだったりするのかね」
「誰か喧嘩売ってきたら私がなんとかするぞ」
「喧嘩は売ってないけど美味しいお肉ならあるっすよ」
ラニが振り向くと大きな皿を抱えた鼠の亜人が笑っていた。
「その角、ラニさんっすね、話には聞いてるっす、ナノンと言います、シウーの丸焼きをどうぞっす」
「お、ありがと、お前がコルと任務に出たっていうナノンか」
「はいっす、コル君とコル君の作った子にはお世話になって……ってそうだコル君!新部隊ってどういうことっすか!?鋼花に来るんじゃなかったんすか!?」
ナノンがコルの肩を掴んで揺さぶる。
「なのねえ、おちついて」
「あれ、その子もしかして妹の……」
ナノンの後ろにナノンそっくりな少女が隠れていた。
「はい!そうっす、ほらミクノちゃん自己紹介」
「うん、みくの・みゅーつ、10さい、です」
「よしよしよし偉いっすねえ!いい子いい子〜〜!」
ナノンがミクノを抱きしめ頭を撫でる。
「聞いてた以上に勢いのあるやつだな……」
撫でられ終えたミクノがコルに向かって手招きをし、コルにしゃがんで耳を貸すように誘導した。
「おにいさん、あじんじゃないひと……?」
コルもそれに答えて内緒話の形で囁く。
「そうだよ」
交代で耳と口の位置を入れ替えて話す。
「みくのはね、おとなのひとがいう『てき』とか『みかた』とか、よくわからないけどだんちょーやなのねえがこわいかおしてないから、おにいさんは『みかた』だってわかってるよ」
「はは、ありがとうね」
「みくのは、せんぱい?だからなにかあったらおしえてあげるね」
コルもミクノの頭を軽く撫でて立ち上がる。
「何ひそひそやってたんだ?」
「ちょっとね、ラニこそナノンと何喋ってたんだ?」
「こないだの任務の話っす、よほど心配だったんすねー」
「まあ杞憂だったけどな、やるじゃねえの」
「ほとんど何もしてないよ、いやほんとに、悔しいまでに……ぐう……」
「あはは、それじゃあ私達はそろそろ、ロナザメトさんからコルくんが開いてる時開発を手伝ってもらっていいって聞いたので、暇なとき工房に来てほしいっす、それではー」
「おぼえたよ、こるにい、らにねえ、またね」
「お名前覚えれて偉いっすねぇーよしよしよし……」
「妹大好きとは聞いてたが、すごいな」
「道中の妹自慢はずっとあのテンションだったよ、機構を組むのはまだ慣れてないみたいだけど、ものによってはナノンより操作が上手いらしい、すごいよな」
「詳しいな」
「沢山聞いたからね」
一方その頃、部屋の隅で静かに野菜料理を味わうオリセの元にエミイが寄ってきた。
「大きな体の割に随分と少食ね」
「……ああ」
「?何か言いたいことがあるって顔じゃない」
「……赤酒じゃないんだな……と」
「なっ、私がレンジジュースだとおかしい訳?言っておくけど私は血もお酒も飲まないわよ!」
「……すまない」
「全く……」
賑やかな食堂の済に静かな空間が出来上がる。
「なにか喋ったら?」
「……自分は話が得意じゃない、エミイも、そうだと思っていたが……そういう気分なのか?」
「ええそうね、こんなに賑やかななのに一人で食事するのももったいないわよ、そんな中で数少ない知り合いから孤立してた貴方に声をかけてあげただけ」
「……つまり寂しかったということか」
エミイがオリセの肩を小突く。
「あっちの二人じゃなくて貴方を選んだのは、余計なことを言わないだけマシだと思ったからでもあるのよ?」
「……すまない」
「おうおう痴話喧嘩か?それともいじめか〜?どちらも良くない、良くないなあ、っく」
「はぁ、そういうのじゃ……っ!」
後ろから話に割り込んできた酔っ払いをあしらおうとエミイが振り返るも、視界に飛び込んできた筋骨隆々の大男の出す圧に言葉が詰まる。
さらにただ大きいだけでなく頭が鳥そのものだったのだ。
「おいおい何見惚れてんだ……ってああ違うな!ガハハすまんすまん、驚かせてしまった、見ての通り『濃いめ』での、ほら」
唖然とするエミイとオリセを放置し大男はポーズを取る。
「鳥系の翼って背中にあるだろ?だがワシはここ!腕の代わりに大きな翼!まあ鍛えすぎたせいで重くて飛べねえけど!っつって!ワシが剛翼のチャシ様だ!ガハハハハハハハ!!グウ!」
笑い終えるとチャシと名乗った大男は突然派手に倒れていびきをかきはじめた。
相当酔っていたようだ。
倒れたチャシの元に青髪の少女が小走りで近寄ってきた。
チャシと同じで彼女も鳥系だったが、本来の鳥系の形である、背中に翼の生えた亜人だった。
「あっいたチャシさん、駄目ですよこんなところで寝た……ひっ……!」
「はぁ、よくわからないけど貴女、その大男連れて行ってくれる?」
エミイが少女に押し付けようとすると少女は震え始めた。
「あ、あう、ううん……」
そして目を回して倒れた。
「ちょっ……ええ!?」
エミイが困り果てているといつの間にかオリセがロナザメトを連れてきていた。
「あーチャシさんはいつものことですが、何故カロロさんまで倒れているのですか?」
「……わからない、エミイが声をかけた途端……」
「ああ、彼女は怖がりですから、エミイさんと目を合わせたのならそれはこうなります、ああいえエミイさんが悪いと言うわけではなく……」
「もういいから早く医務室にでも寝室でも連れてってあげなさい」
「それもそうですね、それでは引き続きごゆっくり」
ロナザメトはカロロを肩に抱えチャシを引きずりながら食堂を後にした。
「オリセ、貴方自主的に行動できたの?てっきり言われた事しかできないと思ってたわ」
「……初めての事かもな……」
「フフ、冗談のセンスまで独特ね」




