4人
バハメロが見知らぬ二人に事情を説明している間、コルはラニとの再会を果たした。
「ええと色々聞きたいけど、とりあえずただいま、ラニ」
「おかえり、お前ちょっと見ないうちに逞しくなったか?」
「それはこっちの台詞だよ、本当にがっつり鍛えられたんだなって……見た目は変わってないけど」
ラニはバハメロの特訓で心身共に研ぎ澄まされていたがそれとは別に変わっている所があった。
「そうそう服借りてたろ?組手でビリビリになってな、悪いなーと思いつつまたこれ借りたぞ」
ラニはコルの家で服を借りた日からずっとコルの服を使っていた。
今回はラニが一番気に入ってる赤い服だった。
「あ、見たことあるなあと思ってたけどやっぱり俺のなのね、まあラニが持ってく服俺に似合わなかったやつだから有効活用してくれて嬉しいよ、かっこよくて似合ってる」
「初めてみた時から男物を着ているなと思っていたが、そういう事だったのだな、ふむ、サイズもぴったりである」
バハメロが話に入ってくる。
見知らぬ二人に話をし終えたようだ。
「それでは彼らと自己紹介をして親睦を深めておいてもらおう!では吾輩はやることがある故!」
そういうとバハメロは尻尾を上機嫌に揺らし部屋から出ていった。
誰から始めるか牽制しあうような、気まずい沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのはラニだった。
「じゃあ私から自己紹介、私はラニ、角はあるけど悪魔系ではないし龍系でもなくて……私もこれはよくわからん、得意なのは近接格闘、苦手なのは強いて言うなら頭使う事とか?」
一瞬の静寂の後、ハッと気づいたコルが小さく拍手をした。
拍手は続かなかった。
「……私のは終わりだぞ、次は……」
ラニが前に座っている金髪の女に目線を向ける。
女は鋭い目つきで睨み返したがため息をしてから口を開いた。
「チッ……エミイ・アロン・アバロム、19歳、一応コウモリ系」
「一応?」
睨みつける視線がコルに突き刺さる。
「黙りなさい、できることは魔術がちょっと、これ以上言うことはないわ、次貴方いきなさい」
金の髪の女から白の髪の男にバトンが渡される。
「……自分の名は、オリセ……」
「……」
「……あ?終わりか?」
「まだ必要か……?」
「えっとほら、年齢とか得意分野とか今後のために聞いときたいなーって」
男は少し考えた後ゆっくりと声をだした。
「……18歳、得意分野は……なんだろうか、短剣の扱いには自信がある」
「……」
「はぁ、独特なテンポで話すのね、聞きづらいったらないわ」
「……すまない、俺の……悪い癖だ」
「次、コルの番だな」
「ああ、コホン……では――」
3人の自己紹介を聞きながら考えていたコルの言葉は、喉から上に送り出されることはなかった。
「純人のコルトリックでしょう、さっきバハメロから聞いたわ、今のうちに行っておくけど、私はあなたと同じ部隊になる事に納得してないわ」
「そう言うな、こいつはいいやつだぞ」
「ラニとオリセだったかしら?あなた達もよ」
エミイは基本的に人を信用しない。
彼女の鋭い眼が部屋の空気を重く冷たくし、部屋の外から人の話す声や鳥のさえずりが聞こえるほどに静まり返る。
「……はぁ、でも私闘で除名されでもすると困るの、足を引っ張るなとは言わないけど、私の目的の邪魔だけはしないで」
「その目的ってのは教えてくれるのかよ?」
少し困り気味にラニが問いかける。
「答えに想像がついてる聞き方ね、もちろん答える必要はないわ」
「一応言っておいてくれれば俺達も手伝える事もあるかもしれないけど?」
「貴方よくそんなこと言えるわね……」
「まあ言いたくないならこれ以上は聞かない、これから一緒に行動することになるんだしその気になったらまたその時で、それでいいだろ?」
「……自分はそれでもいい」
「後ろから刺される心配があるのはコルなんだぞ……?」
「その時はその時だよ、とりあえず信じるとこからね、さて自己紹介も終ったしバハメロが戻ってくるまで何しようか……」
今日何度目かの静寂。
「……私この空気のまま待つの嫌だぞ?」
「むう、ならばここまでにしよう!」
扉が勢いよく開き、そこにはバハメロとロナザメトが立っていた。
「バハメロ!?やることがあるって」
「うむ!実はある手伝いに行ったのだが、人手は足りてるからいらないとどこに行ってもやることが無くてな、途中からここで聞き耳を立てていた!」
「僕はつい先程から、つまみ食いがバレて厨房を追い出された団長が次は扉に張り付いていたので何事かと」
「うむ……つまみ食いは初の試みだったがやはり悪事を働いたようで味がしなかった……いや!その話は後にしよう!今は彼らを連れていかなければ!そうであろう?」
そう言ってバハメロはコル達にきらびやかな物を渡した。
渡されたそれをコル以外は不思議そうに見つめる。
「なんだこれ、コル、わかるか?」
「何ってパーティー帽とクラッカー?廃材で作ったんだろうけどかなり綺麗な出来だ」
「うむ!では食堂に行くぞ!団員50人記念に軽くパーティーをやるのだ!」
「パー……何?」
「聞いたことがあるわ、たしか豪華な食事会よね?」
「要するに今日の夜ご飯は美味しいものが沢山!である!」
「……!」
目を輝かせるラニ、どこか複雑そうな表情ながらも期待に胸を膨らませるエミイ、無表情だが足取りの軽いオリセ、三者三様にパーティーを楽しみに食堂へ向かう中、コルだけがパーティーを体験したことのなかった彼らの心象を悟り、少し泣いた。




