舞台の名は『レマン』
今から三世代以上前の事。
大陸には国が乱立し、領土や主張を巡った戦争が多発した。
そしてある王は重圧的な交渉により大陸北東を、ある王は武力により西の全てを、そしてある王都は陰から掻っ攫うように南東を、それぞれがそれぞれの策と手段を用いて大国を手に入れた。
世代により関係性は変化していたが、絶妙なバランスを維持してきた三国はそれ以降これまで戦争らしい戦争は行われていない。
それでもなおこの国、レマンの城は堅牢な要塞であり続けた。
千日を越える籠城戦を耐え抜いた城、地獄の門から現れる魔物と人類との決戦にて最前線となった城、神代の遺物によって作られた城。
様々な伝説と言い伝え、そしてそれに劣らない、『壊れずの城』という歴史上の事実。
日が落ち、城のいたる所にぽつぽつと点在する魔術灯が怪しくひかる頃。
イーリス率いる一同は、使用人の出迎え荘厳な門を潜っても、まだ馬車を降ろされずに飾り気のない無骨な進路を進み続けた。
敵の進行を阻むいくつかの城壁を超えてその先の中央城に向かう間、ロナザメトはその戦いに特化した機能的な構造に息を飲み、招待された身で通れることに安堵していた。
ようやく馬車を降りた一同はイーリスを先頭に、多くのレマンの使用人に迎えられながら、ついに会場に辿り着く。
「……あれは……」
「イーリス様だ……隣国王女の……」
会場では既にパーティーが始まっており、レマンの重役と思わしき者達が歓談したりイーリスや団員達を見てひそひそと何かを話している。
「では、ここからは各自自由行動という事にいたしましょうか。私は挨拶に……」
と、イーリスがリラーテを連れてレマンの重役達と社交的な会話をしに行った事で、団員達はある程度固まりつつ自由行動する事になった。
最初は空気感に気圧され、緊張していたラニ、ナノン、ミクノは、好きに食べていい立食用のご馳走を前には目を輝かせた。
「すっげ……これ……すっげー……」
「ラニねえ、まなー、だよ」
「っ……と、そうだそうだ。お上品に行かねーとな。せっかく制服なんだし」
「そういえば、ラニさんはズボンですけど、私とミクノちゃんスカートには尻尾通す穴があったんす。ロナザメトさんやオリセさんにも尻尾のサイズにあった構造体だったんす。いやー、職人さんには感謝っすね。せっかくかっこいい制服なのに、今までみたいに自分で切れ込み入れなくて済む……って」
「んむ?」
ナノンが自分の制服の裾を見ている間に、ラニとミクノはそっちのけで食事を始めていた。
「ラニねえ、これ、おいしいよ。すっごく、すっごくね」
ミクノはその小さな一口で味わったものを、精一杯表現しようとしている。
その表情だけで、ミクノをここに連れてきた甲斐があったものだと、団員達は思った。
そして最も彼女に近いナノンは、それを人一倍強く感じ、心に刻む。
「……ふふ、まあそうっすね、帰ってからでもできる話より、そっちを優先しましょう!」
ラニとは周りから見られていると気づきながらも、それは亜人であるこの場では避けられない事だと理解しつつ、せめてマナーには気をつけて食べることを心掛けた。
行きの馬車内でまでエミイに聞いて覚えたやり方は、ぎこちないながらも最低限モノにできていた。
(私のせいで事を荒らげられたら大変だ……でも……うう、一口が小さい……っ!でもせっかくの制服も汚したくないし……う、うううっ……!)
(ラニ……明らかに物足りなさそうだ。)
少し離れた位置からラニを見守るコルは、彼女の心が読めるかのように心境を理解していた。
(別に普段の食べ方もきたない訳じゃないけど、いつもみたいにがっつくのは流石にここではね……俺は大丈夫かな……下手な事したくないし、っていうか緊張していたで味わかるか怪しいし、大人しく飲み物だけ貰っとこう……)




