いざ征かん遥かなるその場所へ
声が聞こえている。
海の向こうから訪れた1000を超える見知らぬ国の兵達を単騎で迎え撃ち、剣一本で返り討ちにしたレマン先代国王の声が。
三つ首の獅子を殺したさらに先代国王が、地を這う大蛇を殴り殺したそのさらに先代の国王が、その前の王が、その更に前の王が。
輝かしい力の功績を持つ国王達の影が、当世の若き王に囁きかける。
『お前はこれから何をするんだ?』と。
当然、それは夢である。
若き王、スーラ・ディー・レマンは、いつもその夢を見てから、日の登りきっていない朝早くに目を覚ます。
「失礼します、陛下。魔人会のアバロム様からお話があると仰せつかりました」
「……ふぅ、今日はイーリスや例の亜人共が城に来る日故に余計な接触はするなと、その老人に伝えてあるはずだが……?」
夢のせいもあり、スーラは寝起きの瞬間は特に機嫌が悪い。
それでも、そんな雰囲気に慣れていると言わんばかりに、使用人は言葉を続けた。
「陛下がそう仰られたら、だからこそだと返せ、とも」
「……老害め。我は介護をする為に手を組んだのではないぞ……」
使用人の用意した水を飲み、のどを潤す。
「……だが、いよいよだ。今夜……今夜全てが……クク……」
ほぼ同時刻。
コル達を載せた遠征用の大型馬車は、レマン領土中央の王都に向かって進んでいた。
「もうじきだ。今夜日が落ちる頃に目的地に到着予定、とのことである」
「っ〜!もうすぐかぁ……!」
ラニは車内で背伸びをする。
内部はちょっとした部屋のような作りをしており、それを引ける程鍛えられた専用の馬がついている。
充分なスペースがあり、両手を広げることも寝ることも、道中カードゲームをして時間を潰すこともできたが、立って背伸びができるのは今は退屈で昼寝をしているミクノくらいなものだろう。
「っ……ぁーっ……腰がなまるぜ」
「最後の休憩からは結構たったからね。ついたら思い切り体を伸ばそう」
「だな。……お、城ってあれじゃねえ?」
コルは窓の外のラニの指差す方向を見る。
黒い山のように見えるそれは、レマンの誇る無敵の城壁。
人工物でありながら山と見まごうほど巨大なそれは、どの世代で作られた物かは定かでないという。
それにも関わらず、長い歴史戦火に晒され続ける中で立て直しが行われた事は一度もない、その鉄壁の守りこそが、レマンがかつて戦の国として発展した理由の一つであろう。
「凄いな、この距離であの大きさか」
「にしてもよー、ここまで4日だろ?今更だがロッサ号でくればもっと早かったんじゃねーの?」
「あ、もう興味無くしてる……」
コルが城壁の作りに興味を示している間に、窓から離れていたラニはテーブルの前のソファーでバハメロと話をしていた。
「ロッサ号は皆の家。全員で飛んでいく訳にも行かない以上、今回は使えないのである。……それに……」
「それに?」
「……いや、何でもないのである。気にするな。まあ考えあっての事である」
「ふーん……?」
(……ラニも気づいてるみたいだけど、なんか団長、ずっと気を張ってるなあ……無理もないか。これからまた大きな正念場。ノヤリスにとって一つの『ゴール』が近いんだ。)
コルは窓のカーテンを閉めて、テーブルに向かう。
「団長」
「む……?」
「絶対上手くいく!でしょう?」
「……うむ、であるな」
コルなりの励ましに、バハメロは緊張を少しだけ説いた。
そして、同じ空間にいる7人の団員達に、改めて宣言する。
「いいか皆のもの!これより我々はかの国レマンにて、その国の王と話をする機会を手に入れた!この大陸、最後の国である!正直言って怪しいところも多々あるが、慢心することなく、されど我々の持つ自由な強さを忘れることなく、適切に当たれば問題ない!それは吾輩が保証する!」
全員の視線がバハメロに集まったあと、それぞれの反応を示しながらも、何を言うでもなくそれぞれがやっていた事に戻っていった。
しかし間違いなく、意志は一つに固まっている。
パーティー会場到着まで、およそ半日。




