団員番号50
馬車の中でパンを食べ、程よく腹が満たされた頃に丁度馬車が止まる。
「拠点に到着ですわ、お二人とも足元お気をつけて」
「行きが嘘みたいに快適だった……」
「んー!よく寝たっす、リンさんの膝枕はやっぱりよく眠れるっすねえ」
「で、そのリンは何処に行ったのであるか」
馬車を降りて背伸びをするナノンの元にバハメロが歩いてきた。
「馬車の中でぐっすりっす、全然起きないからぎりぎりまで乗せてくってナッチーちゃんが」
「リンはただでさえ早起きなのに昨日は張り切ってさらに早起きだったからな!二人もよく帰った!まずはご苦労であった!」
「これが例の物資なんだけど、どこに持っていけば?」
「あ、それはこのまま私が工房に持っていくっす、コル君は色々やることあるんじゃないっすか?」
「うむ!書類とか紹介とか色々な!では早速ついて来るのだ!善は急ぐべし!」
「それじゃあ私はここで、まあ多分すぐ会うっすよ、ではまたーっす」
コルは資材を詰め込んだ鞄を背負って大きく手を振るナノンに小さく手を振り返してバハメロの後を追いかけた。
朝日の差し込む廊下を歩き、団長室へ向かう。
窓の外からは猛烈な早さで走り回る子供や木陰で昼寝をする大男の姿が見え、扉の隙間からは大量に積み上げられた本とそれを読む少女。
初めて来た時も通った道だがその時は乗り物酔いでぐったりだった為、気づかなかったノヤリスの平和な日常が垣間見える。
道中資料室からシーモが顔を出してニヤニヤしながら見つめてきたが話しかけてはこなかった。
「今のうちに改めて説明しておこう、我々は亜人が純人と対等に生活できる世界にするため、まずは亜人狩りに囚われた亜人の解放を主な活動とする組織である、一見関係なく見える任務も全てはここに通じるのだ!何か質問は?」
バハメロは前を進んでいるため顔が見えないが尻尾の揺れから質問されたがっているのがなんとなく分かる。
「えっと、気になることは結構ナノンに聞いたけど・・・じゃあその関係なく見える任務ってのは戦闘以外ってこと?」
「亜人狩りの偵察から拠点周りに現れる野生生物の間引きや先日のような物資回収!基本的に部隊によって決められた分野の任務を果たして貰うのだが、ああこの話もしないといけないな!」
団長室と書かれた手作り感満載の看板がかかった部屋にたどり着く。
「まあ入りたまえ!座っていいぞ、折角だお茶もいれよう」
「あじゃあありがたく、それで部隊っていうのは?」
バハメロが紅茶を置いて向かい側に座る。
「ノヤリスの団員はいずれかの部隊に所属してもらう、部隊というのはまあ文字通りである!ラッシー達の所属する移動部隊”送り猫”やナノンやその妹のミクノのいる技術部隊”鋼花”、ほかにもいくつかあるが新入団員はどこかに所属してもらう、本来なら報告された適正から見て鋼花だったであろうが、今回は少し違うのだ」
「俺も聞いててナノンと同じとこかと思ってたけど、ラニがゴネでもした……?」
バハメロは勢いよく立ち上がり宣言する、カップが大きく揺れ紅茶が少し零れるのが見えた。
「率直に言ってずばり!『新部隊』の結成である!」
「し、新部隊?」
「うむ!探索や調査を主に戦闘では遊撃が基本としいざというときは他部隊のカバーにも回れる!というのを表向きに、コルをあちこちに少しずつ馴染ませる役目もある自由度の高い臨機応変な部隊を作る!団員数4人!名称未定!」
コルは炎のように激しい勢いに押されつつも手を上げた。
「質問、4人って俺とラニを合わせてってことだよな、あとの2人は……いわゆる先輩がほかのとこから移動してくる形に?」
「否!この部隊は完全に新しいからこそ意味を成す!あとの2人も昨日加入した、同期ということになる!顔合わせをしたいがその前にこれだ!」
机に置かれた書類にはすでにバハメロのサインが書かれてあった。
「形式上の書類だ、吾輩はもはや何も問わぬ、今更怖気づく男ではないであろう、だが一応、吾輩は団員の命と尊厳を何よりも大切にする、例え純人であっても扱いは同じこと、それはこのノヤリス団長バハメロ・フラオリムの名にに誓おう!」
コルはラニと出会ってから幾度と固めてきた意思を改めて固め直し、人生で一番丁寧に名前を書いた。
「俺も誓うよ、どんな形でもこの戦いに必ず貢献するって」
「確かに受け取った!コルトリック・ルーンタグ!お前を今からノヤリスの団員と認める!団員番号は50!そう!記念すべき50人目の団員である!では次はいよいよラニとの再会とこれから行動を共にする部隊メンバーとの顔合わせだな!ついて来い!」
バハメロは常に前を歩く、歩き方から貫録を感じさせつつも尻尾と翼が上機嫌であることを明らかにしているため、表情が見えずとも堂々とした笑顔であることを後ろ姿が語る。
「4人まとめて他の団員に紹介するつもりであるからな!まずは部隊として形を作って貰う!部隊名も話し合って決めてもらおう!」
「ラニは知ってるけど、あとの2人ってどんな人?」
「うむ、2人はコル達と我々が出会ったあそこに捕らえられていた亜人である、金髪のコウモリの亜人と白髪の狐の亜人、まだ話して日が浅い故全てを理解はしきれていないが、どちらも独自の強さをもつ者である……多少コミュニケーションが課題かもしれないが、そこも個性として認めて行きたいところである」
「これから一緒に行動する訳だからうまくやらないとな、それにラニとこんなに離れたのは何気に初めてだからそっちもぎくしゃくしないようにしないと……」
「その点は心配ないであろう、だがしかし!以前のラニと同じと思っていてはこの後腰をぬかすことになるであろう!何故ならこの吾輩と血沸き肉踊る組み手を何度も交わしたのだからな!フフフ、簡潔に言って、『とても強く』なっている!さあここだ、いざ再会とご対面!」
大きな扉が力いっぱい開かれる、部屋には物が少なく机に向かって4つの椅子が並んでいた。
そこにいたのは椅子に足を組んで座る目つきの悪い金髪の女、部屋の済で立ち尽くし何処かを見つめる白髪の男、そして見た目に大きな変化はないものの一目で以前より筋肉の質と放つ覇気が研ぎ澄まされた事がわかる赤い髪と角の相棒だった。




