閑話 仕立て屋は考える
ミスタルのとある街。
そこには界隈で知らぬもののいない腕利きの仕立て屋である、マイヤという壮年の女がいた。
マイヤはイーリスのドレス制作を依頼されるほどの実力者であり、生まれ持った才能か服飾制作において躓いたことは一度も無かった。
しかし、その初めての躓きがこの日訪れる。
「国が亜人の専属チームを抱えるみたいな話は聞いてたけど、まさかうちに制服の依頼が来るとはね〜。納期は短めとはいえ、データもしっかりしてるし数もこれくらいなら……よし、いいでしょう!私がとびきり素敵な物を作ってあげようじゃない!」
『専属組織の制服』の依頼、それだけなら特に難しい事もない。
デザインや機能面に指示がある物があるというのも何ら珍しい事ではない。
しかしマイヤは、脳内で描いた設計図に基づき、上質な布に針を通し始めた時、根本的な問題に気がつく。
体格の詳細なデータに、見慣れない項目がある事に気がついたからだ。
「この角って項目……亜人だから、角ってあの角よね?……ならこれだと脱げないじゃない。なら引っかからない構造にして……翼!?ええ……じゃあこの人のは背中をガバっとあけて……いや違う、式典やパーティーで使うんでしょ?ドレスならともかく……尻尾ぉ!?しかも太い!……いや、この人は女性よね?尻尾とはいえ太いは失礼なのかしら」
マイヤはブツブツと独り言を呟きながら、一度針を針山に戻した。
その後、テーブルいっぱいに資料を広げ、構造を1から考え直す。
マイヤの仕立て屋人生において前例のない亜人の制服作成は、初の困難であり初の難題だったが、改めて読み込む程、その人となりがわかるようで楽しくもあった。
「こっちの子はスカートじゃなくてズボンにしてほしいと……でこっちは装飾の追加依頼……お洒落な子なのね。それに特徴的な部位はないみたい。全員に角や尻尾がある訳ではないのね。」
共通のデザインがまとまり、二着完成した頃にはすっかり深夜になっていた。
食事の時間も惜しみつつ、最低限の睡眠を取り、翌日も早朝から作業を再開する。
「次は背中に収納……この子は尻尾がタイプ、翼が無いならとくに難しい事では無いわね。でこっちは……子供用?こんな小さい子まで戦ってるの?……正気?」
マイヤの脳内ではインスピレーションがわき続けていた。
手元にある情報をかき集めて唸りながら、考えれば考えるほど美しく機能的な物が出来上がっていく。
素材も出し惜しみ無く、彼らがどう扱っても耐えられるように、動きやすく丈夫な物を使用。
予算を少しばかり越える分は自分の懐から補った。
それほどまでに、マイヤに取って新鮮でやりがいのある仕事だった。
そして完成した8着の制服を並べて見たマイヤは、静かに涙を流した。
涙の理由はわからない。
達成感か、それとも満足感なのかもしれない。
仕立て屋のマイヤ。
彼女は後に他の団員達の制服も作ることになり、その度に個性豊かな翼や尻尾に悩まされる事になるも、その度に完璧に仕立て上げた。
そしてそのノウハウと国とのコネクションを活用して、彼女は亜人が着やすい服のブランドを立ち上げることになる。
これこそが、やがて伝説となる女の始まりの一幕であった。




