コルのセレクト
「という訳でナノン、コルからの推薦でお前達姉妹を連れて行こうと思うのである」
バハメロは、相も変わらず顔を煤で汚しながら何かを組み立てているナノンにそう告げた。
コルの推薦は細かく言うならば、ミクノをパーティーを体験させてあげたい、それに伴い保護者ということでナノンも同伴すればちょうどいいのでは?というもの。
バハメロもそれに納得し、こうして鋼華の工房を訪れた。
「……うん、いいっすね!それだけのメンバーならそう危険はないはずですし。ミクノちゃんに美味しい物を食べさせてあげられるなら、私は反対する理由はないっす」
「して、そのミクノはどこであるか?」
「外で遊んでくるって言ってたっす。多分花園エリアっすね」
ロッサ号が停泊している城の庭は、元々花や植物が綺麗に手入れされていた。
ノヤリスの存在感が明るみに出るにつれて、団員達の自由行動範囲も増えた今、彼らは庭の中でも特に綺麗な区画の事を『花園エリア』と呼び、非戦闘員の団員達がその美しさを保つ為の管理に協力している。
バハメロとナノンは、ミクノを探しにその花園エリアに向かった。
そこにいた土いじりを得意とする団員、サチとキーンにミクノの話を聞き、しろい花の咲き乱れる溜池に辿り着く。
「いたいた。ミクノちゃーん」
「あれ、ナノねえ。もしかして、ミクノさがされてた?」
「ふっふ、お姉ちゃんにかかればすぐに見つけれるんだぞ〜。シェリーちゃんと遊んでたんすね。こんにちは」
「……こん、にちは……」
ナノンはできる限り優しい声色で、ミクノの隣に座っている白い一本角を持つ亜人の少女、シェリーに挨拶をした。
シェリーは以前、カトリスという亜人狩り組織相手の襲撃解放作戦にて、結果的にそこのボスの血液を頭から被ってしまった被害者であり、その後ノヤリスに保護されるも、大人の男性と血がトラウマになってしまっていた。
最初は食事も喉を通らない程怯え痩せていたが、歳の近いミクノが積極的に交流し、今では血色も少し良くなりこうして外に出る事もできる程度には回復した。
ナノンは二人の幼い少女にパーティーの話をした。
「シェリーちゃん。もし興味があったら私と交代で……」
「……」
シェリーは食い気味に首を横に振る。
表面上良い傾向が見られるとはいえ、まだ彼女のトラウマは完全に消えてはいない。
大勢の人がいるであろう場所に行くのは壁が高いだろう。
「いい……んです」
シェリーは本心から断っていたし、それをナノン達も理解していた。
そんな中で、ミクノはとても寂しそうな顔をしていた。
「……ラニねえからきいたの」
「?」
「なかのいいひととしばらくはなれたときは、『みやげばなし』をたくさんもってかえるといい、って」
「みやげ、ばなし……?」
「うん、たびさきのおもいで。たのしいのおすそわけのことだよ」
「……おすそわけ……うん、たのしみに……してるね、ミクノちゃん」
その時、シェリーが僅かに微笑んだのを、三人は見逃さなかった。
それから数日後。
ロッサ号の出入り口付近にて、レマンに向かう団員達を送り出そうと集まっていた。
しかしそれだけの為にしては数が多く、なにやらそわそわとしている。
その理由を、船内にいる8人は知っていた。
「全く、やかまし……コホン、騒々しいですね」
「無理もないっす、皆気になるっすよそんなの」
「うむ!まあ丁度いい!お披露目といこうではないか!」
バハメロが先陣を切り船の外へと足を踏み出すと、団員達の視線がぞろぞろと出てくる8人に集中する。
黒と紫がベースの、引き締まった印象をもたら
、統一感のある衣装。
服装自由が当たり前のノヤリスにおいて見慣れない整った雰囲気と、それに伴い全体から放たれる威厳を前に、周りの団員たちは一斉に息を呑んだ。
女性団員中唯一スカートでなくズボンのラニや、他より装飾の多いエミイ、普段使っている鞄より遥かにコンパクトな四角い鞄が背中についたナノン、他にもよく見れば細部にそれぞれの個性があるが、8人全員が同じ『制服』を身に纏っている。
今後こういった場面での活動を見越して、イーリスの名の元に発注された、先行実験的に8人分作られた特注品、ノヤリスの制服である。
皆に見送られ、ちょっとした有名人気分を味わった彼らは、城門前に待機していた遠征用の馬車に乗り、イーリスとリラーテと共に、隣国レマンの城へと向かうのだった。




