彼の国からの招待状
強い雨の降る日。
イーリスの元に、一通の手紙が届く。
彼女はその送り主を見て、にがい顔をしながらバハメロを呼び出した。
「……スーラ・ディー・レマン。レマン王国の現国王本人からの手紙……いえ、招待状です」
「ふむ、招待状。吾輩達は亜人保護の件でレマンに赴く必要があったのであるし、ちょうどいいではなかろうか」
「最初はそう考えました。しかし彼の王らしい傲慢さを隠さない書き方。『女王』に宛てたものではなく『私』に宛てたような内容、そして私だけではなく、『ノヤリスの団員』も数名様ゲストに招き入れる、と」
ノヤリスの存在はもはや世間に知れ渡っている。
隣国のレマン王が知っているのもおかしな話ではない。
だが、欲深い軍事国家のスーラ王からの招待であることがイーリスに不安を感じさせる。
「何かがあるとわかっていながら乗るしかない条件を出し待ち構える。あちらの先代が戦でよく用いた外交手段だそうです。……一手出し抜かれました」
「そのスーラ王とはそれほどの人物であるのか?」
「実際に見たのは幼い頃に一度だけです……ですがあの頃既に、彼は軍神如きの気迫を纏っていました。彼が王位を継いだのが乱世の時代では無かった事を、幸運と感じざるを得ません」
「ほう。それは一度見てみたいものであるな!いや、団員から何人か同行して良いとの事ならそれも叶うおう。うむ、手合わせは互いの立場上難しいかもしれぬが!」
(……スーラ殿、この目で見たのは幼き頃のみとはいえ、その武勇は耳に届いている。……バハメロさんを10、リラーテを6から8くらいとすれば、今の彼は安定した9.5と言った所でしょうか……もし、もし衝突するようなことがあっては……)
「他にも何か懸念が?」
イーリスははっとし、一度余計な事を考え込むのを止めた。
普段であれば、このように人との会話中に黙って考え込むような事をする人物ではない。
しかし、残るレマンと亜人保護法に関する協定を結べれば、一つの大きな目標を達成できる。
故に、レマンは最後の壁、イーリスはここ数週間、いつもより遥かに思考を巡らせ続けていた。
「……いえ、失礼しました」
イーリスは疲労を誤魔化すように軽く咳払いをし、話を戻した。
「何かしらの企みがありそうですが、レマンの重役が集まる場で、ノヤリスの団員も同行可とわざわざ記してあるのを見るに、ただの暗殺目的とは考え難いですので。パーティーには参加しようと思います。バハメロさんの仰る通り、例の件についての話をする為にもいい機会です」
「うむ、念の為同行する団員も護衛として力を貸そう。……ちなみにイーリス、吾輩の知るパーティーは団員の皆で楽しく騒ぐ事である。おそらく今回はそうでは……ないのであろう?」
「……ええ、あまり大騒ぎするものではないかと。難しいマナーを要求されはしないと思いますが」
「チャシあたりは連れて行けぬな、吾輩も自信は無いが。ところで何人くらいに声をかけるべきであろうか」
「私とリラーテ、バハメロ様……あと6、7人といったところでしょうか……。選出はそちらに一任します。決定したらリラーテに名簿を渡していただけますか?」
「うむ、任された!」
「ありがとうございます。では最後にもう一つ。身体測定をさせていただいても?」
「うむ!……む?」
「リラーテ、あれを」
イーリスが合図をすると、後ろで存在感を消して待機していたリラーテが測りを持ってバハメロににじり寄る。
「ではバハメロ様、衣服をお脱ぎください」
「ちょっと待つのである!吾輩の鍛え抜かれた身体に恥じる部分は無いのだが、いざ人に数値化されるとなると心の準備が……」
無慈悲にもバハメロはリラーテにより全身をくまなく計測、数値化された。
計測中、カーテンの向こうでリラーテが何度も『肉体美』『騎士の理想形』『羨ましい筋肉』と褒め続けるのを聞き、イーリスはプライバシー保護の名目で記録を確認できない事に多少の残念さを感じてしまったのだった。




